蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.58 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サ…

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.58

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎――。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。前回に続き、テーマは欧州CLの注目カードについて。今回は、同じプレミアリーグのクラブであるトッテナムとマンチェスター・シティの対決をピックアップ。リーグ戦のスケジュールも相まって、優位に立つのはどちらか?


ラウンド16ではシャルケに大勝したマンチェスター・シティ

――チャンピオンズリーグ(CL)のラウンド16が終わり、準々決勝の組み合わせが決定しました。そこで今回は、お三方にラウンド16の第2戦を振り返っていただきながら、準々決勝の4カードを詳しくプレビューしていただきたいと思います。いずれも好カードになっていますが、まずは4月9日に行なわれる同国対決、トッテナム対マンチェスター・シティからお願いします。

倉敷 この両チームはヨーロッパのカップ戦では初対戦。第1戦はトッテナムのホームで行なわれますが、直前に行なわれる4月3日のプレミアリーグ、対クリスタル・パレス戦から、ようやく完成した新スタジアムを使用することになりました。これまではウェンブリーを使用していたわけですが、このシティとの大一番で新しいスタジアムを使うことが、果たして吉と出るのか凶と出るのか。これは大きなポイントになりそうですね。

中山 半年以上もオープンを待たされただけに、新スタジアムに対する注目度は倍増するでしょうね。約6万2000人という収容人数もすごいですが、聞くところによると、スタジアム内にはビールの醸造所やその場で焼いたパンを提供するベーカリーもあるそうで、エンターテインメント性の高い未来型スタジアムとしても脚光を浴びそうです。

 それも含めて、トッテナムとしては注目の新スタジアムで無様なゲームができないというプレッシャーがかかりそうです。なにせCLの準々決勝となると、世界中のサッカーファンが注目するわけです。今シーズンのファイナルの試合会場となっているワンダ・メトロポリターノがオープンした直後は、アトレティコ・マドリーがなかなかホームで勝てなかったという例もあるので、今回の対戦に限っては、必ずしもトッテナムに地の利があるとは言えないような気がします。

倉敷 では、両チームの勝ち上がりから振り返りましょう。まずスパーズはドルトムントに対しホームでの第1戦を3-0と圧勝し、アウェーでの第2戦も0-1のクリーンシートで勝利しました。トータル4-0の完勝だったわけですが、おふたりはこの結果をどうみましたか?

中山 スコアほどの差はなかったと思います。ただ、スパーズは1点リードする状況で迎えた第1戦の終盤に2ゴールを追加できたのが大きかったと思います。それによって、難しいアウェーでの第2戦も無理をすることなく、慎重に戦うことができました。それに加え、国内リーグで調子を落としていたことも慎重さに拍車をかけたのではないでしょうか。

 とくに第2戦で際立っていたのが、マウリシオ・ポチェッティーノ監督の真骨頂とも言える堅いディフェンスでした。この試合、スパーズは3-4-1-2でスタートしながら、守備時はトップ下のクリスティアン・エリクセンが中盤左サイドのスペースを埋めて、実質的に5-3-2という守備的布陣で守りを固めていました。

 また、前半30分を過ぎたあたりからさらに備えを厚くして、2トップのソン・フンミンを中盤左サイドに下げ、エリクセンを右サイドに回して5-4-1という形にしました。GKウーゴ・ロリスがファインセーブを連発したこともありますが、スパーズがここまで守備を固めると、さすがのドルトムントもノーチャンスです。

小澤 たしかに第2戦でのスパーズの3バックは最終ラインを5枚にしてドルトムントにボールを持たせる狙いから採用されたものでした。前半35分時点でのボール保持率は70%対30%、シュート本数は9対1とドルトムントが圧倒していましたし、手元の集計で前半のドルトムントには5本の決定機がありました。個人的には、スパーズの守備固めが効果的だったというよりも、あれだけ圧倒した前半で得点を奪えなかったドルトムントの決定力不足に問題があったと認識しています。

 中山さんの言及どおり、スパーズは前半からサイドを攻略され、マイナスのクロスを入れられた時に中盤3枚のプレスバックが間に合わず決定機を作られるシーンが目立ちました。21分のラファエル・ゲレイロからのマイナスのクロスを受けたマルコ・ロイスが決定的なシュートを放ったシーンがその象徴的シーンでしたし、その後も右からもう一度似た形で決定機を作られました。それを見て素早くソン・フンミンを中盤に下げる采配は、さすがポチェッティーノ監督だとは思いました。

倉敷 シティはシャルケに大勝しましたね。アウェーでの第1戦が2-3の勝ち、そして第2戦はホームでなんと7-0。トータル10-2という驚きのスコアで勝ち上がりました。

中山 2点ともPKとはいえ、第1戦ではシャルケも大健闘したのですが、試合終盤に逆転負けを喫したことで、もはや勝負はつきました。第2戦は、シティの「えげつない攻撃」が発揮された格好ですが、両チームの力の差は明らかでした。

 普通に考えると、スパーズとの準々決勝も実力で上回るシティ有利と見る向きが圧倒的に多いと思います。昨年10月に国内リーグで対戦したときも、アウェーのシティがリヤド・マフレズのゴールによって0-1で勝利しています。ただ、シティ有利と言いながらも、今回の対戦に限って言えば、スパーズにも十分に可能性があるような予感もします。ポチェッティーノ監督が、シティの良さを封じることに徹したとしたら、シティもそう簡単には勝てないのではないでしょうか。

小澤 僕も、シティは国外の強豪よりも同国対決に弱いタイプだと見ています。ペップ・グアルディオラ監督のやり方は熟知されていますし、対策を練られた時のプランB、Cは用意されていますが脆さを見せる傾向もあります。シャルケのように、初めて対戦する相手はシティのボール運びに戸惑うと思いますが、スパーズは国内で何度も対戦していますからね。万全の対策で臨んでくるはずです。

