2019年ラグビーワールドカップ開幕まで、あと200日を切った。 この残り少ない期間で、日本代表の新たな武器となる選手は出てくるのだろうか--。その問いに対し、ラグビーワールドカップのPRキャプテンを務める俳優・舘ひろし氏も期待を寄せる選…

 2019年ラグビーワールドカップ開幕まで、あと200日を切った。

 この残り少ない期間で、日本代表の新たな武器となる選手は出てくるのだろうか--。その問いに対し、ラグビーワールドカップのPRキャプテンを務める俳優・舘ひろし氏も期待を寄せる選手がいる。それが、トンガ出身の万能BK(バックス)アタアタ・モエアキオラだ。



2016年に初キャップを獲得したアタアタ・モエアキオラ

 すでに日本代表3キャップのアタアタは、ワールドカップに向けた日本代表候補選手(第3次トレーニングスコッド&ナショナルディペロップメントスコッド)計48名のなかで現在、唯一の「海外組」である。

 今年3月で東海大を卒業する23歳のアタアタは、4月から昨年度のトップリーグ王者・神戸製鋼コベルコスティーラーズに所属する。それと同時に、神戸製鋼が提携しているスーパーラグビーの強豪チーフス(ニュージーランド)入りも果たした。

「早くスーパーラグビーでプレーしたい!」。アタアタは東海大時代、常々そう話していた。サンウルブズをのぞき、日本の大学からスーパーラグビーチームに所属した例は、過去初めてのことである。

 ただ、アタアタがどこまで出場できるのか、正直、懸念はしていた。チーフスはスーパーラグビー優勝2回の強豪で、LO(ロック)ブロディ・レタリックやSO(スタンドオフ)ダミアン・マッケンジーなど、「オールブラックス」ことニュージーランド代表の中軸も多数在籍している。かつては日本代表主将のLOリーチ マイケルもプレーした。

 しかしフタを開ければ、アタアタは開幕戦で控えながらスーパーラグビー初出場を果たす。そして第2戦はWTB(ウイング)で初めて先発を任され、切れの味のいいランニングで初トライも獲得。いきなり能力の高さを見せつけた。チームは現在4連敗と調子が出ないが、4試合中3試合に出場している。

 アタアタは12歳でラグビーをはじめ、東海大のチームメイトでもあったNo.8(ナンバーエイト)テビタ・タタフとともに中学3年時に来日し、東京の目黒学院に入学した。

 高校2年時には「花園」全国高校ラグビー大会にも出場。アタアタは主にSOとしてプレーし、力強いランで高校日本代表にも選出された。「トンガカレッジのアカデミーに在籍していて、本当はオーストラリアに行きたかったけど、声がかからなかったので日本に来た。今では日本が大好き。大トロやサーモンの寿司も好き。納豆も食べる」。

 東海大ラグビー部では、先輩のリーチですらなし得なかった「外国人選手初のキャプテン」にも指名された。もちろん、日本語は「高校時代にたくさん勉強した」だけあって、今ではすっかり流暢。「日本に来た時は少しだけホームシックになったけど、トンガの先輩やタタフがいたので問題なかった」と、日本語で懐かしそうに振り返った。

 東海大でも目覚ましい活躍を見せていたアタアタだが、世界から注目を集めるようになったのは「U20チャンピオンシップ」での躍進だろう。2016年6月、イングランドで開催された20歳以下の世界大会で、U20日本代表は世界のトップ12が集まるグループに参戦した。

 そこで、アタアタは世界に名を知らしめる。U20南アフリカ代表戦で、3トライを挙げるハットトリックを達成したのだ。ラグビーの国際統括組織「ワールドラグビー」のSNSでは、アタアタのスピードと破壊力を「新幹線」と例えて大絶賛。アタアタは同大会で合計6トライを挙げて、トライ王にも輝いた。

 もちろん、日本代表のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)も、アタアタの存在を放っておくことはなかった。スピードとスキルを兼ね備え、SH以外のすべてのポジションでプレーできる万能BKを日本代表の新たな武器とするべく、2017年にサンウルブズのスコッドに選出した。

 だが、サンウルブズの合宿に参加した直後、アタアタは練習中に右肩を負傷。結局、そのシーズンはスーパーラグビーに出ることが叶わなかった。

 また、同年の夏合宿明けにも右ひざの半月板を痛めてしまい、昨年の1月にはメスを入れることになる。度重なるケガに苦しむ日々を過ごし、サンウルブズや日本代表に呼ばれることもなくなった。

 U20の世界大会に出場していた強豪国のライバルたちは、すでにトップレベルで活躍している……。アタアタは焦る気持ちを抑えながら、さらに成長できる場を東海大の木村季由監督とともに探した。それが、神戸製鋼とチーフスだった。

 アタアタについて、ジョセフHCに話を聞くと「ポテンシャルはあるが、まだまだ」と言い、日本代表の強化副委員長とサンウルブズゼネラルマネジャーを務める藤井雄一郎氏も「(日本代表やサンウルブズには)いいWTBがたくさんいるので……」と、まだ戦力として見ていないのも事実だ。

 しかし、東海大の木村監督は力強く語る。

「(ジョセフHCが)ユーティリティ選手を評価しているのであれば、アタアタはBKならどこでもできるし、いざという時はFLやNo.8だってプレーできる」

 たしかにアタアタは、ベンチに置いておけば安心できる選手だ。

「僕には日本しかない。僕が日本でラグビーできるのは、トンガの両親や日本で関わってくれた人たちのおかげ」

 周囲への感謝を胸に、身長185cm・体重113kgの体躯を誇るアタアタの夢は「日本代表としてワールドカップに出場すること」。強豪チーフスで活躍することが、いずれワールドカップでの桜のジャージーへとつながっていく。