世界フィギュアスケート選手権で、平昌五輪女王のアリーナ・ザギトワ(ロシア)がショートプログラム(SP)、フリーともにほぼ完璧な演技を披露、フリーで155.42点をマークし、合計237.50点で初優勝を飾った。 五輪後、身長が7cmも伸…

 世界フィギュアスケート選手権で、平昌五輪女王のアリーナ・ザギトワ(ロシア)がショートプログラム(SP)、フリーともにほぼ完璧な演技を披露、フリーで155.42点をマークし、合計237.50点で初優勝を飾った。

 五輪後、身長が7cmも伸びて体型が変化。それにともなってジャンプが不安定になり、失敗が目立つようになっていたが、シーズン最終戦ではしっかりとジャンプを安定させ、ミスのない演技で他を圧倒した。



左からエリザベート・トゥルシンバエワ、アリーナ・ザギトワ、エフゲニア・メドベデワ

 銀メダルには、伏兵とも言えるエリザベート・トゥルシンバエワ(カザフスタン)が輝いた。フリーで見事な4回転サルコウを成功させた19歳は、SP3位、フリー4位ながらも、合計224.76点で、四大陸選手権(総合2位)に続いて表彰台に上った。

 一方、SP4位と出遅れた平昌五輪銀メダリストのエフゲニア・メドベデワ(ロシア)は、フリーでは気迫の演技を見せ、合計223.80点で銅メダルを獲得した。今季から練習拠点をカナダ・トロントに移し、ブライアン・オーサーコーチに師事。シーズン前半は自分の立ち位置や環境の変化になかなか適応できず、成績も伸び悩んで「過去の人」と揶揄されたこともあったが、世界選手権で健在ぶりをアピールした。

「私がまだ健在であり、世界のトップとしてできることを証明できた」と、胸を張っていたのが印象的だった。

 そんな表彰台の3人には、ある共通点がある。それは、あるロシア人コーチから指導を受けている(受けていた)ことだ。近年、世界のトップを争う多くの選手を育てているエテリ・トゥトベリーゼ。「鉄の女」とも呼ばれる45歳で、モデルばりのクールビューティーだ。

 女子フィギュアスケート界で圧倒的な強さを誇ってきたロシア勢だが、目覚ましい活躍を見せている選手のほとんどがエテリの門下生。その手腕は世界中の指導者から一目置かれていると言っても過言ではない。

 その指導法は、とにかく厳しいことで有名だ。彼女がコーチを務める「サンボ70」というアスリート養成学校からは、安定感抜群で軸の細い、似たタイプのジャンプを跳ぶ選手が輩出されている。このエテリ流のジャンプを跳ぶためには、厳しい体重調整が課せられていると言われており、クラブのエースであるザギトワ曰く、「ご褒美としてときどき食べられるお菓子はひとかけらのチョコレートくらい」だそうだ。

 その反面、食事制限をしながら体型やジャンプ力を維持するのは、若い選手にとってはつらく苦しい生活に違いない。そればかりか、心身のストレスにもつながり、選手寿命を短くしかねない。

 世界選手権で2位になったトゥルシンバエワは、昨季までブライアン・オーサーコーチに指導を受けていたが、成績は伸び悩んでいた。そこで今季から古巣に戻ってエテリに師事するようになると、ジャンプが開花し、これまでにない結果を出すことができるようになった。

「エテリ軍団」には他にも、ジュニアを席巻している世界ジュニア選手権2連覇のアレクサンドル・トゥルソワ、ジュニアGPファイナル女王のアリョーナ・コストルナヤ、ロシア選手権を初制覇した15歳のアンナ・シェルバコワらがいる。

 これに対してメドベデワは、約10年にわたって「エテリの秘蔵っ子」として指導を受け、歴代最高得点を何度も更新するなど強さを誇った。しかし、平昌五輪でザギトワに敗北を喫すると、その2カ月後にエテリと訣別。羽生結弦ら世界のトップ選手を指導するオーサーコーチに師事することになり、世界中のフィギュアスケート関係者やファンに衝撃を与えた。

 かつてトゥトベリーゼコーチのもと、若くしてシニアデビューを飾って活躍した選手に、ユリア・リプニツカヤ(ソチ五輪団体戦金メダル。2014年世界選手権銀メダル)がいる。代名詞のキャンドルスピンや感情豊かな表現力で、物語性のあるプログラムを演じれば右に出る者はいない逸材だった。だが、思春期の成長過程で体重増加を防ぐことができず、メンタルケアも順調とはいかなかった。結局、ケガや摂食障害の治療を経て、2017年9月に引退。19歳で表舞台から去ることになってしまった。

 世界で活躍する日本人スケーターが次々と登場し、「日本には選手製造工場がある」と言われた時代もあったが、いままさにロシアではその工場がフル稼働中で、続々とトップスケーターの卵たちが誕生している。そのホープたちがリプニツカヤの轍を踏むことなく、息長く活躍できることを願いたいところだ。