1500mで世界記録更新の快挙を果たした髙木美帆

 各種目のW杯総合ランキング上位12名のみが出場できるスピードスケートのW杯ファイナル。今季の主要大会の中で、唯一の高速リンクとなる標高1423mのソルトレークシティ開催のため、ハイレベルな戦いになった。

 初日は6種目が行なわれ、そのうち4種目で世界記録が誕生。女子1000mでは、元世界記録保持者のブリタニー・ボウ(アメリカ)に1分11秒61ですぐに記録を塗り替えられてしまったが、髙木美帆(日体大助手)と小平奈緒(相澤病院)も、昨季12月に小平が出していた1分12秒09の世界記録を上回る、1分11秒71と1分11秒77を出していた。

 同走だった髙木と小平。小平は最初の200mを全選手最速の17秒54で入ると、次の400mも最速でカバー。バックストレートのクロッシングゾーンでは、追う髙木の挽回は不可能に見えた。しかし髙木は、ラスト1周を小平より0秒35速く滑り、ラスト50mの直線でかわすと逆転。珍しく派手なガッツポーズを見せた髙木はこの試合をこう振り返る。

「今回は純粋に、この1本でどこまでできるかというのを久々に意識するレースでした。世界記録が出たのは素直にうれしかったし、これまでの自己記録を0秒9近く更新できたのもうれしかった。あとは小平選手との争いを僅差で差し切れたこともうれしい部分でした」

 髙木にとって今大会は、世界スプリントと世界オールラウンド選手権に続く3週連続の試合だった。世界スプリント総合は小平に次ぐ2位、世界オールラウンド選手権も2位で、同一シーズンの連続表彰台は12年のクリスティン・ネスビット(カナダ)以来の快挙だった。

 その疲労もあったが、「回復してきた中でのレースだったので、疲れがすごい残っているわけではない」という状態で生まれた好記録だった。

 一方の小平も、「髙木選手の背中を借りて気持ちのいいレースができました」と言い、両者納得の大接戦となった。

 レース後に髙木は「今日は相当にリンクが滑っていたので、単純に一喜一憂している感じではないですね。ただ、去年より速いタイムを出せたというのは、明日の1500mへ向けての自信になる」と冷静に話していたが、専門種目と自負する1500mで、正真正銘の世界記録保持者になった。

 女子1500mは、この日最初のレースで氷や気圧の影響がわからない状態だったが、最終第6組だった髙木は、先に滑った選手たちのレースを見て自分のレースを組み立てた。

 第4組で滑った1000m優勝のボウとエカテリーナ・シホワ(ロシア)が、それまでの世界記録(1分50秒85)を大きく上回る、1分50秒32と1分50秒63を出した後だったこともあり、髙木はバックストレートでスタートした後の200mを過ぎからのホームストレートも攻めた。

「そこはボウ選手に習いました。このリンクは最初にスピードを出した方が有利かなと思ったので。いつもだったら後半のことを考えてちょっとブレーキをかけてしまう部分があったけど、その殻を破りたいという思いもあった」

 ゴールタイムは、女子で初めて1分50秒を突破する1分49秒83という驚異的な記録。

「途中のラップタイムも見られなかったし、最終タイムも1位という順位を見ただけで、レース自体も最初の部分しか覚えていないんです。世界記録保持者になれたこともうれしいけど、それ以上にひとつのレースでしっかり力を出し切れたことに対してのうれしさの方が大きいですね。

 ただ、この立場になって感じたのは、記録を保持することにあまり意味はないのかなということ……。みんなでチャレンジしていくことがやっぱり一番大きいと感じるし、自分もこれから自己ベストに対してトライしていくことになるので、この記録を抜かれないようにするというよりは、さらに自分が更新していけるように頑張っていきたいなと思いました」

 髙木は今季序盤、すっきりした気持ちで入ることができず、W杯前半戦もなかなかうまくいかなかった。そんな気持ちが切り替わってきたのは、昨年末の全日本スプリントからだという。

「調子も上がってきていたし、小平選手と争って自分の気持ちに火が付いた部分は少なからずありますね。そのあとは世界距離別選手権という大きな大会があって、自分がどうしたいかという欲が明確に芽生えてきた部分もあり、モチベーションが上がった」

 全日本スプリントで口にしたのが、2週連続で行なわれる世界スプリントと世界オールラウンド選手権の両大会への挑戦だった。来季から、世界スプリントと世界オールラウンドが同時開催になる予定のため、同一シーズンに2大会で結果を出すことを目標にできるのは、今季で最後になるからだ。

「世界距離別からW杯ファイナルまで、何を課題にして、どういう風にやりたいというのが4大会とも違っていました。それに合わせてチャレンジしていけて、なおかつ結果も出せたというのは自分にとって、すごく大きな経験になると思います。来年はどういうモチベーションになるかわからないけど、今季はスケートに対する捉え方や感じ方が去年とは違う部分があったり、新しい発見もありました。だから、来季は五輪のあとのやり切った感じとは、ちょっと違うものになると思います」

 2月7日からの5週間で大きな大会に4試合もある超過密スケジュールをきっちりとこなし、最後は世界記録保持者にもなった髙木。今シーズン、トップスケーターとしてまたひとつ貴重な経験を積んだことは間違いないだろう。