4月12日のフィギュアスケート世界国別対抗戦の男子フリー。宇野昌磨は、彼の気持ちが存分に伝わる演技を披露した。

 前日のショートプログラム(SP)を終えた宇野はフリーへ向け、「ジャンプ構成をガラッと変えるつもりです」と話した。



世界国別対抗戦で日本の2位に貢献した宇野昌磨

「跳べるものも跳べないものもあると思うし、チームに迷惑をかけたくないけど、挑戦は止めないです」

 そして、その挑戦を「楽しみにしているわけではないですが、自分のためにやりたい」とも述べた。

「メダルを逃した世界選手権の悔しさを晴らしたい気持ちはない」。そう話した宇野が、この大会でやろうとしたことが”挑戦”だった。具体的には、フリーで4回転フリップを2本入れ、「トリプルアクセル+4回転トーループ」という大技に挑むことだ。

「今回はそんなにまとめにいかなくてもいいのかな、と思ったことが、トリプルアクセル+4回転トーループをやってみようと考えた理由です。大会に来た時はまだはっきり決めていなかったけど、プログラムを始めた時にはやるつもりになっていました」

 冒頭から2本続いた4回転フリップは、これまで彼がよく口にしていた「気合いで跳んだジャンプ」でもあった。1本目はSPでやろうとしてできなかった3回転トーループを付けた連続ジャンプにし、単発の2本目は4.09点の加点をもらうジャンプ。力強い滑り出しで、前半はノーミスでこなした。

 だが後半は、「練習していないことは本番ではできない、ということがわかったし、だからこそ練習はたくさんやらなければいけない。どれだけ試合でうまくいかなくても(練習は)やらなきゃいけない、とあらためて思いました」と話していたとおりのミスが続いた。

 最初の4回転サルコウが回転不足でステップアウトになると、次のトリプルアクセル+4回転トーループは4回転トーループで左側に飛ばされる形になって転倒。さらに3連続ジャンプを予定していたトリプルアクセルで着氷を乱してしまった。しかし、1オイラー+3回転フリップを最後の3回転サルコウに付けてリカバー。結果はネイサン・チェンとビンセント・ジョウ(ともにアメリカ)に次ぐ189.46点の3位だったが、納得の表情を見せた。

「今日は演技中にいろんなことをつぶやいていました。演技が終わった時は『きつい』と言った気がするし、サルコウでミスをしたあとは『これは無理でしょう』とつぶやきながら滑っていました。

 今日はアクセル+フリップをできなかったので、これまでやったことがないサルコウ+フリップを『やるか…』、とひと言残して跳びにいったり……。サルコウが終わった時点でアクセル+トーループを跳ぶ体力はないと思ったので、跳べないのはわかっていたけど、『やるしかない』と思いました。それでそのまま左にぶっ飛んでいって転倒したけど、一応回転はしていると認定されていたので、今後も入れていきたいと思います」

 体力や気持ちなど、自分が持っているすべてを絞り出した演技だったのか。そう問うと宇野はこう答えた。

「あの構成での練習をしたことがなかったので、いい、悪いの評価をしようがないんですけど、明らかに体力不足だったなと思います。世界選手権が終わってから、自分にとっては長いと思える悔しい期間や辛い期間がありました。でも、その間にアイスショーがあって、そこで年齢が近い選手たちと話したり交流したりして気持ちが吹っ切れた。それで、『自分はうまくなりたいんだ』という強い想いを持って練習を始めました。すぐにこの試合だったので、大きく変わったところはとくにないし、気持ちが強くなったところもないけど、ここからスタートしていければと思います」

 爽やかささえ感じさせる表情で話す宇野は、今回の演技で見えてきたものがあるか、という質問に対してこう答えた。

「僕は、基本的にいいところより悪いところにしか目が向かないので……。とりあえず、今日のフリーは走った、という感じでした。ジャンプを跳ぶことだけを意識して、休んで走って跳んで、とプログラムとしてはぜんぜんなっていなかったし、体力が足りなかった。でも、僕は自分にも人にも負けたくないし勝ちたい。だから、もっとうまくなりたいと……、『強くなりたい』じゃなくて『うまくなりたい』と思いました。

 技術的なものや精神的なものは変えずに、しばらくはこのままで行こうと思います。弱い自分も強い自分もいるけれど、弱いところが出てもそれにしっかりと対応できる練習を積んでいけばいい。世界選手権の悔しさを強く心に刻んで、ここからスタートしていきたいと思います」

 今季の宇野は、強くなりたい、勝ちたい、という気持ちを前面に押し出して戦おうとしていた。だが、今はうまくなりたい気持ちの方が大きいという。勝つために他者と自分を比較するのではなく、うまくなろうとすることで自分のフィギュアスケートをさらに追及できる気持ちになったのだろう。そしてそれが、強さや勝利につながる。

 そんな気持ちになったからこそ、ジャンプに対する意識も変わったようだ。

「今シーズンはルールが変わったこともあって、跳べるはずのジャンプを何回も練習せずに1年を過ごしました。でも、男子の成長はとてつもなく早いし、自分もまだ成長していかなければいけない。それを世界選手権で強く思いました。トリプルアクセル+4回転トーループもすぐには武器にならないかもしれないけど、何年かけても自分の武器にしていきたい。僕はこれまで、『ケガをするから4回転以上のジャンプはやらない』と言ってきたけど、ルッツも含めてそれ以上のジャンプも視野に入れ、練習をしていきたいと思います」

 そして「あまり公言はしたくないんですけど」と言って、宇野はこう続けた。

「4回転アクセルは僕にはあまり向いていないと思っているけど、4回転トーループは回り過ぎるので、『それ』をちょこっとだけ練習してみようと思っています」と、5回転への挑戦を匂わせたのだ。

 自分らしさ、という新たな挑戦への決意。世界国別対抗戦で宇野は、そんな前向きな姿勢を見せてくれた。