インディカー・シリーズ第2戦は、テキサス州の州都オースティンにある、F1グランプリ開催のために作られたサーキット・オブ・ジ・アメリカス(COTA)で初めて行なわれた。 コース前半には高速コーナーが連続し、ヘアピンコーナーで折り返した先…

 インディカー・シリーズ第2戦は、テキサス州の州都オースティンにある、F1グランプリ開催のために作られたサーキット・オブ・ジ・アメリカス(COTA)で初めて行なわれた。

 コース前半には高速コーナーが連続し、ヘアピンコーナーで折り返した先の後半にはハードブレーキングが必要なコーナー、さらには右、左と曲がるセクションが続く。低速から高速まで、どんなコーナーでも安定して速いマシンに仕上げることが求められるテクニカルなコースだが、勝ったのは、なんとデビュー3戦目のルーキー、コルトン・ハータ(ハーディング・スタインブレナー・レーシング)だった。

 キャリア初優勝はもちろん、18歳11カ月と25日という、インディカー史上最年少ウィナーの誕生だ。チームにとっても創設わずか3年目の初優勝だった。



史上最年少でCOTAでの優勝を飾ったコルトン・ハータ

 インディカーのレースでは経験が大きくものをいう。とくにオーバルコースにおける特殊なドライビング環境でそれは当てはまる。超高速で走るマシンを使ったバトルは、自分だけでなく、他車の作り出す乱気流の影響を知り尽くした走りが求められるからだ。ロードコースやストリートコースでも、経費節減のためにテストの機会が少なくされているため、データやノウハウを蓄積しているベテランが、若手に対して有利な面がある。

 これまでの最年少ウィナーはグレアム・レイホールだった。2008年の開幕戦セントピーターズバーグのストリートコースにおいて、彼は19歳3カ月と2日で優勝を飾った。レース展開も大きく味方した幸運な勝利だった。その前の最年少ウィナーは同じく19歳だったマルコ・アンドレッティ。2006年にソノマの常設ロードコースで記録された。

 レイホールは、インディカーで3回チャンピオンになり、インディ500でも優勝しているボビー・レイホールの息子。アンドレッティは、F1とインディカーの両方でチャンピオンになった最初のドライバー、マリオ・アンドレッティの孫で、父マイケルもインディカー・チャンピオンだ。ふたりは、若いうちからチャンスを与えてもらえる血筋のよさというアドバンテージを見事に活用したわけだ。

 今回勝ったハータの父、ブライアンも、インディカーで4勝している元ドライバー。現役引退後はチームオーナーに転身し、インディ500で2勝と大成功を収めている。

 息子のコルトンは、自分が共同オーナーのチーム=アンドレッティ・ハータ・オートスポート・ウィズ・マルコ・アンド・カーブ・アガジェニアンではなく、ハーディング・スタインブレナー・レーシングから出場している。だが、いずれもアンドレッティ・オートスポートというグループの一員で、両チームと5人のドライバーがフルに情報交換を行なってマシンを仕上げることが可能な強力な参戦体制となっている。

 2008年のグレアム・レイホール同様に、幸運が味方しての初優勝だった。しかし、予選で4番手というグリッドを確保し、レースでも、スタートからずっとトップ3のポジションを保ち続けたからこそ、追っていたライバル2人の前に出る幸運を授かった。

 勝利を決定づけた幸運とは、ハータのピットタイミングだった。ポールポジションからトップを走り続けたウィル・パワー(チーム・ペンスキー)と、それを追い続けた予選2位のアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)。周回を重ねると彼らに差を広げられる戦いとなっていたハータは、そのダメージを小さくすべく、彼らより1周早くピットインする状況となっていた。

 レース終盤、彼がこの日3回目の、そしてこのレース最後のピットストップを行なうと、その直後に他車のアクシデントが発生してフルコースコーションとなった。ペースカー導入、追い越し禁止となって、パワーとロッシはコースの安全が確保された後にピットに向かうしかなかった。

 作業を終えてコースに戻ると、ハータをはじめすでにピットストップを終えていたドライバーたちの後ろ、14番手、15番手でレースに復帰。レースが再開されると、もう残り周回数は10周しかなく、彼らは中団グループに埋もれたままゴールを迎えるしかなかった。

 絶妙のタイミングで出されたフルコースコーションで、ハータはトップに躍り出た。タイヤの消耗が大きく、周回を重ねるとペースダウンしていた不利が、幸運につながったのだ。

「まさか勝てるとは思っていなかった。表彰台が目標だった」とハータは語るが、まさにそういう戦いを行なった。

 COTAでのインディカーレースが初開催で、ベテラン勢にノウハウというアドバンテージがなかったこと、シーズンオフの合同テストがCOTAで行なわれ、2日間の走り込みを行なうチャンスがあったこと、レース中の路面の変化が少なく、経験がものをいう対応の難しさがなかったことなど、いくつかの要素がハータに味方した。開幕1カ月前に行なわれたテストで、COTAのコースに自分のドライビングがマッチしていると知った彼は、水を得た魚のように走り回り、最速ラップを出していた。

 昨シーズンの最終戦でデビューした時には、目立った走りを見せることができなかった。しかし今回は、キャリア35勝の元チャンピオン、パワー、現在の若手最強ドライバーで、キャリア5勝のロッシらとのポジション争いを展開。ベテランのような落ち着いた戦いぶりを見せ続け、最後のリスタートからは2017年チャンピオンのジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)を突き放して、堂々たるゴールを実現した。

 アメリカのインディカーファンはドライバーの出身地や国籍にこだわらない。彼らの心を掴むのは、ライバル勢を圧倒するスピード、勝利に対する貪欲さといった個性だ。新しいアメリカ人ウィナーとしてCOTAで大歓声を浴びたハータ。不慣れな記者会見では、声も小さく、言葉数も少なかったが、内に秘めた自信と闘志には並々ならぬものがあるようだ。今後、どんな戦いぶりを見せ、どんなキャラクターを確立して人気を獲得していくのか、とても楽しみだ。

 インディカー参戦10シーズン目を迎えている佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、予選のアタックラップが他車のクラッシュによる赤旗で計測されず、14番手からのスタートとなったが、1回目のピットストップを早めに行ない、残り周回は3セットのソフトタイヤで押し切る作戦が奏功し、ポジションを着々と上げていく戦いを披露した。

 最後のピットストップでのエアジャッキトラブルで順位を落としたが、ハータを優勝に導いたフルコースコーションは琢磨にも有利に働き、リスタート後に1台をパスして7位でゴールした。その彼も、「今年のルーキーたちは元気がいい。負けないように頑張らないと」と話していた。

 開幕戦はマシントラブルによるリタイアだった琢磨。今回もトラブルに見舞われた点は改善の余地ありだが、確実に走り切っての7位フィニッシュは好結果と言える。次戦はアップアンドダウンのあるツィスティなアラバマ州バーミンガムのロードコースが舞台。ハータはどんな走りを見せるだろうか。

 今季のインディカーには、他にも、スウェーデン出身のフェリックス・ローゼンクビスト(27歳、チップ・ガナッシ・レーシング)、昨年ハータを打ち負かしてインディライツチャンピオンになったメキシコ人、パト・オーワード(19歳、カーリン)、F1からスイッチしたスウェーデンのマーカス・エリクソン(28歳、シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)、アメリア・コネチカット州出身のサンティーノ・フェルッチ(20歳、デイル・コイン・レーシング)と、将来有望なルーキーが目白押しだ。