3月20日、21日、MLB開幕シリーズが開催された東京ドームはイチローフィーバーに包まれた。 スーパースターのおそ…

 3月20日、21日、MLB開幕シリーズが開催された東京ドームはイチローフィーバーに包まれた。

 スーパースターのおそらく最後となる一挙手一投足にスタンド席で高揚したファンが、通りかかった売り子を呼び止めてハイボールを注文する。通路側のお客さんが受け取り、コップリレーのように真ん中の席まで回してくれる。最後に手渡してくれたとなりのお客さんにお礼を言おうと横を向くと、そこに座っていたのは西武の秋山翔吾だった――。



今季終了後にメジャー移籍が噂されている西武の秋山翔吾

「貴重な経験? というか、人としてやるべきことをやっただけですよ(笑)。今回の場合、何としても見に行きたかった。メジャーに興味があるとかないとかじゃなくて、イチローさんの姿を見たいという思いが強かったので行ったという感じです」

 メジャー開幕シリーズを、秋山は自腹でチケットを購入して観に行った。実際にメジャーの選手を見て、どう感じたのか――。3月23日にメットライフドームで行なわれたDeNAとのオープン戦の前、興味津々の記者たちが感想を聞こうと取り囲んだ。

「それ、俺、答えないほうがよくない? タイムリーすぎる」

 昨年12月、秋山は西武からの複数年契約を固辞し、今季終了後にフリーエージェント権を行使してのメジャー移籍が噂されている。質問した記者が「確かに」とうなずくと、秋山は「まあ、いいか」と話し出した。

「(メジャー投手の)ああいうボールをどう打ち返すんだろうなと、バッター陣を見ていました。イチローさんのコメントにもありましたけど、ボンズとかマグワイア、ソーサとかの頃とはまた違い、1番から9番までホームランを打てるバッターがいるのがメジャーの主流になっているので。

 逆に言えば、イチローさんとか青木(宣親/ヤクルト)さんのタイプは、それに抗いながらやっていたと思うんですよ。日本であれだけ活躍してメジャーに行った人たちが、そのスタイルのままやっていたということは、日本人がメジャーで成績を残すには、そっちのスタイルを必要とされるのかもしれない。

 でも、需要がない可能性もあるのでね。需要というのは、日本人のパワーヒッターもそう。じゃあ、本当にアベレージヒッターで3割打てたとしても、今のメジャーの野球に合わない選手がメジャーに行くのはどうなのかと思いましたよ。

 だいぶ突っ込んでしゃべっているけど、大丈夫? (メジャーに)行くことが前提みたいにしゃべっている。聞き方が悪いよ(笑)」

“秋山劇場”開幕だ。最後にしっかり落とすところが、さすがである。

 メジャーでは、打者の重要評価指標にOPS(出塁率+長打率)がある。

 秋山は過去2年続けて.933以上残しており、日本ではトップレベルだ。2018年の成績で言えば、出塁率はリーグ4位の.4029、長打率は同じく4位で.534だった。

「(メジャーで)OPSはもちろん重要視されているし、出塁に価値はありますけど、どうなんですかね。ツーアウトからフォアボールで塁に出てほしいわけではなく、ホームランで1点ほしいので。

 向こうは(開幕シリーズの)最初の初回もそうですけど、1イニングを6、7球で終わることをなんとも思っていないじゃないですか。とくにバッティングカウントで、ここは決めて振りにいくというときの振り方って、凡打になろうが空振りになろうが、まったく意に介してないようにも見える。そういうバッティングが打順関係なく行なわれるのでね。

 もちろん(マリナーズの1番)ディー・ゴードンみたいに、パンチもしっかりあったうえで足を使える選手もいるし。そのなかで最低限、スタンドに運べるだけの力はないと、たぶんメジャーの舞台でやるには難しいんじゃないかなと思いました」

 過去2年、秋山は24本塁打以上放っている。しかし、狙って長打を打っているわけではない。

 西武に入団してから数年間は「打率3割・30本塁打タイプの打者」になることを期待され、本人もその方向を目指していた。だが、思うような成績を残せず、安打数を求めるスタイルに切り替えた。そして2015年、イチローを超える年間216安打の新記録を樹立している。

 過去2年、本塁打が増えたのは、あくまで打撃技術が向上した副産物だ。本人の意図としては、長打より単打の数を増やそうと取り組んでいる。今季はチーム事情で1番から3番に回るが、オープン戦を見るかぎり、秋山の貫く打撃スタイルは変わらないだろう。

 そうして目指すは、2016年以来のシーズン200安打――。昨季5本届かなかった大台に乗せた時、シーズン終了後、果たしてどんな決断を下すのか。

 4月16日に31歳を迎え、海の向こうへ渡るには、一般的には遅い年齢だ。秋山自身も当然わかっている。そうしたあらゆる条件や、自身と家族の希望などを総合的に考えたうえで、どの道に向かえばハッピーなキャリアを描いていけるのか。おそらく、相当考えているはずだ。

 来年以降の身の振り方の判断材料としてではなく、純粋にイチローを見たくて東京ドームに足を運んだMLB開幕シリーズで、多くの発見があったと秋山は振り返る。

「スタンドで見て気づいたことは、ファンがどういうところを見ているかですね。今回は特別なところもありましたけど、イチローさんが打席に行くとか、守備に就くときの歓声への答え方は、やっぱり選手として必要なところかなとも思うし。ファンの人は、テレビにはない臨場感であったり、(選手の)反応だったりをすごく見ているんじゃないかなと思って。そういう意味では、視野を広く見られたところもありました。

 球場に来ている人はいろんなところを見ているんだろうなと思いました。だから、打てなくて下を向いている仕草だけでも、ファンに(そういう気持ちが)伝わっているんじゃないかと思うので、常に前向きにやっておくべきですね。気持ちの切り替えとか、そういう準備をしておくとか」

 たとえ凡打に倒れても、堂々とベンチに帰っていく。殊勲打の後に守備に就いた時には、ファンの声援に大きく手を振って答える。イチローに代表されるように、メジャーリーガーはファンサービスやグラウンドでの振る舞いも一流だ。当たり前のようにコミュニケーションをとり、スタンドのファンを巻き込んで熱狂空間を一緒に作り上げていく。

 観客目線でそうした姿勢を学んだ秋山は、今季、グラウンドでファンの声援に対してどんな反応を見せるのか。そしてシーズン終了後、どういう決断を下すのか。

 楽しみなシーズンが、まもなく幕を開ける。