サッカーの見方は人それぞれで、評価のポイントも千差万別だろう。試合後に同業者と話をしていても、「そうだったよね」と…

 サッカーの見方は人それぞれで、評価のポイントも千差万別だろう。試合後に同業者と話をしていても、「そうだったよね」と相槌を打ちながらも、内心は「そうだったか?」と突っ込みを入れたくなることは多々ある。



7試合を終えて4勝2敗1分と好調をキープしている名古屋グランパス

 もちろん、自分の意見がすべて正しいとは思わないし、相手の意見もまたしかり。それぞれがそれぞれの見方や意見を備えているからこそ、サッカー談義に花が咲く。そして、その議論は多くの場合は、相容れることなく、もやもや感だけを腹の奥底へと残していく。

 さまざまな見方があるからこそ、サッカーは面白い。つまり正解はないのだ。何がよくて、何がよくなかったか。その判断基準は、自分なりの物差しに任さればいい。

 と、前置きが長くなったが、いよいよ今回ばかりは自分の目を疑ったほうがいいんじゃないかと思ってしまった。

「とくに前半は、相手を受け入れてしまった。全員ではないですが、何人かの選手が相手を受け入れてしまった。いつの間にか、頭が相手のパズルになっていた」

 試合後の風間八宏監督のコメントを聞いた時、自分は果たしてこの試合を本当に見ていたのかと、錯覚に陥ったほどだった。

 4月13日、日産スタジアムで行なわれた横浜F・マリノスと名古屋グランパスの一戦。前半の主導権を握っていたのは、名古屋のほうだった。筆者には、そう見えた。

 攻撃スタイルを標榜する両者は、昨季はともに残留争いに巻き込まれたものの、今季は開幕から好調を維持し、順位表の上位に顔を出している。質の高いパフォーマンスを続ける両チームの一戦は、間違いなく今節の最大の注目カードだっただろう。

 試合はその期待感に見合った内容だった。互いにリスクを恐れず敵陣にパスを通し、質の高い個人技とコンビネーションを駆使して相手ゴールに迫っていく。開始早々にジョーのPKで名古屋が先制すると、20分に横浜FMが鋭いカウンターからマルコス・ジュニオールが決めて同点に追いつく。後半も両チームに多くの決定機が生まれるエキサイティングな攻防が繰り広げられたが、結局互いに決め手を欠き、勝ち点1を分け合う結果となった。

 より攻撃性を示したのは、名古屋のほうだった(はずだ)。躊躇なく縦パスを入れ、ジョーと長谷川アーリアジャスールの前線がしっかりボールを収めて3人目に展開。中だけでなくサイドも駆使して、横浜FMゴールに迫った。

 なかでも際立ったのが、ブラジル人トリオのクオリティだ。今季加入したジョアン・シミッチは卓越したパスワークでリズムを刻むとともに、鋭い対応で米本拓司とともに即時奪回に貢献。PKで先制点を決めたジョーは懐の深いポストワークで味方の攻め上がりをうながし、ガブリエル・シャビエルは右サイドからの鋭いカットインで決定的なシュートを次々に見舞っていく。

「そこに入れるか」と思わず唸ってしまったJ・シミッチのスルーパスからジョーが右に展開し、G・シャビエルがフィニッシュに至った39分の決定機は、まさに3人のよさが示された見事な連係だった。

 そうしたシーンもあり、サイドチェンジ1本で決定機に持ち込む場面あり、高い位置のボール奪取からショートカウンターを繰り出す場面ありと、前半は名古屋のほうが押し込んでいるように見えた。全体がコンパクトさを保ち、全員が相手コートに位置取るなど、名古屋が目指すハーフコートマッチを体現する時間帯もあった。

 だからこそ、風間監督のコメントが、どうにも腑に落ちなかったのだ。

 後半も多くのチャンスを作った一方で、流動性と連動性を増した横浜FMに押し込まれる場面が増えた。シュートの数も前半は10対4だったのに対し、後半は5対8と劣勢に立たされている。印象論だけでなく、数字上でも前半のほうが相手を押し込んでいたはずだった。

 しかし、指揮官の見解は異なる。

「前半は相手のパズルを受け入れて、自分たちがボールを持つことをやめた選手がいた。あまりよくなかったのですが、後半は少し変わって自分たちの力を示してくれた。そういうところです。何かひとつをやればいいというわけではなく、ひとりひとりがしっかりとした自分の判断と自信を持ってやってもらいたい」

 なんと、ハイレベルな要求だろうか。相手の出方に合わせてしまうのではなく、自分たちからアクションを起こせということだろう。そこには、ボールの運び方やポジショニング、プレーの判断、守備対応など、さまざまなポイントが含まれているはずだ。ゴールに向かう過程を指揮官は大事にしているのだろう。

 選手たちもおおむね、前半のプレーについて反省の言葉を並べた。

「前半は相手の攻撃を受けることが多かったけど、後半は自陣からつないでいけるとこともあったので、そこはよくなってきている」(和泉竜司)

「前半よくなかったぶん、後半はボールをつなげて本来の形ができた。それを前半からやらないといけなかった」(丸山祐市)

「前半は向こうのペースが速かったので、1−1のスコアだったけど、うちが負けている感じはあった」(中谷進之介)

 やはり、筆者は試合を見ていなかったようだ。前半の名古屋は押し込んでいるように見えて、明らかな不具合が生じていたのだ。相手の速い攻撃に押され、受け身となり、思ったようにボールを運べない。理想とするサッカーを示せないながらも多くのチャンスを作れたのは驚きに値するが、それでは誰も満足していないのだ。

 指揮官が求める理想は驚くほど高い。今季サンフレッチェ広島から加入した千葉和彦も、「毎日楽しいですよ」と目を輝かせる。3度の優勝経験のあるベテランDFも、風間監督の指導を受けながら、出場機会を得るために日々新たな学びを得ていることを明かした。

 連覇を成し遂げた川崎フロンターレの礎を築いた名将は、ここ名古屋でも着実に改革を推し進めている。風間革命3年目、理想郷へと向かうその進化のスピードは、おそろしく速い。見ていたはずのものが、見ていなかったと錯覚するほどに。