第3戦・中国GP決勝はレース中盤を過ぎて各車ピットストップを終えたところで膠着状態となり、弛緩した雰囲気が漂い始めた。そんな34周目、4位のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)がピットに飛び込んだことで、レースは再び動き出す。これ…

 第3戦・中国GP決勝はレース中盤を過ぎて各車ピットストップを終えたところで膠着状態となり、弛緩した雰囲気が漂い始めた。そんな34周目、4位のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)がピットに飛び込んだことで、レースは再び動き出す。これに反応して、3位のセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)もピットインし、ワンツー体制を固めていたメルセデスAMGの2台も続いてピットインした。

 結果的に順位の変動はなかったものの、1ストップ作戦が定石と見られていた中国GP決勝は、レッドブルのアグレッシブな戦略によって再び緊張感が生まれた。



レッドブル・ホンダは2ストップ作戦でジャンプアップを図った

 レッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表はこう語った。

「我々のピットストップが、2ストップ作戦に移行するライバルたちの引き金を引いた感じだったね。我々の作戦はレースのかなり早い段階で決まっていて、自分たちのレースを最も速くするためには2ストップ作戦が必要だとわかっていた。ライバルたちが1ストップ作戦をキープするなか、セーフティカーが入ればチャンスになると考えていたんだ」

 それは昨年、同じく中国GPでレッドブルが奇跡的に優勝したのとまったく同じ戦略だった。古いタイヤをいたわりながら1ストップで走り切るライバル勢に対し、2ストップでフレッシュなタイヤを履いたことがセーフティカー導入後の快進撃につながった。

 今年もレッドブルは、その再現を狙っていた。1回目のピットストップを17周目という早いタイミングで行なったのは、そのためだった。

 それはアグレッシブな戦略ではあるが、逆に言えば、今のレッドブル・ホンダは”奇襲作戦”を採るしかなかった、ということでもある。

「今日の我々には、フェラーリほどの速さがなかった。だから、少なくともフェラーリの1台を食うためには、2ストップ作戦が必要だったんだ。我々のピットインを見て、セバスチャンがもう1回ピットストップをするかどうかチームと話し合い、彼がピットインしたらメルセデスAMGもピットインした。だから(同じ戦略となって)我々としては4位が最大限の結果だったよ」

 ルノー製パワーユニットを搭載していた昨年序盤のレッドブルは、上位2強との間に大きな差があり、度々こうした奇襲戦法で活路を見出そうとしてきた。同じ戦略で戦っても勝てるチャンスが皆無なら、少しでも可能性があるほうにチャレンジするのが、彼らのやり方だからだ。

 ホンダとタッグを組んだ今のレッドブルも、それと同じ状況にある。奇しくも1年前、奇跡的に勝利を収めたこの中国で、そのことを自ら証明してしまった。

 時間切れとなってしまった予選最後のアタックが果たせていれば、フェラーリ勢を食って「3位か4位になれたのではないか」と言っていたフェルスタッペンも、決勝を終えた後はフェラーリに負けたと認めざるを得なかった。

「セブ(ベッテル)がピットアウトしてきた直後の、タイヤが温まっていないうちはいいバトルができたし、1回はオーバーテイクを仕掛けることもできた。だけど、そのあとは彼と戦うだけのペースはなかった。一生懸命プッシュしたので結果には満足だし、毎戦それなりにまとまったポイントを取ることができるポジションにはいるけど、メルセデスAMGやフェラーリと戦うにはもう少し速さが必要だ」

 前戦バーレーンGPで抱えたグリップ不足の症状に関しては、メカニカル面のセットアップに問題があったことを究明し、中国GPではしっかりと対策をしてマシングリップを最大限に引き出してきた。

「バーレーンではクルマの持っているグリップ範囲から外れてスライドしていたけど、今週はセットアップの問題を解決することによって解消することができた。バーレーンではかなり妥協を強いられてしまったけど、今週は問題が解決できているから戦闘力がある」

 予選後、フェルスタッペンはそう語っていたが、純粋な速さでは2強に後れを取った。開幕から3戦目にして初めて、低速から高速までさまざまな速度域のコーナーがあるサーキットで走った結果、現在の勢力図をはっきりと突きつけられた。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは、冷静に状況を見ていた。

「(2強を)食えたかもしれないというだけで差はありますし、レースペースも徐々に離されていくところがありましたから、予選ペースもレースペースも両方ともにまだ差があると思います」

 この勢力図は、最もマシンの実力を映し出すサーキットであるバルセロナで走った開幕前テストの段階から、ある程度わかっていたという。

「バルセロナでテストが始まった瞬間から厳しいなと思っていました。ですから、『あわよくば(勝てるかも)』とも思っていませんでしたし、バルセロナも含めて4カ所で走行をしてみて、勢力図は明確になってきていると思います。残念ながらこれが現状の実力ですし、驚いてはいません」

 フェラーリが予選モードの出力面で大きく他社を凌駕していることもある。しかし、メルセデスAMGがトータル性能でフェラーリを凌駕している以上、パワーユニット性能もさることながら、車体性能がより求められることは明らかだ。とくに上海のような一般的なグランプリサーキットでは、その傾向が強くなる。

 その点において、リアのグリップ不足が顕著で高速コーナーが速く走れないRB15の現状は厳しい。パワーユニットで多少の後れを取ろうとも、車体性能でそれ以上にゲインしてライバルに勝つというレッドブルの狙いは、大きく外れてしまっている。

 第5戦・スペインGPをターゲットとした次の大型アップデートで、どこまでそれを取り戻すことができるか。

「最低でも昨年以上の5勝」という開幕前の目標が大きく報じられたが、それはレッドブルのモータースポーツ統括者ヘルムート・マルコが語った個人的な思惑でしかない。チームとしての公式見解は、「トップとのギャップを縮めること」と言い続けている。

 その目標は今も変わらないと、ホーナー代表は語る。逆に言えば、まだまだ今のレッドブル・ホンダの力は2強に及んでいないということだ。



トロロッソ・ホンダのパワーユニットにはトラブルが発生

「ヘルムートは楽観的で前向きな見方をしたい人間だからね。しかし、まだ3戦が終わっただけでしかないし、『チームとして何勝したいか』といった具体的な目標は何も設定していない」

 一方でホンダは、金曜フリー走行でトロロッソのダニール・クビアト車のパワーユニットに発生したトラブルの原因究明と対策も急がなければならない。

 データ上で異常なセンサー値を検出したため交換したというが、実際には「簡単なセンサー交換で対応できるレベルではない」(田辺テクニカルディレクター)とわかっており、主要コンポーネントにダメージを負っていることは把握しているようだ。

 金曜の昼にマシンから降ろして保全したそのパワーユニットだが、通関の都合上HRD Sakuraに到着するのは水曜日になるという。その翌週の火曜日の朝には、次のバクーへ送り出すパワーユニットをロンドンの空港に持ち込まなければならないため、対策に費やせる時間は実質的に5日間もない。

 開幕から3位、4位、4位と、現状でできうる限りの結果は手に入れてきた。しかし、レッドブルにとってもホンダにとっても、今置かれた状況は決して楽なものではない。目指しているのが頂点であるからには、この程度の結果に満足していることはなく、むしろ危機感を持ってさらなる改善に全力を尽くしている。