蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.59 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サ…

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.59

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎――。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。前回に続き、テーマは欧州CLの注目カードについて。今回は、優勝候補の一角であるリバプールとポルトの対戦。昨シーズンのファイナリストであるリバプールは今季も決勝まで進めるのか?

――今回はチャンピオンズリーグ準々決勝4カードのなかから、リバプール対ポルトについて、お三方に掘り下げていただきたいと思います。このカードの第1戦は、4月9日にリバプールの本拠地アンフィールドで行なわれます。



ラウンド16でバイエルンを下して勝ち上がったリバプール

倉敷 この両チームはヨーロッパのコンペティションでは過去6度対戦してリバプールが3勝3分という結果を残しています。昨シーズンはラウンド16で対戦して、リバプールがポルトのホームで0-5と大勝したあと、第2戦を0-0で終えてトータルスコア5-0で勝ち上がっています。過去のデータではリバプール有利ですね。

中山 昨シーズンの第1戦では、サディオ・マネがハットトリックを記録したうえ、モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノもゴールを決めて、3トップ揃い踏みでした。今シーズンのリバプールはあのときよりもパワーアップしていると思うので、よほどのことがない限り、このカードはリバプールでしょうね。

小澤 ローマを破ってベスト8入りしたポルトですが、アヤックスと並び強豪にとっては抽選で「引きたい相手」でしたのでリバプールは正直、「ラッキーな組み合わせ」という感想でしょう。

倉敷 では、両チームのラウンド16の戦いを振り返りましょう。リバプールはバイエルンとホームで対戦した第1戦がゴールレスドロー、アウェーの第2戦で1-3の勝利を収めて勝ち上がりました。強かったですね。敵地で決めたサディオ・マネのゴールはチャンピオンズリーグのゴール・オブ・ザ・ウィークに選ばれた美しいものでした。

小澤 決勝点となったフィルジル・ファン・ダイクのヘディングシュートもすごかったです。高身長のハビ・マルティネスとマッツ・フンメルスとの競り合いに対して、あの高いヘディングですから、驚きました。ただ、それ以上にここ最近のパフォーマンスレベルの高さには驚かされています。

中山 正直、ファン・ダイクがサウサンプトンからリバプールに移籍したときは100億円超えの移籍金は高すぎると思っていました。でも今になってみると、その金額も安く感じてしまいます。間違いなく、彼は現在世界トップレベルのセンターバックですね。

それと、第2戦を振り返ってみると、バイエルンが第1戦の時のような挑戦者の意識が低くなったことが、結果的にマイナスに作用したように感じます。もちろんこの試合でも守備意識は高かったと思いますが、ホームということもあってか、明らかに第1戦よりも前掛かりなところがあって、それによって守備に隙が生まれていました。

倉敷 バイエルンの敗退については、第2戦で出場停止になったヨシュア・キミッヒの不在が大きく影響したと感じました。彼がいないことで、サイドでも中盤でも技術的なレベルが下がり、あまつさえ代役として出場したラフィーニャのミスから失点しています。攻撃のためのインナーラップも物足りないレベルでした。

中山 たしかにリバプールの先制ゴールは、ファン・ダイクのロングフィードに対してラフィーニャが裏を取られたことで、マネのゴールを許しています。GKマヌエル・ノイアーの飛び出しもミスと言えばミスなのかもしれませんが、ノイアーのプレースタイルからすると、あの場面は前に出る選択肢しかなかったと思いますし、やはりラフィーニャの対応がいちばんの問題だったと思います。

倉敷 キミッヒに加えミュラーも不在だったことで、バイエルンにはピッチ上でキャプテンシーを発揮するタイプの選手がいませんでした。試合後にロベルト・レヴァンドフスキが「我々はチャンスを作る努力をしてなかった」と監督批判ともとれるコメントを残しましたが、真のキャプテンがピッチ上にいなかったことの方が重大な問題だった気がします。

さらに、バイエルンは次のラウンドを戦うためのエネルギーや戦力に不足していた気もします。第1戦でリバプールの攻撃力を封じ込めるためにたくさんのエネルギーを費やしたことで、消耗から回復しきれていない選手たちのパフォーマンスは落ち、第二戦ではレヴァンドフスキに届けるパスの本数さえ足りていませんでした。ホームで圧倒するバイエルン、という例年のイメージはなかったですね。

 小澤さんは第2戦をどのように見ていましたか?

