身体中にセンサーを付けた青木康平が「プロの妙技」を披露東京都北区西が丘にあるJISS(日本スポーツ科学センター)は、日本のスポーツの国際競技力向上を目的として、先端的な研究や支援を数多く行っている機関だ。7月某日、そのJISSの体育館に青木…
身体中にセンサーを付けた青木康平が「プロの妙技」を披露
東京都北区西が丘にあるJISS(日本スポーツ科学センター)は、日本のスポーツの国際競技力向上を目的として、先端的な研究や支援を数多く行っている機関だ。
7月某日、そのJISSの体育館に青木康平がいた。上半身裸で、頭頂部から両足を包むバッシュにまで数多くのセンサーが付けられている。カメラが撮影した映像から動きをコンピュータに取り込む『モーションキャプチャ』の技術で、バスケットボール選手の動きをデータ化し、分析しようというのが狙い。『REAL ABILITIES』代表の浦伸嘉(現広島ドラゴンフライズ代表取締役)が数年前に発案した企画が、ようやく形になった。
JISSのスポーツ科学研究部と東京大学の合同研究。その素材として選ばれたのが、日本トップクラスのテクニックと精度を誇る青木だった。シーズンオフで、現在は契約切れの身でもあり、「真剣勝負のバスケからはしばらく遠ざかっている」と言う青木だが、ものものしい研究設備に囲まれたことでスイッチが入ったようだ。
何十台もの高精度カメラに囲まれた中、青木はフリースローを次々と決めていく。100本中99本成功──。最初は固唾を飲んで青木のシュートを見守っていた研究員たちも、あまりに高いシュート成功率(99%)を目の当たりにして、最後は笑ってしまっていた。
しばしの休憩を挟んで、今度は3ポイントシュート。データ収集のために指定された位置で両足を踏み切らねばならず、その感覚をつかむのにやや苦労したようだが、それでも青木は50本中47本を沈めた。ノーマークで、なおかつ自分のタイミングで打てる練習ではあるとはいえ、成功率は実に94%である。
動きをデジタルデータとして取り込むためのセンサを身体に取り付ける作業は極めて慎重に行われた。
メダルを取るような超一流の選手は筋肉の使い方が違います
東京大学の大学院で運動制御/学習論を研究する工藤和俊准教授は「オリンピックに出るような一流選手と比べても、そこでメダルを取るような超一流の選手は筋肉の使い方が違うものです」と言う。
これまでに様々な競技のトッププレーヤーの筋肉の使い方、動きを記録し、分析してきた工藤准教授は、青木の動きをこう分析する。「シュートをリリースするまでの動きは決して一定していません。足も体も柔らかくなめらかにユラユラと動いています。それでも、最後はピタリと同じ動きに収まる。そのコーディネート能力は超一流の選手に共通したものです」
「他のスポーツ選手と比較しますと、射撃の選手に似ています。射撃の選手は足から上体にかけてカチッと固まっているわけではありません。リラックスして、小さく動いているのですが、銃を持つ手はピタリと止まっています。それで正確な射撃ができるのです」
JISSで今回の研究を担当する稲葉優希研究員も「すごかったです。1本目から感覚をつかんでいて、最高のデータが取れました」と、高い期待をさらに上回った青木の技術の正確性に驚いていた。ただ、稲葉研究員の仕事はこれからだ。「青木選手の動きのデータを分析すれば、普遍的なものが見付かるはずです」
一方、青木の『仕事』はこれで終わり。セッティングも含めて4時間、シューティングには最大限の集中で臨んだだけに「久々ということもあって、すごく疲れました」とぐったり。それでも、バスケ界の発展に大きく貢献するかもしれないデータを提供したことに満足していた様子だった。
日本スポーツ界を支える研究機関がバスケットボール選手の技術を分析することで、今までにない「上達のノウハウ」を次世代の選手に提供できるかもしれない。東大大学院とJISSの取り組みに今後も注目したい。
眼球の動きと身体の動作を関連付ける研究のため、眼球や視点の動きのデータ収集も行われた。