4月8日まで行なわれた競泳の日本選手権。大会最終種目の女子400m個人メドレーを序盤から独泳で制した大橋悠依(イトマン東進)は、悔しそうな表情を見せながらもこう話した。



今大会はトレードマークの笑顔があまり見られなかった大橋悠依

「200m個人メドレーも200mバタフライも、どちらかと言えば感覚の部分が不安で、イメージしたことを水に入った時にうまくできないというのがあった。タイムそのものよりも、イメージした動きができなかったという不安が残って、気持ちも落ちてしまいました。午後のウォーミングアップでも、全然よくないと感じたので、『もしかしたら派遣標準記録を切れないんじゃないか』と考えたり……。それを思えば4分33秒0台までいけたことは、自分でもよく頑張ったなと思いました」

 記録は4分33秒02。自己記録(4分30秒82)の更新を目標にしてきただけに悔しさが残った。世界大会8位以内を想定した派遣標準記録I(4分32秒52)の突破は果たせなかったが、16位以内を想定した派遣標準記録II(4分36秒35)は余裕を持って突破。苦しんだ7日間を思えば、少しだけ満足できる結果であった。

「すごく順調にきていたので、自分にもすごく期待していた。200m個人メドレーに関しては、2分07秒91の日本記録を出した2017年の世界選手権をやっと超えられる時が来たなと思っていたので、結果とのギャップにすごく苦しみました」

 結果から言えば、優勝したもののタイムは派遣標準IIを切るだけの2分09秒27。世界選手権代表に内定はしたが、納得できない結果だった。

 そのときの泳ぎを大橋はこう振り返る。

「バタフライが少し行きすぎたかもしれないし、平泳ぎも焦った感じだったので、最後の50mはヤバイと思いました。ラスト15mでは隣の大本里佳選手(イトマン)に負けるかもしれないと思っていました」

 大会前の感覚と結果にズレが出た原因は一体何だったのか。大橋はその原因をこう分析する。

「日本選手権という感じがしなかったというか、去年や一昨年の日本選手権と比べると自分の気持ちの高まりが少ない感じで……。この2年間でいろいろなことを経験して、日本選手権が(自分にとって)通過点になりつつあるのかもしれないですが、ここで気持ちを高めるのが今回は難しく感じました」

 確かに初戦前から大橋の表情は硬く、これまでの大会で見せていた笑顔はなかった。昨年まで日本新記録を連発して大会に活気を与えていた池江璃花子(ルネサンス)や、日本代表の主柱でもある萩野公介(ブリヂストン)が不在の中で、自分がその役割を果たさなければいけないというプレッシャーもあったのだろう。

「今大会を見ても、瀬戸大也さんは200m個人メドレーで自己ベストを出したり、普段から実力のある選手は全体の流れがよくない中でもしっかり結果を出すと感じたので、自分はまだまだだと思いました。ここ2~3年で自分の立場も変わってきて悩むこともありましたが、振り返れば16年とか17年は水泳がすごく好きで楽しくやっていた。そういう気持ちを少しでも思い出して頑張らなければいけないなと思いました」

 最終日の400m個人メドレー決勝の入場では、観客席に向かって笑顔を見せていた。大橋は、その理由をこう話す。

「今大会は、入場したあとに周りに手を振ったり、チームメイトの応援に応えるようなこともできなかったので、やっぱり自分で余裕を作っていかなければいけないと思いました。これから東京五輪に向けて、自分が引っ張っていきたいと思っている中で、もっとできることもある。だから、400mの前にはそれくらいやって気持ちを高めないといけないなと思いましたし、一緒に練習をしてきたメンバーに対してもいいレースを見せたいという思いがありました」

 このレース直前までは、なかなか自信が持てず「どうしようか」と考えていたと言い、平井伯昌コーチや一緒に練習をする東洋大のメンバーに送り出されるときに泣いてしまったという。

「平井先生からは『レースの前に泣くなよ』と言われたけど、泣いてかなりスッキリしたので、もっと前から泣けばよかったなと思いましたね(笑)。かなり気持ちが楽になりました」

 そこまで苦しんだ大橋のように、今大会の女子は全体的に結果を出せずに終わってしまった。昨年と一昨年まであった派遣標準IとIIの下にあった標準記録が今年はなくなって、ハードルが高くなったこともあるが、女子の個人種目での標準突破は大橋の2種目に加えて200m個人メドレー2位の大本と、200mバタフライの長谷川涼香(東京ドーム)の3名のみ。男子は瀬戸と200m平泳ぎの渡辺一平(TOYOTA)が標準Iを突破しているが、女子は標準IIのみという結果だ。

 特に、これまで世界大会で結果を残していた平泳ぎは大きく崩れた。昨年の全日本で100mと200mを制して、持ちタイム的にも派遣標準I突破の可能性を持っていた青木玲緒樹(ミキハウス)は100mで5位。200mは決勝進出を逃すという結果になった。

 また、昨年のアジア大会100mで優勝した鈴木聡美(ミキハウス)も代表入りを狙った100mでは、1分07秒75で2位と派遣標準IIに1秒27も届かなかった。アジア大会200mで優勝して復調してきた渡部香生子(JSS)は、風邪を引いて最初の100mを欠場。200mには出場して優勝はしたが、派遣IIに1秒弱届かない2分24秒28にとどまった。

 さらに100mで優勝した関口美咲(木下グループ)も1分07秒70でメドレーリレーの派遣記録にも届かず、今大会での代表内定者はゼロという結果になってしまった。

 リレー種目のみの代表も含めて、この日本選手権で世界選手権代表に決まった女子は7名だけ。東京五輪へ向けてのプレッシャーを徐々に感じる雰囲気だった日本選手権を終え、5月30日からのジャパンオープンでは、どれだけの選手が代表に追加されるか。今回は精神的な重圧も大きかっただけに、その切り替えを見たい。