3月31日、シンガポールの格闘技団体「ONE Championship(以下:ONE)」のイベントが、両国国技館で開催される。 ONEはキックボクシング、ムエタイ、総合格闘技、グラップリングなど、あらゆる格闘技を網羅した団体。アジアの主要…

 3月31日、シンガポールの格闘技団体「ONE Championship(以下:ONE)」のイベントが、両国国技館で開催される。

 ONEはキックボクシング、ムエタイ、総合格闘技、グラップリングなど、あらゆる格闘技を網羅した団体。アジアの主要スタジアムで行なわれる各大会の視聴者は138カ国17億人に上り、各国から実力ある選手が集っている。

 そんなONEの日本初となる大会「ONE:A NEW ERA -新時代-」のメインを務めるのが、日本の青木真也(35歳)だ。かつて、卓越した寝技で「PRIDE」などでファンを沸かせ、2012年にONEと契約を交わしてから団体を象徴する選手として活躍を続けてきた青木が、ライト級世界タイトルマッチの挑戦者として戦いに臨む。

 大舞台を前にインタビューに応じてくれた青木は、ファンにはお馴染みの”歯に衣着せぬ”口調で、格闘家の枠を超えた人間としての生き方を語った。




格闘技イベントONEのメインを務める青木真也

--近年は海外での試合が多いですが、日本のほうが調整はしやすいですか?

「やりづらいです。こういうインタビューとか、いらない仕事が多いからね。それは冗談ですけど(笑)。調整は海外での試合とあまり変わらないですよ」

--日本でのMMA(ミックスドマーシャルアーツ=総合格闘技)の試合は2015年12月の桜庭和志選手との対戦以来となるので、楽しみにしているファンも多いと思います。

「あの試合がMMAだったかというと微妙ですけどね。ルール自体はMMAだったけど、彼が100%の状態に仕上げてこなかったから、オレは(桜庭のことは)好きだけど認めてない。『一生懸命やってこいよ』と。だからあの試合をMMAだと認めたくない、という感じかな」

--青木選手は、立ち技とのミックスルールでの試合やプロレスにも出場してきましたが、どんな試合でも「一生懸命」というのは変わらない?

「もちろん。一時、階級を(ライト級から)ウェルター級に上げたときも常に100%でやっていた。どれだけ分が悪いと思える試合でも、準備で手を抜いたことは一切ない。ここまで50戦以上やってきたけど、そこに関しては相手に失礼なことはしていないと自負してます」

--しっかり仕上げるというのは、恐怖を感じていることの裏返しでもあるんでしょうか。

「それもあるかもしれないけど、オレは誰よりも格闘技が好きだから。格闘技は、生きるのがかったるくて死にたいとも思うようなところから、恐怖を打ち消して試合に向かっていく。その過程に価値があると思っています。そこは一般の人も引っかかるところがあるだろうけど……オレは大衆の心に刺さるようにやっているわけじゃないからね」

--青木選手は「生き方」に関する書籍を発表するなど、あらゆる形で自らの言葉を発信していますが、それは大衆に向けたものではないんですか?

「オレが発信することに引っかかるのは、マイノリティというか、自分が世間と”違う”と思っていたり、うまくいかないことに悩んでいたりする人。そうじゃない人の多くは、派手で、どれだけ金を使ったかってところに興奮するけど、その価値観はオレにはわからないんですよ。まあでも、そういう”メジャー感”があるものを見て救われる人もいるだろうから、そこは那須川(天心)とかに任せます(笑)」

--35歳の青木選手は、就職氷河期を経験した”ロストジェネレーション”の世代にあたります。それも意識しているんですか?

「どうやって生きていけばいいかわからない人って年齢に関係なくいると思うんですよ。たとえば、どんなに能力が高くても、上の世代が詰まっていてうまくいかないとか。そんな人たちに言葉を届けたいですね。実際にオレも、今の自分が理想と離れていることにもがいているし。もっと強くありたいし、格闘技以外でも見せたいことがある」

--アジアをマーケットにしているONEは、どういった人たちに響くものだと感じていますか?

「オレの見立てとしては、ONEの選手のストーリーの作り方は、戦後日本の力道山的なものが多い。下から這い上がっていく”サクセスストーリー”といった感じ。そういうのはこれから発展していく国の人たちに、ある程度成熟した国では現状に悩んでいる層に響いているんじゃないかな」

--そんな中で、青木選手が求めていることは?

