バイエルンがチャンピオンズリーグ(CL)で最後に優勝したのは2012-13シーズンで、決勝を相手はボルシア・ドルト…
バイエルンがチャンピオンズリーグ(CL)で最後に優勝したのは2012-13シーズンで、決勝を相手はボルシア・ドルトムントだった。バイエルンの監督はユップ・ハインケス。対するドルトムントはユルゲン・クロップになる。
その後、ドルトムントからリバプールに移ったクロップにとって、今回のバイエルン戦は雪辱戦に値した。当時ドルトムントにはロベルト・レバンドフスキ、マッツ・フンメルスも在籍していた。ともに戦った選手と、今度は敵として戦うことになった。
CL決勝トーナメント1回戦バイエルン対リバプール。アンフィールドで行なわれたその第1戦は0-0だった。内容的にもほぼ互角で、なにより面白かった。サッカーの競技レベルの最大値を更新しそうな、目を洗われるような一戦だった。
その一番の要因はプレッシングだ。高い位置から網を掛けいくバイエルン。それを凌いで前進しようとするリバプール。その逆もあったが、アウェーのバイエルンが引いて守ることなく積極的に打って出たことが、レベルの高い好試合になった原因だ。
バイエルンホームの第2戦。これまた攻守の入れ替わりが激しい一戦となったが、押し気味に試合を進めたのはバイエルンだった。リバプールは高い位置からプレスを浴びると、第1戦のようにはうまくつなげない。まさに”はめられた”状態に陥った。

バイエルン戦で貴重な追加点を決めたフィルジル・ファン・ダイク(リバプール)
4対6の割合で押し込まれる展開に持ち込まれたリバプール。だが、試合はわからない。ロングボールはこの手の問題を抱えたときの大きな解決策だ。上品とは言えないが、たまに効果を発揮する。事件を引き起こす力がある。
26分、リバプールのディフェンスリーダー、フィルジル・ファン・ダイクが前線にロングキックを送る。そのボールは思いのほか精度が高く、駆け上がった左ウイング、サディオ・マネの足もとにスッポリと収まった。このプレーに、誘われるように反応したのはバイエルンGKマヌエル・ノイアーで、ゴールを飛び出しマネに接近した。
背後にその気配を感じたマネは、左に行くと見せかけて右にターンする。するとノイアーはバランスを崩し、周囲のディフェンダーも逆を取られノーマークに。リバプールは貴重なアウェーゴールをものにした。
間の悪いプレーとはこのことだ。瞬間、頭をよぎったのは、バイエルンのCLにおけるここ数年の戦いだ。
ドルトムントとの同国対決を制した2012-13シーズン以降も、バイエルンはコンスタントに上位進出を果たしている。ベスト8に1度、ベスト4には4度も進出している。UEFAクラブランキングでは、レアル・マドリード、バルセロナに次いで3位。まさに欧州を代表する強豪ながら、肝心な大一番で何かしらポカをやらかす。レアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリード相手に、押し気味に試合を進めながら、ミスを犯して敗れるという間の悪い戦いを、ここ数年間、繰り返してきた。
たしかにファン・ダイクのキックは鋭かった。マネの動きもスピーディだった。しかし、ベテランGKがそれにつられるように飛び出してしまっては、紙一重の戦いを制することはできない。
勝利のためには2点が必要になったバイエルンは、すかさず反撃に転じた。そして39分、右ウイング、セルジュ・ニャブリが折り返すと、リバプールDFジョエル・マティプのオウンゴールを誘った。
通算スコア1-1。試合は最高潮に達した。バイエルンは後半16分にも大きなチャンスをつかんだ。フランク・リベリーの縦パスを受けたニャブリが再び、中央に折り返す。このボールはしかし、レバンドフスキの足のわずかに先を通過した。
リバプールはアウェーゴールの差でリードはしているものの、内容的には後半に入っても相変わらず劣勢だった。そんななかで後半23分、コーナーキックをゲットした。
ジェイムズ・ミルナーが蹴ったボールは、大きな弧を描きながらゴール前に向かっていく。その高々としたボールに突っ込んでいったのはファン・ダイク。次の瞬間、ド迫力のヘディングシュートが、バイエルンゴールに突き刺さっていた。勝負ありの瞬間だった。
リバプールは後半39分、マネがさらにもう1ゴール奪い、最終スコア1-3で熱戦の幕は閉じた。
実力伯仲のこの大一番。明暗を分けた原因は、やはりバイエルンの間の悪さにあった。カウンターとコーナーキックで貴重な2ゴールを奪ったリバプールと比べると、その差は明白だった。
毎シーズン、述べていることだが、バイエルンが恨むべきはブンデスリーガのレベルの問題だろう。CLの決勝トーナメントにならないと互角の相手と対戦することができない。その宿命が、大一番で間の悪いプレーを引き起こす最大の原因だ。
6シーズン前、決勝を争ったドルトムントは、決勝トーナメント1回戦で、トッテナムに通算スコア0-4で完敗。マンチェスター・シティと対戦したシャルケに至っては、2-10(通算スコア)で大敗している。
ドイツ国内で、バイエルンを追う2番手以降の力がもっと上がらない限り、その病は治りそうもない。これはパリ・サンジェルマンにも言えることだが、CLの決勝トーナメントを勝ち抜くためには、平素からそのレベルに慣れている必要がある。サッカー競技のマックス値は、このCLの舞台で毎年、更新されていると思うと、なおさらだ。
リバプールとバイエルンの差は、慣れていたか否かの差だった。
リバプールで光ったのは、その1点目と2点目に関与したファン・ダイクだ。デカくて動けるディフェンダーは欧州に数多く存在するが、その中でもピカイチだろう。リバプールといえば、マネ、モハメド・サラー、フィルミーノのFW3人の名前がまず取り沙汰されるが、ファン・ダイクはそれ以上の存在かもしれない。現在、欧州ナンバーワンのディフェンダーだと言いたくなる。
もう1人挙げたくなるのもオランダ代表のジョルジニオ・ワイナルドゥムだ。バイエルンから強烈なプレッシャーを浴びながらも、いたるところに進出。そしてほぼノーミスで通したその活動量と正確性、そして的確な判断力は特筆に値する。競技レベルの向上を思わずにいられない選手。そう言いたくなる。
接戦に強いチーム。そして前シーズン、決勝の舞台を経験していることも、リバプールにとっては大きな財産だ。ウィリアムヒルなど大手ブックメーカーは、リバプールをマンチェスター・シティ、バルセロナ、ユベントスに次ぐ優勝候補の4番手と見ているが、狙い目かもしれない。