中山 たしかに、シティは昨シーズンのCL準々決勝で同国対決となったリバプール戦で敗退しています(2試合合計1-5)。ベスト8の段階になると、備えがしっかりしているスパーズのほうが、攻撃力を最大の特徴とするシティよりもプランを立てやすいと思います。

倉敷 スパーズには、クリスティアン・エリクセン、トビー・アルデルヴェイレルト、ヤン・フェルトンゲン、ダビンソン・サンチェスと、元アヤックスの選手が4人もいるので、僕はつい親近感が湧いてしまいます(笑)。

 イングランド勢は国内リーグ戦も多少影響しそうですね。シティはリバプールとの優勝争いが熾烈ですし、スパーズもCL出場権争いが大変なのでCL1本に絞るという状況ではありません。

中山 シティは、FAカップも勝ち残っていますから、スケジュール的には相当に厳しいと思います。

倉敷 シティは4月3日にカーディフと国内リーグを戦って、中2日でFAカップ準決勝のブライトン戦。さらに中2日で、スパーズとのCL準々決勝第1戦を迎える超ハードスケジュール。しかも4月17日の第2戦の直後には、中2日で国内リーグの試合で再びスパーズと対戦することになっています。リバプールとの優勝争いを考えると、どうやりくりするか、とても悩ましい。ペップがこの過密スケジュールに不満を漏らすのもうなずけますね。

中山 スパーズはCL出場権争いが熾烈とはいえ、すでにFAカップも敗退していますし、直前の国内リーグ戦の相手がクリスタル・パレスということを考えると、スケジュール的には圧倒的にスパーズ有利ですね。

小澤 選手層やチームとしての実力からすると圧倒的にシティだとは思いますが(苦笑)。ただスパーズは、ハリー・ケインも含めて、故障者が次々と復帰を果たしている点もプラス材料ですし、昨季のリバプールのように同国対決で、なおかつ冒頭にお二方からあったように新スタジアムのお披露目時期でモチベーションは格段に高い。非常に楽しみな試合となるでしょう。

中山 攻撃力は確実にアップしていますよね。デレ・アリも復帰し、ケイン、ソン・フンミン、ルーカス・モウラ、エリクセン、エリク・ラメラ、フェルナンド・ジョレンテと、前線はかなりの選手層を誇っています。

倉敷 では、それらを踏まえて、おふたりはこのカードをどう予想されますか。

中山 打ち合いになったらシティ、競り合いになったらスパーズに軍配が上がるのではないでしょうか。これまでの戦いを見ると、シティは4-3-3のアンカーの位置にイルカイ・ギュンドアンとフェルナンジーニョを使い分けています。比較的実力差のある相手と戦うときはギュンドアンを、インテンシティの高い大一番ではフェルナンジーニョを起用する傾向があります。

 その法則でいくと、このスパーズ戦はフェルナンジーニョの可能性が高いと思われますが、今シーズンもフェルナンジーニョの調子があまりよくなくて、彼のミスから失点につながってしまうようなケースが目につきます。とくにポチェッティーノ監督は、シティの嫌がる戦術を練ってくるはずなので、フェルナンジーニョのところを狙ってくる可能性はかなり高いと思います。いずれにしても、もしペップがギュンドアンを起用したとしても、スパーズはシティのアンカーを潰して、ショートカウンターを狙ってくるでしょう。

 逆に、シティはボールを支配して、早い時間帯で先制することが重要になると思います。幸いエースのセルヒオ・アグエロは好調をキープしていますし、ベルナルド・シウバ、レロイ・サネ、ラヒーム・スターリングなど、スピードとテクニックのある攻撃陣が大柄なスパーズDF陣を混乱させることができれば、大量ゴールで勝利する可能性も十分にあるでしょう。もっとも、個人的にはこの試合が大味な展開になる確率は低いと見ていますが。

小澤 基本的にシティがボールを保持して前進し、敵陣でフットボールをする展開となるでしょうし、それに対してスパーズは粘り強く守りから入ってくるでしょう。スパーズは5バックで来る予想を持っていますが、引いて守るための5バックの場合、中盤とのライン間をコンパクトに締める点で若干戦術的課題があります。そこをシティがどう攻略するのか。やはりダビド・シルバ、ベルナルド・シウバ、ケビン・デ・ブライネあたりのライン間でのポジショニング、プレーが効果的な選手たちに注目です。

 あとは、中山さんがおっしゃるとおり、シティはアンカーをどうするかでしょう。僕もフェルナンジーニョだとは思っていますが、相手に引かれた展開の場合の配給面では物足りないですし、ギュンドアンはそこで違いを見せる選手ですがケイン、ソン・フンミンが待ち構えるスパーズのカウンターをうまく処理する点で課題がある。グアルディオラ監督がどう考えてくるのか、アンカーの選手起用や交代策は見ものですね。

中山 スパーズは4バックと3バックを使い分け、4-2-3-1、4-3-1-2、3-4-1-2、3-1-4-2など、システムのバリエーションも豊富なので、ポチェッティーノ監督がどのような戦術を採用するのかも注目です。ちなみに、0-1で敗れた国内リーグの前回対戦では4-2-3-1を使って、ラメラをトップ下に配置していました。

倉敷 スパーズが勝てば、2010-11シーズンのベスト8入りを上回り、チャンピオンズリーグになってから初めてのベスト4になります。シティが勝てば、2015-16シーズン以来の準決勝進出です。そしてこのカードの勝者が、準決勝ではアヤックス対ユベントスの勝者と対戦することも決定しています。

 果たしてどんな結果になるのか。いろいろな角度から楽しめるカードですね。