驚嘆すべきことに、バルセロナのリオネル・メッシは今なお進化を続けている。フリーキックひとつにも、その真髄が見える。…

 驚嘆すべきことに、バルセロナのリオネル・メッシは今なお進化を続けている。フリーキックひとつにも、その真髄が見える。

 4月2日、第30節のビジャレアル戦だった。敵地に乗り込んだメッシは、後半途中から交代出場すると、世界最高選手としての真価を見せている。2点差から同点に追いつく口火を切る左足FK。そのボール軌道は、名画の筆致のような美しさだった。

 3月30日、第29節のエスパニョール戦でも、メッシは左足でFKを決めている。記録上はオウンゴールとなったが、相手ディフェンスがクリアするしかない状況で必死に首を振ったのに触れたボールがゴールネットを揺らした。彼のゴールも同然だろう。

 さらにその前節、メッシはベティス戦で華麗なるハットトリックを記録している。ベティスの熱いファンをも敬服させ、スタンディングオベーションを受けたが、先制点となったFKは神がかっていた。左足で蹴ったボールは、壁の上すれすれのところを、低く早い弾道で飛び、ゴール左上に突き刺さった。GKとしてはお手上げのスピード、コース、高さだった。

 今シーズンはFKだけで5得点。2008-09シーズンからFKを蹴り始めたが、実は当初の成功率は低かった。それが過去4年で20得点以上を決め、今や世界最高のキッカーとなっている。その技術は信じられないほどに上達している。

 


アトレティコ・マドリード戦で今季リーグ戦33点目を決めたリオネル・メッシ

 あらためて、メッシ伝説の始まりとは――。
 
 2004年10月16日、モンジュイックの丘に建てられたオリンピックスタジアムだった。背番号30をつけた小柄なメッシが、バルサの若手としてリーグデビューを飾っている。

 筆者は偶然にも、その瞬間に居合わせることができた。

 17歳と数カ月のアルゼンチン人ルーキーは、神も悪魔も恐れていないように映った。それは、たまにある”若さ故の怖いもの知らず”とは少し違っていた。ピッチでボールを蹴ることにひたすら集中し、他の何も目に入らない。勝つ方策を探るようでもあり、知り抜いているようでもあり、ひとつひとつのプレーに確信があった。できないことも、できるようにしてしまう”ふてぶてしさ”さえ見えた。

「レオは苦手なことなどない。もしあったとしても、プレーするたびに改善させられるのさ」

 当時バルサでチームメイトだったブラジル代表ダニエウ・アウベスは、呆れたような顔で言っていた。

「ヘディングだって、フリーキックだって、どんどんうまくなっていったよ。一度、目にした技は会得できるというか……。ドリブルのリズムにしても、すぐにコピーし、そして自分のものにアレンジできるんだ」

 若手だったメッシは当時、全盛を誇ったブラジル代表ロナウジーニョから多くを取り込んだという。FKもそのひとつ。蹴るたびにアジャストさせていった。ただマネするだけでない。自分の感覚に落とし込めるのだ。

 追求するのは、フットボーラーとしての完全無欠だろうか。メッシはスペイン代表MFシャビ・エルナンデスのボールーキープ、ターン、パススピードも手に入れている。その感覚は似ており、おかげでプレーメイキングもできる。

<小柄な選手は小柄なりに、自分のよさを生かす>

 メッシは、そんな狭い了見には囚われなかった。身長差が20cm以上もあるようなGKに対しても、果敢に空中戦を挑む。ポジション的優位があれば、勝てないわけではない。

 ポジティブな姿勢で、すべてのプレーを磨き上げる。ドリブルだけでなく、パスも、キープも、シュートも、ヘディングも、そしてフリーキックも――。それは”サッカーを生きる”に等しい姿だ。

 メッシは、まさにフットボールの申し子と言える。デビューから15年近くが経過したが、当時は蹴らなかったFKでも世界最高の称号を与えられようとしている。再び、彼のような選手は現れるのだろうか。

 4月6日、アトレティコ・マドリードとの首位決戦。メッシは、試合を決める2点目を左足で決めている。ひとりでボールを持ち込み、エリア内でディフェンダーをかわした後だった。立ち塞がるもうひとりのディフェンダーを、あえてGKのブラインドに使い、ニアサイドに打ち込んでいる。離れ業だ。

 この試合の結果、バルセロナと2位アトレティコ・マドリードの勝ち点差は11に広がった。

 そして4月10日、マンチェスター・ユナイテッドとのチャンピオンズリーグ準々決勝で、英雄メッシはどんなプレーを見せるのか――。

「メッシはプレミアリーグのクラブを得意としない」

 データを持ち出してそう言われるが、その分析はあまり意味がないだろう。仮にそうだとしても、彼はその数字をひっくり返せる。毎試合、あるいは試合の中でも、進化するのがメッシだからだ。

「メッシ」――その名前には、すでに伝説の響きがある。