まずは単純に、見ていて面白い試合だった。 J1第7節、横浜F・マリノスvs名古屋グランパスは、1-1の引き分けに終…

 まずは単純に、見ていて面白い試合だった。

 J1第7節、横浜F・マリノスvs名古屋グランパスは、1-1の引き分けに終わったが、お互いがチャンスを作り合い、ゴール前での際どいシーンが繰り返された試合は、「どっちにも勝つチャンスがあった。(勝敗が)どっちに転んでもおかしくなかった」(横浜FM・MF喜田拓也)。

 名古屋の風間八宏監督曰く、「すごく緊迫したいいゲーム」。また、横浜FMのアンジェ・ポステコグルー監督曰く、「両チームともアグレッシブに攻め合ったいいゲーム」。両指揮官とも、勝てる試合だったという悔しさを吐露しつつも、この一戦をそう評した。



面白いサッカーを見せているF・マリノス

 試合前から好ゲームの期待はあった。

 前節終了時点、勝ち点12で3位の名古屋と、勝ち点11で5位の横浜FMの上位対決というだけでなく、ボールを保持して攻撃的に試合を進めることを得意とするチーム同士の対戦だったからだ。

 だが、試合は少々意外な形でスタートした。

 低い位置からパスをつなぎ、攻撃を組み立てようとする横浜FMに対し、名古屋は前線からボール保持者にプレッシャーをかけてパスコースを限定し、パスカット、あるいは、横浜FMのミスを誘って、チャンスを作り出した。

 試合開始8分にして名古屋が奪ったPKによる先制点も、そんな流れのなかで生まれたものだ。

 もし、ここで横浜FMが名古屋のプレスを嫌がり、ひとまずロングボールでその場をしのぐ戦略を採っていたら、試合はまったく異なる展開になっていた可能性もある。面白い試合にはならなかったかもしれない、ということだ。

 しかし、あくまでも横浜FMは、自分たちがボールを保持して試合を進めることにこだわった。喜田は、さも当然のように語る。

「状況によってはクリアも必要だが、勇気を持ってつなぐことが大事。相手が(プレスを)ハメてくるのに対して、どうビルドアップするか。(事前に分析しても)試合が始まってみないと、相手がどう出てくるのかわからないが、チームとして少しずつアジャストしていけた」

 前半20分の横浜FMの同点ゴールは、電光石火のカウンターアタックから生まれたものだったが、その起点となったのは、押し込まれる展開のなかでも、DF畠中慎之輔が落ち着いてMF三好康児へと通した縦パスである。

 一見、試合は名古屋が優勢に進めていたように見える。横浜FMは思うようにパスをつなげず、苦しんでいた。

 だが、見方を変えれば、ボールを保持していたのは、常に横浜FMのほうだ。名古屋の風間監督が語る。

「とくに前半は、何人かの選手が相手を受け入れ、”相手のパズル”になってしまい、ボールを持つことを止めていた」

 いかにも風間監督らしい表現だが、要するに、うまく相手のパズルを解いている(プレスをかけている)ように見えても、パズルを作っているのは、ボールを保持している側である。その意味で言えば、主体的にゲームを進めていたのは、横浜FMのほうだった。

 つまりは、ポゼッションにこだわった攻撃志向の強いチーム同士の対戦が、期待どおりの好ゲームとなった最大の要因は、横浜FMが自分たちのスタイルを貫き通したことにある。

 従来、ポゼッション重視の攻撃的スタイルと言えば、川崎フロンターレを率いた時代から続く、風間監督の代名詞だったが、その”本家”を後手に回らせるほどの、横浜FMの徹底ぶりだった。柔軟なポジション取りで横浜FMの攻撃を支えた、DF広瀬陸斗が語る。

「相手に関係なく、今までどおりの立ち位置で、いつもどおりのサッカーをやっただけ。プレッシャーがかかっても、スペースを見つけて連動してパスをつなぐ。(相手のプレッシャーを避けるため)蹴ろうと思えば、いつでも蹴れるが、自分たちのサッカーをして勝たないと意味はない」

 ポステコグルー監督は感情を顔には出さず、淡々とした口調ながらも、自信に満ちた言葉を口にする。

「自分は監督として、今まで攻撃的なサッカーを一度も止めたことがない。信じるサッカーを続けるだけ。もちろん結果も大事だが、見る人がワクワクするサッカーをやりたい」

 横浜FMの徹底したこだわりは、1-1で迎えた試合終盤の選手交代にも表れていた。

 後半25分、先に動いたのは名古屋だった。ボールを収めることのできるMF和泉竜司に代え、ドリブラーのFW相馬勇紀を投入。もう1点を取るための手としては一般的で、非常にわかりやすい交代策である。

 一方、横浜FMは後半36分、FW遠藤渓太に代えて、MF扇原貴宏を投入。中盤を厚くし、よりボール保持率を高めたうえで、相手を押し込むことを狙った。結果として、どちらがより有効だったかはともかく、自らのスタイルへのこだわりという意味では、ここでも横浜FMは”本家”以上に際立っていたように見える。

 もちろん、そこには、「我々にはビッグクラブのような予算はなく、そのなかでチーム編成をしなければならない」(ポステコグルー監督)という事情もある。

 指揮官は「(個人に頼るのではなく)チームとしてアタッキングフットボールを目指す」と言うが、FWジョー、MFガブリエル・シャビエルといった、J1屈指の助っ人を獲得できる名古屋などとは手持ちの駒が違う以上、そうせざるを得ない面があるのも事実だ。

 MF天野純が「ゴール前までは進入できているので、(それを得点につなげるために)個人の質を上げることが大事」と話すように、スタイルの確立が実感できているだけに、それが得点に結びつかないもどかしさも、確かにある。今季J1での、これまでの7試合を振り返っても、チャンスの数とゴールの数が釣り合わない試合が少なくない。

 だが、平均年齢24.64歳(名古屋戦の先発メンバー)という若いチームは、右肩上がりの成長途上にあり、今後の楽しみも大きい。悔しさの残る引き分けも、現時点では、「名古屋は個人個人がうまく、強かった。その相手と互角のゲームができたことは収穫だった」(天野)と、考えていいのではないだろうか。

 ポステコグルー監督は、何度も「courage(勇敢)」という言葉を口にして言った。

「自分たちが目指すサッカーを信じ、ミスを恐れず、勇敢に立ち向かうことが重要だ」

 少なくとも、横浜FMの勇敢さを示すに十分な試合であったことは間違いない。