300点超えで世界選手権を制したネイサン・チェン 世界選手権で優勝したネイサン・チェン(アメリカ)は、昨年アメリカの名門イェール大学に進学し、現在は大学の施設と大学近くのリンクを拠点に練習をしている。また、「授業の合間を縫って、ラファエル・…



300点超えで世界選手権を制したネイサン・チェン

 世界選手権で優勝したネイサン・チェン(アメリカ)は、昨年アメリカの名門イェール大学に進学し、現在は大学の施設と大学近くのリンクを拠点に練習をしている。また、「授業の合間を縫って、ラファエル・アルトゥニアンコーチの指導も引き続き受けている」という。

 今シーズン前半は、そんな環境の変化に慣れていないようで、グランプリ(GP)シリーズでファイナルまで3連勝を果たしたものの、なかなか本来の滑りができず、得点は270~280点台前半と伸び悩んでいた。

 ところが、年が明けると本領を発揮し始めた。

「今シーズンは私の競技人生の中でも一番気に入っています。学生生活とスケートのふたつをこなすことに慣れるまで少し時間がかかりましたが、今はそれを両立できることがわかって安心しています。大学の寮で生活をしていますが、いつも賑やかで、同じ寮の学生とスケート以外のことも話せるし、イェール大は食堂の料理がおいしいのもメリットです」

 現在の生活についてこう話すチェンは、全米選手権で見事な滑りを披露した。1月26日のショートプログラム(SP)は、4回転フリップと4回転トーループ+3回転トーループを4.40点と4.75点の加点をもらう完璧な出来。さらに、スピンもステップもレベル4にして113.42点を獲得した。翌日のフリーでは、3種類4本の4回転を成功させ、ジャッジがGOE(出来ばえ点)で5と4を並べるなど、こちらも完璧な滑りで228.80点を獲得し、合計を342.22点に伸ばした。

 これは国内大会だったため、ISU(国際スケート連盟)公認の得点ではなかったが、国際大会で高得点を出せる可能性があることを示す結果だった。そして、チェンはそれを最高峰の舞台である世界選手権で証明した。

 全米選手権後、チェンはインフルエンザに罹患してしまい、なかなか咳が止まらなかったため、トレーニングスケジュールを変更して、日本での世界選手権に臨むことになった。

 それでも、チェンはSPですべての要素をノーミスで滑って107.40点を獲得。ミスをして94.87点と出遅れた羽生結弦に12.53点差をつけて首位に立った。

 羽生の演技直後の滑走になったフリーでは、3種類4本の4回転を含むジャンプをしっかり決め、スピンとステップもレベル4のノーミスの滑り。216.02点を獲得して、合計323.42点で優勝。大会連覇を果たしたチェンはフリー後にこう語った。

「世界選手権という大きな舞台でより大きなプレッシャーがあるなか、ショートとフリーともにいい演技ができたことは幸せです。もちろん、まだまだ改善の余地はありますが、今回の結果については満足しています」

 チェンは、ルッツやフリップ、トーループだけではなくサルコウも含む4回転ジャンプを武器にしている。これまでは、平昌五輪のSPでジャンプのミスを連発して17位発進になるなど、若干の粗さや不安定な面を見せていたが、今シーズン、プレッシャーがかかる全米選手権、世界選手権でノーミスの演技をした実力は本物だ。

 躍進の予兆は昨シーズンからあった。

 2018年平昌五輪のフリーでは、サルコウを入れた4種類6本の4回転を入れる構成に挑戦し、単発の4回転フリップで着氷を乱すミスはあったものの、それ以外はノーミス。フリートップの215.08点を獲得して、総合5位まで追い上げた。

 その1カ月後の世界選手権のSPでは、101.94点でトップに立った。さらに、フリーではライバルたちがミスを連発して脱落していく異様な雰囲気のなか、最終滑走だったチェンは平昌五輪と同じ4回転6本の構成に挑戦。ミスを最後の4回転サルコウのステップアウトだけにとどめて、世界歴代2位となる合計321.40点で優勝した。

 平昌五輪のフリーと昨年の世界選手権という大舞台で自分の力を出し切れたこと。それが、チェンの現在の活躍につながっているのは間違いない。

 さらに今回の世界選手権で目を引いたのは、これまで苦手にしていたトリプルアクセルを、点の取れるジャンプに仕上げてきていることだった。ただ、まだ苦手意識があるのか、今季、フリーで多くのトップ選手がトリプルアクセルを2本入れているなか、チェンは1本にとどめている。ルール改正でジャンプの本数が8本から7本に減った状況では、得意とする4回転で勝負した方がいいという考えがあるのだろう。

 そんなチェンには、まだまだ伸びしろがある。それぞれのジャンプに磨きをかけて、GOE加点を獲得するのはもちろん、現在フリーで2本跳んでいる4回転トーループを、ルッツかフリップに変えて点数を伸ばすことも可能だろう。

 また、「今回はサルコウをもう一度入れようとも思っていましたが、タイミング的によくないと思ったのでやめました」と本人が言うように、フリーの4回転ジャンプを4種類5本の構成にする可能性もある。

 それに加えて、リズムに乗った勢いのある滑りで表現力やプログラム自体の完成度を高めており、演技構成点もしっかり伸びている。今後、その強さは揺るぎないものになっていきそうだ。

 ただ、彼はまだ大舞台での大接戦を経験していない。今回の世界選手権はSPで大量リードを築いてフリーに臨めたが、今後、羽生や宇野昌磨が得点を伸ばし、SPから僅差の展開で、ほんの些細なミスも許されない戦いになったときでも、ノーミスのパーフェクトな演技ができるかどうか。

 チェンにはこれからも、羽生や宇野のライバルとしてハイレベルな戦いを期待したい。それこそが、フィギュアスケートというスポーツがさらに発展していく原動力になるはずだ。