開幕の地、オーストラリアのメルボルンに全10チーム、20人のドライバーがやって来た。現時点ではフェラーリが圧倒的な下馬評の高さを誇っているが、実際に走り始めないと、本当のところはわからない。

 レッドブルとタッグを組んで初戦を迎えるホンダには、2015年にF1復帰を果たしてからの初優勝、初表彰台の期待がかかる。それはレッドブルというトップチームと組んだからでもあるが、同時にホンダが大きな成長を遂げたからでもある。



開幕仕様のレッドブル・ホンダがメルボルンに到着した

 開幕前テストでは、まったくと言っていいほどトラブルを出さず、安定して走り続けた。実走行によって出た細かな問題点を修正し、2チームで収集した膨大なデータをもとに総仕上げをして、メルボルンへRA619Hを持ち込んできた。

「テストで出たマイナートラブルは、ブラケットが壊れたなどの本当に小さなものです。(何かのパーツが)ちょっと外れてしまったり、振動やバンプなど外部からの入力が入った時にカウルと当たったり擦れたりといったもの。オペレーションとかエンジン内部云々ではなく、走行そのものに支障はないものですね」

 ホンダの副テクニカルディレクター(TD)を務める本橋正充は、こう説明する。

 一部では、パッケージングをタイトに攻めすぎたため問題が生じ、開幕までに根本的な設計変更が行なわれるとも報じられたが、これは誤り。実際には、バルセロナで走行して4レース週末分以上を連続走破したのと、ほぼ同じ主要コンポーネントがメルボルンに持ち込まれている。そこにセッティング面の熟成や細かな修正を加えたのが、開幕仕様のRA619Hだ。

「開幕前テストで見えた課題はほぼ潰し込めています。ただ、こういったバンピーなサーキットでは想定していなかった新たな問題が出たりもします」

 チーム関係者によれば、性能面で昨年のメルセデスAMGレベルのパワーはすでに達成しているようだ。もちろん、メルセデスAMGやフェラーリはさらに出力を伸ばしてきているだろうが、そのギャップが縮まったことは間違いない。ドライバーたちが上機嫌だったのはそのためだ。

 ピエール・ガスリーはホンダのパワーユニットの感触をこう説明する。

「パフォーマンスも、信頼性も、あらゆる面で進歩しているよ。バルセロナで走ったときには、あらゆるコーナーの立ち上がりで”キック(加速)”を感じたよ。昨年と比べると明らかに進歩していたし、とてもポジティブだった」

 ホンダ自身も、大幅に進歩した。だが、レッドブルとタッグを組むからこそトップ争いに加わることができるのも、また事実である。そのくらい、3強チームとその他ではマシン作りに対する技術力も予算のかけ方も、あらゆる要素がケタ違いだからだ。

 トロロッソもいいチームではあるが、彼らと組んでいるだけではどんなに優れたパワーユニットを作りあげたとしても勝つことはできない。昨年最強と言われたフェラーリ製パワーユニットを搭載していても、本家とハースやザウバー(現アルファロメオ)では大きな差があったのを見れば、チーム力の差は明らかだ。

 そういう意味で、ホンダは今年レッドブルと組むことで初めて、トップ争いのチャンスを与えてもらったことになる。

 その”レベルの違い”はすでにテストの段階から明らかで、ホンダのパワーユニットの熟成もさらに加速しそうだと本橋副TDは語る。

「速いクルマはコーナリングも速いので、エンジンも負荷の高い領域を使うケースが出てきますし、エンジンの運転領域もふたつのクルマで違います。ドライバーによっても違いますから、今までは2種類の運転だったのが4種類になったわけですし、彼らの好みに合わせてもっと向上させられるものは見つかってきています。

 我々としても(データを)見なければいけない領域も広がっていますので、(レッドブルと組むことで)僕らが気づかなかったところにも気づかせてもらっている状況です。データ数が2倍になったこと、車体が違うことからくる新たな経験は開発側にとっていいフィードバックになります。今後の開発に生かせるデータはかなり手に入れていますから、大きなメリットを感じています」

 レッドブルに加入したことでトップ争いの仲間入りをするという意味では、ガスリーもまた同じ立場にある。

 開幕前テストでは2度もクラッシュし、テストプログラムに影響を与えてしまった。それだけでなく、マシンに対する習熟度でもマックス・フェルスタッペンに後れを取り、RB15でフルに攻めきれないでいる。

 テスト期間中は焦りのようなものも感じられたガスリーだが、開幕戦に向けては気持ちを入れ換え、まずはフェルスタッペンに勝つことを意識しすぎるのではなく、学ぶことに主眼を置くことにしたという。

「現時点での僕は、彼と同等レベルの経験値を持っていないので、そのレベルを目標とするのは間違いだと思う。今は彼の経験や速さを学ぶことを目標とすべきだし、それによってさらに強いドライバーに成長することを目指すべきだと思う。彼と張り合おうとするのは、シーズン開幕を迎える今の段階では正しい目標とは言えない」

 まだRB15をモノにできておらず、ナチュラルなフィーリングで走ることができていないのも問題だ。

「テストでいろんなセットアップの方向性を試して、一応の答えを導き出してここ(メルボルン)にやって来ているけど、去年のトロロッソのように自然に気持ちよく走れるようになるには、もう少し時間がかかるだろう」

 トロロッソとレッドブルでは、マシンを走らせることに対する技術レベルが異なる。つまり、それだけ高いレベルがドライバーにも要求される。ガスリーはまだ、そこに適応し切れていないのだ。

 今はシーズンを長い目で見て、自分の成長を第一に考えたいとガスリーは語る。

「僕はまだF1でフルシーズンを1年しか経験していないので、今シーズンが終わる頃にはまったく違うドライバーに成長していると思う。今の僕にとっては、何度もチャンピオン争いを制してきたこのチームと、すでに何年もF1やこのチームで戦ってきたマックス(・フェルスタッペン)の経験をうまく活用して、自分のポテンシャルをフルに引き出すことだ」

 バルセロナでの走行データを見れば、レッドブルはフェラーリにわずかな差をつけられていた。また、ガスリーはフェルスタッペンのペースにも及んでいなかった。

 しかし、それはあくまで通過点。開幕前テスト後からの2週間で各チーム、各メーカー、各ドライバーがどのように進歩してきたか、それこそが重要なことだ。

 それは、今週末のメルボルンで明らかになる。