勝ち点1を得るにとどまったことを悔やむべき試合だったのか。あるいは、勝ち点1を確保できたことを喜ぶべき試合だったのか。…
勝ち点1を得るにとどまったことを悔やむべき試合だったのか。あるいは、勝ち点1を確保できたことを喜ぶべき試合だったのか。
「(昨季の)アジアチャンピオンのチームであり、(今季も)調子が上がってきたチームに対して、よく最少失点で乗り切ってくれた。あれだけクオリティの高いボール回しと、個の突破を見せた相手に対して、粘り強く守ることができた」
試合後、ジュビロ磐田の名波浩監督が口にしたその言葉、そして、その時の表情からは、磐田にとってこの試合が後者であったことがうかがえた。満足はできないが、納得はできる試合、といったところだろうか。
J1第5節、磐田はホームで鹿島アントラーズと対戦し、引き分けで勝ち点1ずつを分け合った。後半開始直後に磐田が先制し、終盤に鹿島が追いついての1-1である。
対戦相手の鹿島は昨季、AFCチャンピオンズリーグを制し、J1でも3位という成績を残した。対照的にJ1で16位に終わり、J1参入プレーオフでギリギリの残留を勝ち取った磐田から見れば、明らかに”実力上位”のチームである。その認識が当事者にもあったことは、指揮官のコメントから読み取れる。

「格上」の鹿島相手に先制した磐田だったが...
だからこそ、納得の勝ち点1だったわけだが、客観的に試合展開を振り返れば、やはりもったいない試合だったという印象は拭えない。
何しろ、磐田は前節を終えて、2敗2分けと未勝利。加えて、そこまでの対戦相手が、昨季J1で2位のサンフレッチェ広島を除けば、同14位のサガン鳥栖、そしてJ2からの昇格組である松本山雅FCと大分トリニータだったことを踏まえると、かなり厳しいスタートとなっているのである。そんな悪い流れを断ち切るためにも、まずはひとつ、勝利が欲しかったはずだ。
しかも、試合は、磐田にとって理想的な展開で進んでいた。
名波監督が「いい守備がいい攻撃につながるという典型的なゲームだった。非常にいい(守備の)ブロックが構築され、危険なシーンは少なかった」と振り返る前半を経て、後半開始から1分も経たないうちに、右サイドの突破から最後はゴール前に走りこんだMF松本昌也が決めて先制。磐田が5試合目で初めて奪った先制点は、初勝利の期待を大きく膨らませてくれるものだった。
おそらく調子のいいチームなら、これでイケると勢いに乗っただろう。焦る鹿島を後目に、カウンターから追加点を奪うこともできたかもしれない。
しかし、皮肉なことに、結果が出ていないチームには、虎の子の1点が重荷になってしまった感は否めない。本来、勇気を与えてくれるはずの先制点が、逆に、選手たちの「1点を守らなければいけない」という意識を強めることになった。
鹿島のDF内田篤人が、「他のチームのことを言うのは、アレだけど」と前置きしたうえで、「パスがどうこうとかではなく、選手の顔とか、雰囲気とかが、勝てていないチームの感じだった」と話していたが、まさにそのとおりだろう。
加えて言えば、先制点が入った時間がいかにも早過ぎた。0-0でこう着状態のまま試合終盤を迎え、そこで先制していれば、少々守りの意識が強まったところで逃げ切れたかもしれない。だが、後半の45分間をほぼ丸々残した状況で、鹿島を相手に受け身に回ったのでは、超のつく劣勢を強いられても仕方がない。
後ろに人数を残し、引いて守るだけになってしまったことに、名波監督も「前向きに守備ができなかった」と話していたが、先制後の磐田は、ほとんどの時間で自陣に閉じ込められることになり、鹿島の猛攻をただただ跳ね返すだけになってしまった。
選手の口から聞かれたのも、試合の進め方についての課題だった。MF山田大記が語る。
「(ボールを奪っても)悪い意味で攻め切ってしまって、すぐにまた守備に回ることになる。(パスをつないで)高い位置まで相手を押し込めれば、(先制後、失点するまでの)30分間守り続けることにはならなかった。まだ遅攻が下手。意識的な遅攻ができない。無理に(攻撃を)やり切らなきゃと思うから、バタバタ感が出てしまう」
FW大久保嘉人もまた、山田以上に辛辣な言葉をまじえ、同じ課題を口にする。
「先制したのに、案の定やられてしまう。これでは、どこで勝つのかなという感じ。後ろ体重にならず、(相手に攻撃に)来られても、ブロックを組んで慌てずにやるのが大事なのに、(ボールを奪っても)ビビッて蹴っちゃうから、相手に(ボールを)拾われて後ろ体重になってしまう。慌てて(攻撃に)行って(ボールを)取られて、またすぐに(守備に)戻らなければいけなくなる」
今季J1での5試合で、磐田が初めて奪った先制点は、同時に、磐田に初めてのリードをもたらした得点でもあった。だが、そんな理想的な試合展開も、初勝利にはつながらなかった。大久保の顔にうっすらと浮かぶ自嘲気味の笑みが、心のうちにある落胆を物語る。
「点を取ったなら、どうにかして勝たないと。それもできないとなると、(勝つのは)難しい」
今季J1は第5節終了時点で未勝利のチームが、磐田の他にも2チームあるおかげで、幸いにして磐田はJ2自動降格圏(17位以下)こそ免れているが、現時点での順位は昨季最終順位と同じ16位。昨季終盤から続く悪い流れを、依然変えられずにいる。
鹿島の内田が、「山田はドイツにいたときからよく見ていたが、いい選手。シュンさん(MF中村俊輔)もそうだし、ああいう選手がいれば大丈夫」とも話していたように、確かに磐田は戦力的に見れば、上位を争っても不思議はないチームである。ちょっとしたきっかけで、一気に浮上してくるのではないか。そんな期待がないわけではない。
だが、昨季第32節から通算でJ1では8試合未勝利の現在、楽観的な見立ては禁物だろう。アジア王者の猛攻をしのいで手にした貴重な勝ち点1も、浮上の兆しと呼ぶには心もとないものだった。