フットボールの世界では、「最後に勝つのはドイツ」と言われている。 だが、その勝者のメンタリティを、今季は隣国のライバル…
フットボールの世界では、「最後に勝つのはドイツ」と言われている。
だが、その勝者のメンタリティを、今季は隣国のライバルチームが披露している。チャンピオンズリーグの舞台ではアヤックスが、そしてネーションズリーグの舞台ではオランダ代表が勝負強さを発揮し、ヨーロッパのサッカーシーンでセンセーションを起こしている。

2点のビハインドをひっくり返して同点に追いついたオランダ代表
昨年11月、オランダはドイツとのアウェーゲームをゲルゼンキルヒェンで戦ったが、3日前に行なわれたフランスとの激闘(2-0でオランダの勝利)の疲れが残っていたため、プレーに精彩を欠いたまま0-2で終盤を迎えた。
ところが、クインシー・プロメスの一発で息を吹き返したオランダは、試合終了直前にフィルジル・ファン・ダイクが執念の同点弾を決めて、2-2のドローに持ち込む。この結果、オランダはネーションズリーグのリーグAグループ1を首位で通過し、6月の決勝トーナメント(ファイナル4)への出場を決めた。
「今の世代は、最後まで勝負をあきらめない」
それが、オランダで最近よく聞かれる代表チーム、そしてアヤックスに対する評価である。
だが、オランダサッカー復活のベースとなっているのは、やはり若きタレントであり、サッカーの質の高さであろう。
世界王者のフランスを圧倒して2-0で勝ったり、レアル・マドリードの敵地でアヤックスが4-1の勝利を収めたりするのだから、国内は盛り上がる。「今日は駄目だな」と思っても、土壇場にアヤックスがバイエルンから、オランダがドイツからゴールを決めて劇的に引き分けたりするのだから、人々は感動する。
「個の能力の高さ」「チームの一体感」「最後まであきらめない気持ち」。この3つが揃ったことで、オランダ代表とアヤックスはファンのシンパシーを取り戻した。
オランダ代表とアヤックスは違ったプレースタイルだが、非常によく似た点も多々ある。そのひとつは、オランダ代表がメンフィス・デパイ、アヤックスがドゥシャン・タディッチという、ゲームメイクもできるアタッカーを「偽の9番」として置いていることだ(アヤックスはCL限定の戦術で、国内リーグではストライカーを置いている)。
また、ランナータイプのMFを2列目に置いている点も共通している。オランダ代表ではジョルジニオ・ワイナルドゥム、アヤックスではドニー・ファン・デ・ベークがペナルティエリアの内側にどんどん入り込み、相手DFを撹乱させている。
さらに、ハイプレッシングからのショートカウンターも、両チームに共通している重要な戦術だろう。しかも、規律正しいプレーのできるタレントたちが、まるでストリートサッカーのような遊び心のあるトリックやコンビネーションを随所に魅せるのだ。そのプレーに色気があるので、それを見るためにスタジアムが満員になるのも当然のことだろう。
3月24日にヨハン・クライフ・アレーナで行なわれた欧州選手権予選「オランダvsドイツ」の試合チケットも、もちろんすぐ売り切れた。ドイツは世代交代の真っ只中の苦しい時期ということもあり、戦前予想はオランダの勝利が本命視。ところが、勝ったのはドイツだった。
オランダはドイツに2点を奪われて前半を折り返したものの、後半は猛攻を仕掛けて2-2に追いつき、さらに勝ち越しゴールを奪いそうな勢いだった。だが、劇的な決勝ゴールを決めたのは、オランダではなくドイツ。土壇場で黒星を喫することになった。
試合後の記者会見で、オランダを率いるロナルド・クーマン監督は「私の采配ミスだった」と認めた。オランダにとっては引き分けでも上々だったのだから、守備的な選手をピッチに入れて「引き分けでオッケーというシグナルを送るべきだった」と、後悔を口にした。
だが、個人的には、「このチームにとって必ず一度は経験すべき敗北だった」と捉えている。
前半にドイツの前線3人が繰り返したポジションチェンジに翻弄されたオランダは、ハーフタイムにそれをしっかりと修正し、後半のほとんどの時間帯をドイツ陣内で戦う「ハーフコート・フットボール」を展開した。試合の流れはオランダへと傾き、ピッチ上で戦う選手たちには「勝てる」という自信が膨らんでいたはずだ。
しかもオランダ人には、伝統の「攻撃サッカーの血」が流れている。他国のサッカーセオリーが通じないのが、オランダサッカーの弱さでありながら、強みでもある。だから、クーマン監督が試合中に頭の片隅で「引き分け狙いに切り替えよう」と思いながら、ベンチから立てなかったのも、また道理なのだ。
オランダにとって今回のドイツ戦は、とくに前半の戦いぶりに反省の残る結果となった。だが、後半のパフォーマンスからは、「今のオランダは正しい道を進んでいる」と確信することもできた。だから負けても、ヨハン・クライフ・アレーナの観客席からは大きな拍手が沸いたのだ。