小澤 中山さんのご指摘どおり、バイエルンは第1戦をうまく乗り切ったことでホームでの第2戦は少し気持ちが前掛かり、攻撃的になっていました。もちろん、CLでもバイエルンは毎年優勝を狙う実力を持つクラブですので当然のことではありますが、リバプールのカウンターをうまく処理できるだけの守備戦術は持っていません。少なくとも前半はマネやサラーにスペースを与えないような試合運びをしたかったところでしたが、リバプールにうまくロングパスを使われてカウンターの形を作られてしまいました。

倉敷 それにしてもリバプールのマネは絶好調ですね。これまでに彼がチャンピオンズリーグで決めた13得点のうち、なんと9得点がノックアウトステージでのものだそうです。シーズン後半戦に調子を上げてくるタイプなんですね。リバプールがどこまでいけるかの鍵を握っていそうです。

中山 個人的にバイエルンとの第2戦で気になったのは、リバプールが3トップの配置を時間帯によって頻繁に入れ替えていたことでした。開始は左にサラー、中央にフィルミーノ、右にマネが位置していましたが、8分にユルゲン・クロップ監督がマネと話したあと、サラーがセンター、左がフィルミーノという配置に変更しました。その後まもなく右にサラー、中央にフィルミーノ、左にマネという通常の並びになりました。

 その狙いがどこにあったのか、わからない部分もありますが、少なくともそれによってバイエルンの守備陣に混乱が生まれたように思います。相手にしてみれば、リバプールの3トップで最も警戒しなければいけないのはモハメド・サラーで、その次に注意しなければいけないのは捕まえにくいロベルト・フィルミーノだと思います。そうなると、3人のなかでどうしてもマークが緩くなってしまうのがマネになってしまうのではないでしょうか。これは、決勝トーナメントでマネがゴールを量産していることと無関係ではないように思います。

倉敷 ベスト8で対戦するポルトは、その3トップをどう抑えるでしょうか。ポルトはラウンド16ではローマと対戦、第1戦のオリンピコでは2-1で敗れましたが、第2戦のホームゲームで2-1と追いついて、延長戦の末に3-1で勝利しました。おふたりの印象はいかがですか?

小澤 ポルトとしては、できる限りスリーラインをコンパクトにしてリバプールの前線にスペースを与えない試合展開に持ち込みたいところです。ただ、国内では真逆の展開が当たり前のチームですので、守備から入る試合運びがうまくできるかどうか。そこはセルジオ・コンセイソン監督の手腕の見せ所です。

中山 どちらが勝っていてもおかしくない試合だったと思いますが、最終的には途中出場した選手の差が明暗を分けた印象です。勝ったポルトで言えば、延長後半にPKをもらったフェルナンド・サントス、負けたローマでは、そのファールを犯してしまったアレッサンドロ・フロレンツィです。

 ただ、それよりもローマの敗因として挙げたいのは、今シーズンは監督のディ・フランチェスコの引き出しが尽きてしまった感があったことではないでしょうか。実際、彼はその後に解任の憂き目に遭いましたし、振り返れば、昨シーズンのバルセロナ戦のジャイアントキリングが彼のハイライトだったように思います。個人的には期待していた監督なので、少し残念に感じますが。

小澤 ポルトは、ムサ・マレガとソアレスの2トップになってよくなった印象を受けます。それと、個人的にはエデル・ミリトンを右サイドバックで使うのはどうかとは思っていますけど、今シーズンは右サイドバックが年齢的な衰えも見えるマキシ・ペレイラがファーストチョイスだったので仕方ない部分はあります。冬にペペが復帰したことでコンセイソン監督はミリトンを右サイドバックにコンバートしました。逆に、このチームの売りは、左サイドバックのアレックス・テレスですね。セットプレーのキッカーを務めていることも含めて、彼がキーマンになっていますし、その他ではキャプテンのエクトル・エレーラも欠かせない選手です。

中山 心配なのは、そのエレーラが第1戦は累積警告によって出場停止という点ですね。ポルトにとって、彼の不在をどのようにカバーするのかが第1戦の最大のテーマになりそうです。

 4-4-2を基本布陣とするポルトは、エレーラとダニーロ・ペレイラのダブルボランチが回転するようにして縦横無尽に動き回って、常にそれぞれがベストなポジショニングを選択できている印象があったので、ポルトにとってエレーラ不在は痛恨でしょうね。

小澤 エレーラの代わりとなると、なかなか難しいですね。オリベル・トーレスでは少し軽すぎると思いますし、監督からの信頼も守備面では厚くはないですからね。セルジオ・コンセイソン監督も悩ましいでしょうね。

