ケガに苦しみながらも挑戦し続ける羽生結弦 世界選手権後に、「正直な話、五輪の後から今シーズンの初めまではフワフワしていて、目的が定まってなかったのかなという気がしていた」と明かした羽生結弦。そんな気持ちが定まったのは、シーズン初戦のオー…



ケガに苦しみながらも挑戦し続ける羽生結弦

 世界選手権後に、「正直な話、五輪の後から今シーズンの初めまではフワフワしていて、目的が定まってなかったのかなという気がしていた」と明かした羽生結弦。そんな気持ちが定まったのは、シーズン初戦のオータムクラシックを不本意な演技で終えてからだった。

 ショートプログラム(SP)は、3本目の4回転トーループ+3回転トーループは耐える着氷になったうえ、後半に入っていると認められず1.1倍のボーナス点を獲得できず、シットスピンも0点になってしまった。そして、フリーでは後半のジャンプでミスを連発したものの、合計263.65点で優勝した。

 その結果に羽生は「単に自分の実力不足が出ているという感触があります。ショート、フリーともに本当に自分が滑りたかった曲でプログラムを作っていただき、そして自分が今できることをプログラムの構成として入れ込んでいるので、本当に自分が楽むという気持ちが強く出ている。そんな自分が滑りたかったプログラムに対して(自分の)の実力が、あまりにも足りないと思います」と反省しきり。

「五輪が終わってからちょっと抜けていた気持ちが、また自分の中に灯ったなと思う。本当に火をつけられたような状態になった」

 すると、2戦目となるグランプリ(GP)シリーズのフィンランド杯では、羽生の滑りがガラリと変わっていた。

「オータムの前までは4回転アクセルも結構練習をしていましたが、オータムの結果を受けて『今はこの練習をしている場合じゃないな』と気づかされた。やっぱり試合で勝たなければ意味がないというのが、自分の中でのすごく大きなスケートをやる意味になった」

 そんな、勝たなければいけないという気持ちがSPの滑りに表れていた。着氷が詰まりかけながらもうまく抜けた4回転トーループ+3回転トーループや、ステップは若干得点を伸ばせない部分はあったものの、オータムクラシックのミスはしっかり修正し、今季世界最高の106.69点を獲得してトップに立った。

「100点を超えたのが大きいかなと思います。トランジションに関してもジャンプに関しても、まだできるところがたくさんあると思うし、まだベストの点数ではないかもしれないですけど、後半のスピンではとくに自分の気持ちを込められたと思う」

 だが、翌日のフリーでは氷のコンディションに苦しんだ。羽生はエッジ系のジャンプに苦しんでいたと明かした。朝の練習で「スピードを出さなければ跳べる」と思ってしまい、本番でループはとくにスピードを落として慎重に跳んだ。その結果、回転不足になって流れに乗れなかった。

 結局、後半の4回転トーループも回転不足となり、次の4回転トーループ+トリプルアクセルも最後の着氷が若干スリップするなどミスも出て、目標にしていた200点には届かず、合計は297.12点となった。

 今シーズンからフリーの演技時間が30秒短くなった影響で、なかなかノーミスの演技が出ないなか、フリー、合計ともに、その時点での今季の世界最高得点だった。それでも羽生は次のように反省を口にした。

「4回転トーループ+トリプルアクセルも回転不足はついていないので一応成功という形にはなりましたが、GOE(出来ばえ点)がつかなかったのは残念です。

 ジャンプを全部立てたというのは、大きなステップになったんじゃないかと思うけど、自分の中では加点をしっかりもらってこそ成功だと思っているので。この試合で終わらせるつもりはないですし、しっかりいいジャンプができるように頑張ります」

 今の自分ができて、やりたいと思うジャンプで構成したプログラム。それをしっかり完成したいという思いは強かった。そんな気持ちがはっきりと形になって出たのは、2週間後のロステレコム杯(ロシア大会)のSPだった。

 3本のジャンプで加点をもらい、フィンランドで取りこぼしたステップもレベル4にするノーミスの滑りで110.53点を獲得。「自分の気持ちや思いをしっかり出したい」と、スピンとステップのみにした後半の滑りは圧巻だった。

「フィンランドほどミスと言えるようなミスはなくて、今日の演技くらいだったら自分でもノーミスと胸を張って言えるくらいです。でもジャンプの着氷でちょっとぐらついたところがあったのは悔しい」と自分への厳しさ見せる一方で、「たぶんこの得点が、この構成ではほぼマックスじゃないかな」と、満足感も口にしていた。

 翌日のフリーは公式練習で右足首を痛めてしまい、満身創痍の状態で臨まなければいけなくなった。ケガをした直後に「氷上で今の自分ができる構成を考えた」という羽生は、4回転ループを外した構成で臨んだ。そして前半は丁寧にきれいな滑りをしたが、終盤の3本のジャンプでミスを連発してしまった。

「とりあえず4回転を3本決められたのはよかったけど、痛みというより感覚のなさが出てしまいました。(タチアナ・)タラソワさんには『よく頑張ったね』と言われましたが、本当は『すばらしかったね』と言われるような演技をしなくてはいけなかった。今回プルシェンコさんは来てないけど、タラソワさんや(アレクセイ・)ヤグディンさんなど、僕がスケートに熱中するきっかけになった方々がいるロシアという地で、こういう結果になったのはすごく悔しい。フリーも、今季の構成での完成点が見えているような状態なので、それを何とかここでやりたかったなという気持ちが強かった」

 結果は278.42点での優勝となったが、ケガの代償は大きかった。

 それから4カ月の-準備期間を経て迎えた3月の世界選手権。羽生はロシア大会でできるはずだったSPとフリーの完全パッケージを成し遂げることと、全米選手権ですばらしい演技を見せたネイサン・チェン(アメリカ)に勝利することを目標にして臨んだ。足首の状態はまだ痛み止めを服用しなければいけない状態だったが、仕上がりには自信を持っていた。

 そんな気持ちの高ぶりが結果的にはやや悪い方向に出てしまい、SPでは自信を持っていた4回転サルコウがパンクという思わぬミスで3位発進となった。そしてフリーでも4回転サルコウ以外はノーミスの滑りをしたが、SPに続いて隙を見せない滑りをしたチェンに22.45点差という大差で敗れる結果になった。

 出場したのは4戦のみで、消化不良とも言える結果に終わった羽生の2018-2019シーズン。最後の敗戦は彼にとって、「さらに強くなりたい」という気持ちを再び大きく燃え上がらせる大きな起爆剤になったと言える。羽生はこれから、新たな目標を超えていく道を驀進するはずだ。