サーキット・オブ・ジ・アメリカス(COTA)で行なわれたインディカー・シリーズ第2戦、佐藤琢磨とグレアム・レイホールを擁するレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(RLL)のマシンに優勝を狙う力はなかった。第3戦のバーバー・モータースポーツ・パークもCOTAと同じく常設ロードコース。そこで琢磨たちは、マシンのセッティングで新たな試みを行ない、金曜日の最初のプラクティスを走った。感触はまずまずだったようだ。



インディカー・シリーズ第3戦で優勝した佐藤琢磨

 しかし、金曜午後のプラクティス2で、RLLはマシンを正常進化させることができなかったばかりか、方向性を見失いかけた。その原因はソフト・コンパウンドのレッド・タイヤにあった。昨年と同一スペックが供給されるということだったが、生産から時間が経っていたためにコンパウンドが硬く変化し、想定していた性能を得られなかったのだ。

 ここでエンジニアやドライバーが混乱に陥れば、惨憺たる週末を送ることになる。しかし、RLLは適切に対応し、予選を前にしたプラクティス3では琢磨が5番時計をマークした。レイホールはコースアウトでセッションを終えたが、それはマシンの感触がよかったためにアグレッシブになりすぎたからだった。

 全チームに本来のスペックのレッド・タイヤが投入された予選。琢磨とレイホールはQ1、Q2をクリアし、揃ってファイナルに進んだ。2人とも今シーズン初のファイナルだ。

 他の4人はジェームズ・ヒンチクリフ(アロー・シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)、スペンサー・ピゴット(エド・カーペンター・レーシング)、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)、セバスチャン・ブルデイ(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・バサー・サリバン)だった。

 今年のバーバー・モータースポーツ・パークの路面は、昨年のものと比べてグリップが大幅に低下しており、チーム・ペンスキーとアンドレッティ・オートスポートという、このコースを得意としてきた強豪2チームが対応し切れなかった。驚いたことに、両チームのドライバーは誰ひとりとして予選のファイナルに進むことができなかった。開幕から2戦、連続でポールポジションを獲得したウィル・パワー(チーム・ペンスキー)でさえ、予選7位だった。

 予選ファイナルは、ユーズド・レッドをどれだけうまく使えるかが勝負になる。3段階ある予選だが、レッドは2セットしか供給されないからだ。ここで琢磨は、ブラックでの連続周回にトライ。しかし、その判断が正解ではなかったと気づくと、ピットに滑り込んでレッドにスイッチし、すぐさまコースに戻った。

 ウォームアップ1周の後、計測可能なのは1周だけだった。それが成功しなければ、次のラップにはレッドのグリップはもう低下していただろう。琢磨はその1周だけしかないチャンスをものにして、ポールポジションを獲得した。琢磨がトップの座から押し出したのはチームメイトのレイホールだったから、RLLがフロントローを独占することになった。

 これまでの2戦で思いどおりのパフォーマンスを発揮できずにいたRLLだが、バーバーの予選では一転して大活躍。その影にはオフの間にエンジニアたちが進めた2018年のデータの再解析、そして、ベテランエンジニアの加入があった。それにより、今までとは異なる角度からの視点や分析がプラスされ、新たに提案されたセッティングがトライされ、それが成果につながったのだ。琢磨は予選3段階でマシンを研ぎ澄ますことに成功。周回を重ねるたびに速くなっていった。

本番でも、琢磨はスタートからレースのイニシアチブを握った。その重要性を強く認識していた彼は、1速のギヤを低いものに変更してもらい、チームメイトのレイホールを突き放す。1周目にビシッと差をつけると、その後はリードをジリジリと広げていった。

 3ストップ作戦を採用し、ピットタイミングを若干早めに設定した琢磨陣営は、2ストップ作戦のブルデイをレース半ばでパス。ミスなく走り切れば優勝できる状況を手に入れた。この後に出されたフルコースコーションも不利には働かず、残り25周で切られたリスタートも無難に決めて、逃げ切り体制に持ち込んだ。

 残り5周、琢磨がターン8で飛び出した。ランオフ・エリアに乗り上げる時に一瞬ジャンプしたが、芝生の上を走ってコースへ復帰。トップの座は保ったままレースを再開し、チェッカーフラッグを潜った。

「最後のリスタートの後は、2位以下との間隔を2秒ぐらいに保ち続けることを目指していました。懸命にプッシュしつつ、燃費をセーブしながら走りました。しかし、必要な時にはプッシュ・トゥ・パス(一時的にターボのブースト圧を引き上げるシステム)を使いました。最後の10周はかなりハードで、ターン8前のバンプでバランスを崩し、コースオフしました。でもあのコーナーは、飛び出してもまっすぐに行けば、マシンにもタイムにもダメージがないとわかっていました」(琢磨)

 予選、レースと最速を続けて優勝を飾った琢磨。好調のディクソンとチップ・ガナッシ・レーシングを真っ向勝負で打ち負かしての勝利には大きな意味がある。ディクソン自身、「今日は琢磨がすばらしかった。RLLがベストのレースを戦ったということ。我々だって勝ちたかったが、2位でポイントを稼げたことで満足したい」と語ったほどだ。

 このような戦いを、琢磨とRLLは次のロングビーチでも見せることができるだろうか。 2013年に初優勝を飾ったコースだけに、琢磨はロングビーチが好きだし、得意にもしている。さらにその次のインディカーGPも、インディアナポリス・モーター・スピードウェイのロードコースが舞台だ。

 インディカー参戦10年目。42歳になった琢磨は進化を続け、エンジニアリングが強化されたチームの協力によって、より強くなっている。