立ち上がりから、乾貴士(アラベス)は苛立っているように見えた。 左サイドでフリーになっても、ボールが出てこない状況…

 立ち上がりから、乾貴士(アラベス)は苛立っているように見えた。

 左サイドでフリーになっても、ボールが出てこない状況に、天を仰いで不満を露(あらわ)にする。森保体制下でサブに甘んじている状況に、焦りがあったのかもしれない。自身の力を示し、生き残りのためにアピールしたい気持ちがあったのだろうか。珍しく基本プレーのミスが目立ち、気合いが空回りしているのではないかと感じられた。



ボリビア戦で先発した乾貴士は積極的に若手をサポートした

 しかし、おそらくそうではなかった。乾はこのボリビア戦に、自身のアピールよりも重視していたことがあったように見えた。それは、森保一監督が強く求める「世代融合」のミッションだ。

 乾はこの日、自身の持ち場である左サイドでスタメン出場を果たしたが、サイドに張るだけではなく、ビルドアップの場面ではインサイドに絞って、くさびを受ける動きを繰り返していた。しかし、そのタイミングでボールが入らず、「なんで出さないんだよ」とばかりに両手を広げるジャスチャーで、出し手であるCBのふたり、とりわけ同サイドの畠中槙之輔(横浜F・マリノス)に何度も要求を繰り返していた。

 その場面について、乾はこう振り返る。

「もうちょっと持ち出して、俺のところを見たり、俺につけられなかったら(安西)幸輝(鹿島アントラーズ)を見たりっていうところですね。(三浦)弦太(ガンバ大阪)にしても、ハタ(畠中)にしても、最初のうちはボールを受けて止まっているシーンが多かった。それだとなかなかボールを動かせないし、相手も楽になる。だから、もうちょっと持ち出してくれっていう話をしました」

 苛立って見えたのは、できないことへの不満からではない。「できるのに、なぜやらないんだ」という叱咤である。

 畠中は、この試合が代表初キャップだ。ビルドアップ能力に定評があるものの、緊張により普段の力を出せない可能性も考えられた。しかし、乾は要求し続けることで、畠中の日常を引き出したのだ。

「約束事ではなく、自分で勝手にやった」というインサイドに絞る動きも、畠中の特徴を生かしやすい状況を生み出した。

「乾くんもあそこで受けたいって言ってますし、もしあそこで中を閉められても、今度は幸輝が外で空く。その攻め方は(所属クラブである)マリノスでやっている形だったので、自分としてはすごくやりやすかったです」と、畠中も乾の動きに感謝の意を示した。

 乾のサポート力は、畠中に対してだけではない。同サイドでコンビを組んだ安西に対しても、同様の気遣いがあった。

「乾くんが中に動き出してくれるので、外のスペースをうまく使えました。今日に関しては、乾くんに任せっきりでしたね。引っ張ってくれたんで、すごくやりやすかった」

 安西は前回のコロンビア戦で初キャップを刻んだものの、この試合が初スタメン。ハーフタイムには的確なアドバイスをもらったという。

「走るコースが少し外だったので、もう少し中にしてくれって言われました。それがうまく合って、後半はふたりの連係からチャンスを作れる場面が増えたと思います」

 実際に、前半はサイドの連動性が足りなかったが、後半立ち上がりにはボールを受けた乾が外を駆け上がる安西を使う場面も増加。要求、サポート、そして修正を繰り返した結果、生まれたのが、58分の決定機だった。

 中に絞った乾に、畠中がくさびを通す。ボールを受けた乾は、この場面ではサイドを駆け上がった安西をおとりにし、中に持ち込んで鎌田大地(シント・トロイデン)へと絶妙なスルーパスを供給。鎌田はGKの対応にあいシュートにまで持ち込めなかったが、確かな意図と連動性が備わった崩しのシーンだった。

 もっとも乾は、黒子役に徹していたわけではない。23分に決定的なシュートを放つなど、主役となれる可能性もあった。

「俺が決めていれば、もっと楽な試合になりましたし、そこは反省点です」

 乾は悔しさを露にしたが、すぐに言葉をつないだ。

「前の3人だったり、(柴崎)岳(ヘタフェ)が入ってすごく流れが変わったし、ああやって決める力が(中島)翔哉(アル・ドゥハイル)にはある。そういうところはすごいなって思いますし、いい選手だなって思いながらベンチから見ていました」

 自身は決めきれず、代わって入った選手が結果を残す。これ以上、悔しい状況はないだろう。しかし、乾は決して卑屈にならず、ポジション争いのライバルを称え、チームの勝利を喜んだ。

「アピールできなかったら、明日が最後になる可能性もある」

 試合前日、乾はそう語っている。しかし、悲壮感はない。

「プレッシャーとかはないですよ。自分のなかでそういう気持ちは常にあるし、別にそれは今思ったことではないので。1年おきに呼ばれたりとか、常に呼ばれている選手ではないので、それは常に思ってやっています」

 2009年に代表初キャップを刻んでから、すでに10年。その間、代表に呼ばれない時期も少なくなく、招集されても途中出場がほとんどで、ピッチに立てない試合もあった。それでもクサることなく研鑽を積み、昨夏にロシアの地で最高の輝きを放った。

 しかし、森保ジャパンにはしばらく招集されず、アジアカップでは再びサブ組に甘んじ、今も主軸にはなり切れていない。そのすべての経験が、今の乾を形作る。だからこそ、自身の立場を理解し、やるべきことに取り組んでいるのだろう。

 紆余曲折を経て、たくましさを増したスキルフルなアタッカーは、今後も日本代表に欠かせない存在であり続けるはずだ。