中山 個人的にセルジオ・コンセイソンの指揮に注目しているので、そこはある意味で楽しみにしています。彼は2016-17シーズンに崩壊状態のナントの監督に途中就任して、あっという間に立て直したことがありましたが、その頃から気になっていました。結局、ナントの契約延長のオファーを断ってポルトに栄転したわけですけど、現役時代にセリエAで活躍していただけあって、ポルトガルのモダンな要素にイタリア的な戦術をミックスして自分のスタイルを築いている印象を受けます。

 そういう意味では、セルジオ・コンセイソンの4-4-2が、リバプールの4-3-3に対してどこまで対応できるのかという部分は注目だと思います。リバプールの3トップは、攻撃時も守備時も4バックの間のスペースをうまく使うので、4-4-2のチームにとっては相当にやっかいです。とくに近年は、戦術的な進化によって4バック受難の時代とも言えますしね。

 そういう時代のなか、論理的には最も前後左右のバランスが取れているはずの4-4-2でリバプールを苦しめることができたとしたら、セルジオ・コンセイソンという監督も大きくクローズアップされるでしょうし、再び4バック主流の時代に変化するきっかけになるかもしれないのではないかと、勝敗とは別の視点で期待して見たいと思います。

小澤 エネルギーを効率よく使って、プレッシングの強度も高いサッカーをしていますしね。ローマとの第2戦も、直前にベンフィカとのクラシコを戦ってから臨みながら、あれだけのパフォーマンスを見せたわけですから、たいしたものだと思います。それと、ラ・リーガのファンにとっては、安定感抜群のイケル・カシージャスのプレーも必見です。

中山 懐かしいところで言うと、ペペも頑張っていますね。ミスも目に付きますけど、睨みが利いた守備は相変わらずですし、個人的には彼のダーティーなところも微笑ましく感じられるようになりました(笑)。年齢のせいか、ほほの部分が少しこけてしまった感じはしますけど。

小澤 ただ、ペペもフェリペもさほどスピードはないので、ポルトとしては彼らセンターバックふたりが、リバプールのスピードスターに対応できるのかという不安はあると思います。

倉敷 では準々決勝の展望です。リバプールは左サイドバックのアンドリュー・ロバートソンが第二戦、後半のアディショナルタイムにイエローカードを受けてしまい出場停止です。これは痛いところですが、おそらく左サイドバックにはどこでもできるジェイムズ・ミルナーが入るでしょう。ジョーダン・ヘンダーソンのコンディションも気になるところですが、ここもファビーニョがいるので問題なさそうですね。

中山 ファビーニョは、ラウンド16の陰の立役者でしたね。第1戦はファン・ダイクの代わりにセンターバックでプレーして、第2戦では開始早々に負傷したヘンダーソンの代わりにアンカーを務めました。どちらも質の高いプレーを見せ、彼の売りでもあるポリバレント性が発揮された格好です。加入当初はフィットするまでに時間がかかりましたが、今ではチームに欠かせない選手になりましたね。

倉敷 リバプールはここ数年で選手が成長し、よい補強もできて戦力が整いましたから、クロップ監督の選択肢もかなり増えています。

気になるのは国内リーグとの兼ね合いです。シティとの優勝争いは最後までもつれそうですが、リバプールのフロント陣はチャンピオンズリーグよりもプレミアリーグのタイトルを取って欲しそうです。再び”二兎を追う者は一兎も得ず”になったら、フロントは煩わしそうですよ。

小澤 たしかに、プレミア優勝がかかっているとしたら、どんな相手でも絶対に落とせないというプレッシャーがありますし、思い切ったローテーションも組めないので、ギリギリの戦いが続くことになりますね。

倉敷 とくにおなじみの3トップは常にスタメンで出場し続けているので、彼らがコンディションを最後まで維持できるかがポイントでしょう。

小澤 リバプールにとっては、そこがCL優勝の障害になりそうですね。もっとも、このポルト戦に関しては問題ないと思いますが。バイエルン戦のように、ホームでの第1戦でアウェーゴールを奪われなければ、リバプールの勝ち上がりは堅いのではないでしょうか。

中山 逆にポルトは失うものがないので、思いっきりチャレンジして、いろいろな可能性を見せてほしいですね。

倉敷 そうですね。ジョゼ・モウリーニョ監督が率いたポルトがCL優勝を果たしたのは2003-04シーズンですから、もう15シーズンも前のことです。あれ以来CLでダークホースが優勝したことはありません。大きなお金が勝敗を左右する時代になって久しいということですね。

 さて、再びのアップセットをポルトは起こせるか? 懐かしい時代を思い出しながらこの一戦を楽しむのもいいですね。