リバプールが電光石火のカウンターを見せたのは、80分のことだった。 この時、スコアは1−1の同点。ホームのサウサンプト…
リバプールが電光石火のカウンターを見せたのは、80分のことだった。
この時、スコアは1−1の同点。ホームのサウサンプトンは、優勝争いを演じているリバプールを相手に予想以上の善戦を見せていた。

5試合連続で先発出場を果たし、DFラインを統率する吉田麻也
残り時間10分のところでCKのチャンスを掴むと、サウサンプトンが吉田麻也を含めた長身DFをゴール前に送り込んだ。後方で守るのは、ウイングバックのライアン・バートランドひとり。前傾姿勢を強めるサウサンプトンから、このセットプレーをモノにしようという強い気持ちが見て取れた。
しかし、ボールは無情にもカットされ、リバプールが高速カウンターを発動する。サウサンプトンの選手たちは全力疾走で追いかけたが、FWモハメド・サラーはドリブルをグングン加速していった。
そして、ペナルティエリアに入る直前に少しスピードを落とし、最後は左足を一閃--。昨季得点王のエジプト代表FWは、いとも簡単にボールをネットに沈めた。失点後、吉田は両手をひざにつき、思わず肩を落とした。
この失点が、勝負の分かれ目となった。2−1で逆転したリバプールは、さらに1点を追加。3−1でサウサンプトンを下したのである。
吉田としては、W杯ロシア大会のベルギー戦で奪われた決勝点と似たような形でゴールを許してしまった。試合後、反省の言葉を口にした。
「リバプールにCKからカウンターがあるのは、もちろんわかっていた。だから、そこへの対応をうまくしなくてはいけなかったが……。W杯のベルギー戦も一緒だが、あの一発でやられてしまうというのは……。あれは防がなければならない失点だと思います。
いい入り方をして、しっかりプランを持って挑めた。カウンターからいい形もいくつかありました。難しい時間帯もありましたけど、全体的に見て80分まではうまく戦えた。だけどやっぱり、あの2点目を取られて苦しくなった」
「80分まではうまく戦えた」との言葉どおり、サウサンプトンは陣形をコンパクトにして、リバプールをうまく抑えていた。スペースを見つけられないリバプールは攻撃のギアをなかなか上げられず、攻めあぐねるシーンが目立った。
さらに、吉田はリバプールについて、「いつもなら、もっとコンビネーションで狭いエリアからもワンツーで崩してきて、僕らは苦しめられる。だけど今日は、僕らの左サイドの攻撃がけっこう単調だった。右サイドは何度か(ナビ・)ケイタが絡んで難しい場面を作られたけど、いつものリバプールほど難しさがなかった」と、リバプールが本調子でなかったと明かす。
こうしたふたつの理由によって、サウサンプトンは試合をうまくコントロールできていた。それだけに、試合終盤に高速カウンターから失点したことが悔やまれる。
吉田個人に目を向けても、安定感のある守備で最終ラインを支えた。3−4−2−1の3バック中央として5試合連続の先発出場を果たし、DFラインを統率した。リバプールの両翼のサディオ・マネやサラーがライン裏に抜けてくれば、吉田は彼らについていってブロック。ブラジル代表FWロベルト・フィルミーノがバイタルエリアでボールを受ければ、吉田は前方に飛び出して潰した。
1−1で迎えた65分には、フィルミーノが振り向きざまにシュート。吉田が身体を投げ出して止めると、英衛星放送スカイスポーツは「スーパーブロック」と褒めた。
一方、英メディアで物議を醸すシーンもあった。
後半、DFラインの裏に飛び出してきたギニア代表MFナビ・ケイタに対し、吉田はペナルティエリア内で足を伸ばしてブロック。ケイタは日本代表DFの足に触れて転倒したものの、主審はノーファウルの判定を下した。「駄目だと思って(足を)引いた。危ないと思って引いた」と吉田は説明したが、微妙な判定であったことは確かだ。
だが、吉田によれば、その前に主審と駆け引きがあったと明かす。問題の場面は、前半36分のリバプールの同点弾にあった。オフサイドが見逃された結果、失点につながったことを後半開始前に審判団に説明していたという。
「1点目はオフサイドだった。だから後半が始まる前に、審判に(ピッチに向かう)トンネルの中で(オフサイドだったと)言った。それが効いたのかもしれない。そういう駆け引きも大事です」
同点弾を奪われたあとに、吉田は審判団にアピール。勝利を手繰り寄せるため、主審と駆け引きすることを忘れていなかった。だが、リバプールの高速カウンターとサラーの決定力を目の当たりにして、思わず肩を落とした。
こうした一瞬たりとも気の抜けない厳しい戦いに身を置いてきたからこそ、プレミア在籍7季目の吉田はDFとして大きく成長した。相手のうまさに舌を巻きながらも、何をすべきか、何が足りないかを自問自答する。そして、実践してきた。
それでも本人はまだ、「危機感しかない」と訴える。「レギュラーの座をガッチリ掴んだように見えるが」と記者団から質問が飛ぶと、吉田は次のように答えた。
「そんなことないですよ。練習では誰が先発になるかわからないし、毎回メンバーも変えている。最後の最後に『これでやるか』という感じにまとまるので。こうした危機感や緊張感は常に持っている。これは別に今シーズンだけではなく、この7年ずっとそう。安心させてくれる監督はひとりもいないです」
イングランド・プレミアリーグは「世界最高峰の舞台」と謳われる。高度な戦いのなかで身を削り、駆け引きの大事さも学んできた。そして、厳しいレギュラー争いのなかで抱える危機感--。
この7シーズンで吉田が、ひと回りもふた回りもたくましくなった理由が見えた気がした。