今年の夏は「スーパー1年生」という言葉が多く飛び出した。再来年の100回大会の3年生になる世代は、大会前から注目を集めてきた。数ヶ月前まで中学生だった選手が、なぜここまで好結果を残すことができるのか。■情報の多様化でトレーニングや理論、指導…

今年の夏は「スーパー1年生」という言葉が多く飛び出した。再来年の100回大会の3年生になる世代は、大会前から注目を集めてきた。数ヶ月前まで中学生だった選手が、なぜここまで好結果を残すことができるのか。

■情報の多様化でトレーニングや理論、指導者がレベルアップ

 第98回夏の甲子園の地方大会も大詰め。各地で代表高校が続々と決まっている。今年の夏は「スーパー1年生」という言葉が多く飛び出した。早稲田実の1年生4番・野村大樹内野手、横浜高校の万波中生外野手は、夏の公式戦1号を放った。再来年の100回大会の3年生になる世代は、大会前から注目を集めてきた。

 数ヶ月前まで中学生だった選手が、なぜここまで好結果を残すことができるのか。大体の選手は中学校時代(シニアやボーイズなど)、すでに全国大会などに出場経験があり、自分に自信を持ってプレーできている。U-15日本代表など、世代のトップとして国際大会などを経験。高校入学時点で度胸も人一倍大きい選手も多い。また、情報の多様化で、ジュニア期の選手でも高いレベルのトレーニングやフォーム、考え方、取り組みをウェブや書籍などで知ることができる。指導者のレベルが上がっているのも、1つの要因だろう。

 ただ、一番大きいのは、伸び伸びとプレーできている環境作りにある。兵庫の名門・報徳学園の小園海斗内野手は1年で遊撃のレギュラーを獲得し、1番打者で起用されると、非凡な打撃センスを見せた。報徳は準々決勝で市尼崎に敗れ、惜しくも甲子園出場はならなかったが、「1日でも3年生と長く野球がやりたかった。もう一緒にできないと思うと悲しい」と負けを悔やんだ。1年生がレギュラーに割って入ってきても、上級生はそれを受け入れ、試合に挑む小園に「1年なんだから、思い切って全力でいけ」と背中を押し続けた。小園は「『失敗してもカバーしてやる』とか、『気持ちを切り替えろ』とか、すぐに声をかけてくれて、とても助かりました」と感謝する。

■レギュラー1年生のハツラツプレーを支える懐深い上級生の存在

 西東京で4強に進出した創価高校は9人のスタメンのうち、1年生が4人いた。浪川広之外野手は3番に座り、準々決勝では決勝の本塁打を右翼席へ放った。惜しくも甲子園には届かなかったが、新しいチームで早くも来年に向けて一歩を踏み出している。「先輩たちが本当に優しい人ばかりで助けてもらいました」と振り返る浪川には、同じ外野手でレギュラーを譲った先輩たちが、守備のことを惜しげもなく助言していた。上級生の理解があり、チームが一丸になったことで、さらに選手として力をつけた。

 昨夏の甲子園で大暴れした早稲田実・清宮幸太郎内野手がそうだったように、1年生の野村も清宮をはじめ、主将の金子らにアドバイスをもらい、思いきってプレーした。相手投手のタイプを理解した清宮から、アドバイスを送られることもあった。リーダーシップの取れる金子から、打席に入る前に「俺たちがついているからつないでくれ」と言われ、闘争本能に火がついた試合もある。チーム全体で1年生を誰一人として孤独にはさせなかった。長い歴史の中で1年生を抜擢することが多い早稲田実にあって、実力を遺憾なく発揮できる方法は、下級生がやりやすい環境をつくっているからと言えるだろう。

 彼ら1年生が、地方大会でレギュラーとして戦えた背景には、3年生ら上級生の日頃からの支えがあった。理不尽な上下関係の時代は終焉を迎え、新しい時代に差し掛かっている。1年生たちが感謝の気持ちを強く感じているからこそ、敗戦すると悔しさがこみ上げるのだろう。引退する3年生よりも下級生の方が号泣しているシーンが多い。彼らルーキーのこれからの活躍が、支えてくれてきた先輩たちへの恩返しとなる。