世界選手権2位ながらも300点越えを果たした羽生結弦

 3月23日まで行なわれた世界フィギュアスケート選手権。羽生結弦は、323.42点を出して優勝したネイサン・チェン(アメリカ)に22.45点差で2位になった。その結果について、「今回は僕がショート、フリーともにノーミスをしても、たぶん勝てなかったと思う」と振り返った。

 羽生が、チェンとの戦いを考えた時に前提にしたのは、チェンの全米選手権での滑りだった。チェンは、フリップとトーループの4回転を入れたショートプログラム(SP)、ルッツとフリップ、トーループの3種類4本の4回転を入れたフリーをノーミスで滑り、342.22点を獲得した。また、これまで苦手にしていたトリプルアクセルも、フリーで3.20点の加点をもらう出来にしていた。

 ISU(国際スケート連盟)公認記録にならないその得点は、国内大会であるがゆえに少し高めに出されたものではある。それを考慮して、GOE(出来ばえ点)や演技構成点の評価を、チェンのこれまでの国際大会の結果と比較して調整した場合、少し控えめに見積もっても、SPは107点台前半で、フリーは216点台後半。実質的には、合計324点前後ではないかと推計できた。

 それに対して羽生の得点の最大値を考えると、SPでは本人が「この構成ではマックスに近い」と話した、グランプリ(GP)シリーズ・ロステレコム杯(ロシア大会)の110.53点。そして、フリーはGPシリーズ・フィンランド大会の190.43点を基準にして、ミスをしたジャンプをこれまでのよかった時と比較して、演技構成点もそれにともなって2点ほど高くなると計算すれば、GOEも含めた合計でプラス19点は稼ぐことができる。その場合、フリーは209点前後で、合計は320点ほどになる。

 羽生自身もそれに近い想定をしていたのだろう。だからこそ、世界選手権のSPでは「ロステレコム杯以上」という結果を意識していた。まず、4回転トーループ+3回転トーループで約1点のプラス。加えて、その後のフライングキャメルスピンとチェンジフットシットスピンでも得点を積み上げた。さらに、演技構成点での0.5点増があれば、112点台中盤までは可能性があっただろう。それでも、計算上は合計322点台には乗るものの、チェンの323.42点にはわずかに届かなかったことになる。

 もしSPで先に滑った羽生が完璧な演技をしていたら、もちろんチェンにプレッシャーをかけられていただろうし、あとから滑る彼の各要素のGOEも、ジャッジの評価も少し低くなっていた可能性もある。「たられば」にはなるが、それと同じ状況をフリーでも実現できれば、羽生が優勝する目もあったと言える。

 ただ、SPでチェンが107.40点を獲得したのに対し、羽生は最初のサルコウがパンクするなど、パーフェクトに滑った場合に想定していた得点より17点以上低い結果に。そこからフリーで挽回するのは、かなり難しくなってしまった。

 羽生は、総合2位に終わったフリー翌日、笑顔でこう話した。

「正直な話、平昌五輪後はちょっとフワフワしていたし、今シーズン始まったばかりの前半はフワフワしていて、何か目的がきっちり定まっていないのかなという気がしていました。何かやらなきゃいけないなと思って、スケートをやっていました。でも今は、このシーズンを通して自分の原点が見えてきたし、やっぱりスポーツって楽しいなと思っています。強い相手を見た時にゾワッとするような感覚、それをもっと味わいつつ、そのうえで勝ちたいなと思えた。そのために4回転アクセルもあるという感じですね」

 今シーズン前半戦は、ルール変更で演技時間が30秒短くなった影響からか、チェンや宇野昌磨も含めて、誰もがなかなかノーミスの演技ができなかった。だが、全米選手権でチェンが覚醒し、初めてSP、フリーともにノーミスで完璧な演技を披露し、342.22点という得点を叩き出した。その時、羽生の心の中で、燃えるものが出てきたのかもしれない。

 その炎は世界選手権でチェンに圧勝されたことで、さらに大きくなった。それが「これからは複数種類の4回転にも挑戦したい」という彼の言葉に表れている。

 ただし、右足首の状態は、これからも彼にとってリスクになるだろう。ケガの状態を羽生はこう話す。

「いろいろ相談していますけど、手術してどうなるという問題でもないです。大きく痛めてしまってからは、より簡単な衝撃でもケガをしてしまうし、以前より大きなケガになってしまうというのをすごく感じています。今季のケガは五輪前とはまったく違う方向からのケガでしたけど、明らかに今回の方が治りは遅かったし、状態が悪かった。やっぱり、足首の耐久性や寿命みたいなものを考慮したうえで、リスクを負いながら練習しなければいけないなということを、今回は突きつけられました」

 だからこそ、現時点では来季はどんな4回転に挑戦し、何を入れていきたいかということは「明言できない」と言う。

「もちろん、ルッツに関してはすでに跳べているジャンプですし、筋力もだいぶ戻ってきているし強くもなっているので、たぶん1~2週間練習をすれば何十本かに1回は跳べる確率に戻せると思います。でも僕の場合は試合で失敗するリスクより、ケガをするリスクをかなり大きく考えていかなければいけないかなと思うので、難しさはありますね。ただやる気はあります」

 この世界選手権へ向けて、昨年の五輪の時より練習で追い込めたが、それは痛み止めの薬を服用しながら、という状態だった。4月に行なわれる世界国別対抗戦の出場を回避したのは、ケガの治療に専念して、一日も早く4回転ジャンプの練習を開始したいという、正直な気持ちの表れだろう。羽生の心はすでに、来季へ向かっているようだ。