「生き方の話になるけど、”所有しない”こと。自分以外が作ったもの、社会のシステムとかも全部フィクションなんじゃないかって思うし。たとえばお金も、みんながその価値を信じていないと成り立たないわけでしょ。そうじゃなくて、自分だけですべてを完結できることが理想。それができたら、もっと生きていることを実感できるんじゃないかと思うんだよね。

 極論で言えば家を捨てたいね(笑)。使ってない時間のほうが長いし、コストがかかって無駄じゃないですか。車に住むとかして各地を転々としたい。5年後とかに選手として試合ができなくなっても、執筆したり格闘技を教えたりして収入を得れば2、3年はそんな生活ができるんじゃないかな。自分を使って社会実験をやってみたいですね。共感してもらえるかなんてわからないけど、新しい生き方をみんなに見せながら暮らしてみたい」



2015年以来となる日本での総合のリングへ

--自分の好きなように、趣味などに生きるということですか?

「いや、趣味は格闘技。あとサウナ(笑)。オレは、格闘技はサウナのようなものだと思っていて。練習や減量で自分に圧をかけて試合に臨んで、それを開放したときにとんでもない快楽が得られる。シンプルだから中毒性が強いんだよね。戦って金をもらって、飯を食うとかすごいリアルだし、生きてることを実感できるのがいいなと思ってる。あとは”ぶっ飛んでる”人が多いのもいいよね」

--青木選手も十分に”ぶっ飛んでる”ような……。

「年をとったら一般的な感覚が戻ってくると思っていたけど、むしろ先鋭化していっているね(笑)。自分のことが大好きで、何よりも自分を優先して発言や行動をするから、だいぶ危ないヤツだと自覚してますよ」

--それだけトンがっていくと、”敵”も増えそうですが。

「いや、敵はいないと思ってます。オレには”アンチ”もいるけど、あれは偏愛だから。ありがたいですよ。みんなファミリーだっていうことにして、困ったやつは助けようと思ってる。特に格闘技は、ジェットコースターみたいな仕事だからね。でも、仲間とは連絡は取ってもずっと一緒にはいたくない。オレが寂しくなって部屋に来てもらったとしても、すぐに『うざい』ってなるだろうし」

--だいぶこじらせていますね(笑)。

「そういう自分の矛盾してるところは大好きなんだけどね(笑)。パートナーにしても、オレをサポートしてくれる人じゃないと成り立たないんだけど、好きになるのは自分と同じような”ぶっ飛んだ”人だし。ひとりになりたいんだけど、それだと寂しくなる。誰かと一緒にいるのを我慢するのか、それを捨てて寂しさを取るのか。オレの人生、”超ハードモード”だよ。

 ごめん、試合のこと話そうか(笑)」

--3月31日のONEの試合は、2016年11月にライト級王座を奪われたエドゥアルド・フォラヤン(フィリピン)とのリマッチになります。前回の試合では、寝技で優位に試合を進めていましたが仕留めきれず、打撃でKOされてしまった。今回、警戒すべきところは?

「警戒というよりも、自分の強いところを出すことが大事。全部ぶつけて、結果はどうあれ悔いなく終わりたい」

--青木選手にとっては2年ぶりの王座奪還がかかった試合で、しかもイベントのメインという重圧もあると思いますが。

「ここまでキャリアを重ねてきた今、こんなに重圧や責任感のある仕事を任せてもらえることには感謝してます。(格闘技ブームが終わった)20代後半の頃は、『大きいイベントでメインを張るようなことはもうないのかな』と思っていたから。コツコツやっていれば、またこういうことがあるのかなとも思うし、やめられないですよね」

--試合に向けた準備で、年齢の影響を感じることは?

「心理的なストレスが大きくなったこと。若いときは主観で突っ走れるけど、年齢が上がっていろんなことを経験すると客観性が増して、いろんなことに不安を感じるようになるから。『他のやつはもっとやってる』と人と比べたり、『自分の体力が落ちているんじゃないか』とか思ったり。一番幸せなのは、自己否定をせずに突っ走れるやつ。客観性が増してきたことはつらいよ」

--それを乗り越えるために必要なことは?

「それは単純なことで、やっぱり一生懸命やり続けること。試合という目標を定めてもらったら、全力でそこに向かっていく。それしかないね」

--31日の試合では何を見てもらいたいですか?

「勝手に決めて(笑)。オレは一生懸命いいものを提供するから、それをどう判断するかは見る側に任せますよ」