2月26日〜3月2日(現地時間)、アメリカ・コロラド州ベイルでスノーボード・バートンUSオープンが開催された。平野歩夢が同大会の男子ハーフパイプで初優勝を遂げてからちょうど1年。37回目を迎えた伝統の一戦で、早くも2022年の北京冬季…

 2月26日〜3月2日(現地時間)、アメリカ・コロラド州ベイルでスノーボード・バートンUSオープンが開催された。平野歩夢が同大会の男子ハーフパイプで初優勝を遂げてからちょうど1年。37回目を迎えた伝統の一戦で、早くも2022年の北京冬季五輪を視野に入れながら世界で奮闘する日本人スノーボーダーたちの現在地を探った。



スロープスタイルで3位入賞を果たした鬼塚雅

 まずは女子について触れていきたい。スロープスタイルに五輪2連覇中のジェイミー・アンダーソン(アメリカ)、ハーフパイプには18歳の絶対女王クロエ・キム(アメリカ)と両種目に平昌五輪金メダリストが揃い踏み。その2人を筆頭に、ケガのためスロープスタイル出場を見送った平昌五輪・ビッグエア金のアンナ・ガッサー(オーストリア)以外は最上級カテゴリーの実力者が集結した。

 そんなハイレベルな戦いの中、日本人女子で最も輝きを放ったのはスロープスタイルに出場した鬼塚雅(星野リゾート)だ。今シーズンは世界選手権を除きW杯で軒並み好成績を残している彼女だが、昨シーズンはとにかく苦しんだ。

 メダルが期待された平昌五輪で思うような滑りができず、そのショックを引きずるかのように直後のUSオープンでも終始ナーバスな表情のまま大会を去った。

 しかし、20歳になった彼女と1年ぶりにベイルの雪上で会うと、「何か吹っ切れた」と感じられるほど表情は明るく、予選2本目のラストジャンプで見事な着地を決めた直後には「決勝が悪天候で中止になる可能性もあったので、自分の中ではかなり攻めました!」と晴れやかな笑顔で語ってくれた。



スロープスタイルファイナルでの鬼塚のライディング。エアの高さはまさに圧巻だった

 今季W杯のビッグエアで勝利している17歳の岩渕麗楽(れいら/バートン)が8位、1月のXゲームズでビッグエア5位に入賞した藤森由香(アルビレックス新潟)は12位と、同じく決勝進出が期待された2人は、ラストジャンプでの失敗が響き予選敗退してしまう。そんななか、鬼塚は日本人として唯一ファイナルに進出。ちなみに優勝候補筆頭のジェイミー・アンダーソンもまさかの予選敗退だった。高難度のトリックやエアを繰り出せる実力者であっても、1つの着地ミスが結果にダイレクトに響いてしまう競技スノーボードのシビアな一面が垣間見られた。

 鬼塚は決勝でも大胆、かつ安定した滑りを披露。とりわけ4位で迎えた3本目のランはすばらしかった。難易度を高めたジブセクションを着実にクリアすると、ラストジャンプの「バックサイド720」では男子顔負けの高さと飛距離を出して78.85の高ポイント。土壇場でヘイリー・ラングランド(アメリカ)を逆転し、ゾーイ・サドウスキー・シノット(ニュージーランド)、ジュリア・マリノ(アメリカ)に次ぐ3位に。自身初、さらには日本人女子として初めてUSオープン・スロープスタイルの表彰台に上がった。そして、言葉を選びながらではあるが、その喜びと手応えは言葉の節々から伝わってきた。

「昨シーズンは平昌五輪も含めて、今でも思い出したくないくらい自分の滑りが全然できなくて、本当に悔しくて悲しくて。だから今シーズンに臨むうえで、心機一転というか、練習方法をはじめこれまでの自分のすべてを変えて新しいチャレンジをしようと思いました。

 それが今シーズンのW杯での好調につながり、こうしてUSオープンでもひとつ実になってくれたのかなと思っています。とはいっても優勝したわけじゃなくて3位ですから。まだまだ自分の100%の力は出せていないですし、もっともっと成長できると思っているので。本当のところはめっちゃうれしいんですけどね(笑)。この結果に浮かれたり満足しないように、来シーズンはさらに上を目指したいです」

 一方、女子ハーフパイプは、昨年のUSオープンで3位表彰台に上がった松本遥奈(クルーズ)と、平昌五輪8位入場の冨田せな(チームJWSC)がそれぞれ4位、5位で予選を突破してファイナルに進出。15歳のホープ小野光希(バートン)は0.5ポイント差で惜しくも7位、平昌五輪代表の大江光(バートン)は10位、今季W杯で好成績を収めている今井胡桃(プリオコーポレーション)は16位で予選敗退となった。

 決勝は、大会3連覇中のクロエ・キムが敗れるまさかの大波乱。1人では歩くこともままならないほどの脚のケガを負いながらも、相変わらず他を圧倒するダイナミックで優雅なライディングを披露したが、マディ・マストロ(アメリカ)が女子ハーフパイプ史上初めて決めた「ダブルクリップラー」という大技の前にわずか0.12ポイント差で屈した。

 松本と冨田は、ともに「フロントサイド900」を成功させ、さらに「フロントサイド1080」に挑むも成功とはならず。しかし大舞台で攻めの姿勢を貫けたことは来シーズン以降の飛躍に向けて好材料になったのではないだろうか。



ハーフパイプで10代とは思えない落ち着きと勝負度胸を見せた小野光希(右)と冨田せな(左)

 全体の結果としては日本人女子の表彰台はスロープスタイルでの鬼塚雅の3位のみ。ハーフパイプではクロエ・キム、マディ・マストロら世界トップとの底力の差がまだまだ存在することが浮き彫りになった。

 スロープスタイルにしても、ジャンプの高さでは劣らずとも、体格という点で外国人ライダーに、まだまだアドバンテージがある。それでも、これまでW杯で勝っても、USオープンで結果を出せていなかった日本女子スノーボード界に、ひとつ大きな足がかりができた大会だった。

 女子スノーボードにはほかにも、今回はケガのため出場できなかったが、スロープスタイル&ビッグエアにも村瀬心椛(ここも/バートン)という昨年Xゲームズ オスロ大会を制した14歳の若き逸材が控えている。そして、平昌五輪で活躍した岩渕や冨田はまだティーンエイジャーである。今回のUSオープンで存在感を示した鬼塚はもちろん、彼女に勝るとも劣らない才能と情熱を秘めた若き”スノーボードガールズ”たちの飛躍がより一層楽しみになった。