4月2日、競泳の日本選手権が開幕する。 今大会は7月の世界選手権の代表選考会を兼ねている。昨年の日本選手権でも活躍し、笑顔を見せていた大橋悠依 決勝で派遣標準記録を突破し2位以内に入れば代表に決定する、いつも通りの一発選考だ。しかし今大会…

 4月2日、競泳の日本選手権が開幕する。

 今大会は7月の世界選手権の代表選考会を兼ねている。



昨年の日本選手権でも活躍し、笑顔を見せていた大橋悠依

 決勝で派遣標準記録を突破し2位以内に入れば代表に決定する、いつも通りの一発選考だ。しかし今大会で派遣標準記録突破者が出ず、代表選手が決まらなかった種目に関しては、5月末のジャパンオープンで追加選考を行なう。これはあくまで今大会で代表選手が決まらなかった種目だけの選考なので、日本選手権は今年国内では最も大切な大会だ。

 これまでオリンピック前年の世界選手権ではジャパンオープンでの追加選考は行なわれていなかった。日本水泳連盟は自国開催の東京五輪に向けて競泳種目は全種目エントリーを目指しており、五輪前最後の世界選手権となる今夏の大会に少しでも多くの選手を送り込み、世界の舞台を経験させたいとの思いが感じられる。

 オリンピック前年の世界選手権はとても重要になる。

「仮想五輪」と言ってもいいと思う。

 来年の東京五輪に向けて、自分がどの位置にいて、来年はどのあたりを狙えそうなのか、五輪における最終目標までの進捗はどうなのか、などを実際に五輪で戦うライバルたちのいる国際大会で把握する最後のチャンスだ。

 つまり今夏の世界選手権の成績が、来年の東京五輪に向け、選手自身が思い描く最終目標に大きく影響するからだ。

 実際私もロンドン五輪前年の2011年世界選手権で、200mバタフライで銀メダルを獲得し、150mをトップでターンしたことによって、「来年の五輪では金メダル」という目標を強く思い描くことができた。結果、その目標は達成できなかったが、選手が目標を実現可能なものと思えない限り、挑戦することすらできないのだ。

 実際に五輪前年からギアを上げてくる海外勢も多い。そんな「仮想五輪」の舞台に少しでも多くの選手が立てることを祈っている。

 女子個人メドレーの大橋悠依は順調にトレーニングを消化しており、元々の持ち味である伸びのある泳ぎに力強さが加わって来た。プールサイドにバイクを置きスイムとバイクトレーニングを交互に行なうなど、今シーズンに入って下半身の強化が順調に進んでいる。力強いキックを最後まで止めることなく撃ち続けられたら、200m、400mの2種目で自己記録の更新も期待できる。

 さらに、大橋は今回200mバタフライにもエントリーしていてこちらも楽しみな種目だ。最後の最後まで展開が読めないこの種目、彼女の持ち味である効率のいい泳ぎで後半スルスルと上がってくる可能性もあるだろう。

 しかし、200mバタフライではこの種目リオ五輪代表の長谷川涼香も今シーズン好調を維持している。昨シーズン長谷川はよりキックの効いた泳ぎにする為、泳ぎの改良を試みていた。長谷川の持ち味は「腕で引っ張るバタフライ」だったが、今後、よりスピードの上がる泳ぎにしていくための改良だった。昨年はその新しい泳ぎになかなかアジャストできずに苦しんだが、今シーズンになってやっとその取り組みが花開き始めている。1月のオーストラリア合宿でも世界のライバルを圧倒する泳ぎを見せていた。長谷川にはこの種目の第一人者としての泳ぎをぜひ見せてもらいたい。

 400m個人メドレーで、世界選手権で2度金メダルを獲得している瀬戸大也はシーズンインから好調を維持している。瀬戸は実績が示すように、すでに完成度の高い選手だ。その完成度の高い瀬戸が自身の伸びしろと感じている部分がレース展開だ。

 4種目の中で一番苦手な背泳ぎが2番目にあることで、2017年までの瀬戸はどうしても萩野公介やアメリカのチェイス・カリシュから前半で遅れを取ってしまい追いかける展開となる。そこに伸びしろを見出した瀬戸は昨シーズン、前半から積極的に入ることをテーマとし、常にそのレース展開を実践してきた。

 そのスタンスは今シーズンに入ってからも変わらず、徹底的に前半から攻めるレースを繰り返している。選手にとって、冬場のしかもコンディションの万全でない大会で前半から攻めるレースをすることはかなり勇気のいることだが、徹底してそれをやりきる瀬戸の泳ぎに、「この取り組みで現状を突破したい」という強い気持ちを感じた。それらの取り組み一つ一つが刺激となって、瀬戸を強くしたと思う。最大のライバル萩野が欠場したことによって瀬戸は今大会完全に自分に集中してレースができる。昨シーズンから磨いてきた積極的なレースパターンで好記録を期待したい。

 男子200m平泳ぎの2強対決にも注目したい。世界記録保持者の渡辺一平と、この種目で日本選手権4連覇中の小関也朱篤だ。2月上旬に行なわれた、きららカップで直接対決をし、共に2分8秒前半の好タイムで泳いでいる二人。その時は小関に軍配が上がっているが、そこからそれぞれ米国での高地トレーニングを行なっている。小関は5連覇を、渡辺一平は自身が持つ世界記録の更新を目標としており、この世界トップレベルの直接対決からは目が離せない。

 男子200mバタフライも熾烈な代表権獲得争いが予想される。自己ベストの持ちタイムでは3番手だが、好調の瀬戸大也が中心のレースとなりそうだ。その瀬戸より速い自己記録を持つリオ五輪銀メダリストの坂井聖人と昨年の日本ランキング1位の幌村尚も実力者だが、この二人は共に昨シーズン肩の不調に悩まされた。そこからどの程度復調しているかがポイントになる。昨年1分54秒台に突入し、勢いのある矢島優也にも注目だ。世界選手権でメダルを獲るためにも1分53秒台での勝負に期待したい。

 男子自由形短距離の中村克己にも日本記録更新の期待がかかる。同世代の米川琢コーチと豊富なディスカッションをもとに独自のトレーニングを考案し、自分自身を追い込んでいる。トレーニングは苦しいものだが、自ら工夫したトレーニングで自分が向上していくのを楽しんでいるようにも見える。きららカップでも好タイムを出しており、状態がいいのは折り紙つきだ。 

 課題は狙った大会で好タイムを出すこと。オリンピックも世界選手権も一発勝負だ。狙った大会で記録を出してこそ本物だ。今大会、そして世界選手権と狙った大会でベストパフォーマンスを見せてほしい。

 その他にも注目レースが沢山ある。来年に迫った東京五輪に向け、若手の選手は何としても五輪前に世界の舞台を経験しておきたいところだ。ニューフェイスの誕生にも期待したい。

 平成最後の日本選手権、そしていくつもの名場面を生んできた辰巳国際水泳場でも最後の日本選手権となる。みなさんも、ぜひ会場に応援に来て欲しい。

 私も毎日会場に足を運び、選手の頑張りをレポートしたいと思う。