今シーズン”躍進”が期待されるヤクルト投手陣のなかで、原樹理への期待値は相当高い。まず、プ…
今シーズン”躍進”が期待されるヤクルト投手陣のなかで、原樹理への期待値は相当高い。まず、プロ入りしてから3年間の成績を見てみたい。
2016年 13試合/2勝8敗/防御率5.91
2017年 26試合/3勝11敗/防御率3.84
2018年 30試合/6勝7敗/防御率3.09
この成績について、原は「結局、去年も負けが上回ってしまった」と苦笑したが、見方次第では着実にステップアップしている。

昨シーズン、8月以降に5勝を挙げるなど飛躍のきっかけをつかんだ原樹理
1年目は6連敗でシーズンを終了するも、クオリティースタート(QS※)率は53.8%を記録。2年目も大きく負け越したが、防御率3点台と安定した投球を見せ年俸は1200万円アップ。昨年は、シーズン途中でブルペンに配置転換される時期もあったが、先発復帰した8月以降は5勝1敗。本塁打は110回2/3を投げて、わずか3本しか打たれていない。
※QSとは、投手の成績評価項目のひとつで、先発投手が6イニング以上を投げ、かつ自責点3以内に抑えたときに記録される。QS率が高いほど先発投手として安定感がある
「去年の後半戦の5勝は、ピッチングのきっかけにはなりましたけど、自信になったかと言えば、そうではないです。今年はすごい期待をされるかもしれませんが、開幕したら何があるかわかりませんし……いつもどおりやっていくだけです」
原は控えめにそう語ったが、昨シーズン後半のあのすばらしいピッチングを”再現”できれば、チームにとってこれ以上ない戦力の底上げとなる。
「どこあたりがきっかけかと聞かれると……それまでは打たれたくない一心から、自信のあるシュートばかり投げていました。僕は真っすぐが速いわけでもなく、フォークもすごく落ちるわけではありません。それにスライダーだって得意なボールじゃないと思っています。でも、それらのボールを有効に使っていかなくてはいけない。勝てない時は横の揺さぶりを忘れていました。それは勝負事においてベストではなかった。そこでキャッチャーの方と話をして、これからはバッターが嫌がるボールを投げ、相手に考えさせるピッチングをしていこうと。もちろん、バッターの出方を見て、シュート一辺倒でいくこともあるんですけど」
また、ブルペンに配置転換された経験も「もちろん大きかったです」と言った。
「あの時は中継ぎで再調整という気持ちはなく、チームの勝利に貢献しようと投げていました。そのなかで自然と、ひとりひとりの打者を打ち取ることが楽しいというか……『バッターと勝負するというのは、こういうことなんだ』と感じて、それが先発に戻った時に生きました。今までは、ただ一生懸命投げていたのですが、ちょっとしたことでも意識して投げるようにしました」
そしてオフは「もういつでもできるぞってくらい走り込んだので、あとはピッチングだけだと思っていました」と万全の状態でキャンプイン。キャッチボールでは1球1球、丁寧に投げる姿が強く印象に残った。
「去年の途中から、相手の胸にしっかり投げることを意識してやっています。以前は、いいボールを投げることを考える程度でしたが、どう投げれば相手の胸にいいボールがいくようになるのか。リリースはこうで、そこにもっていくにはこういう感じでとか……。そのことでフォーム、コントロールがよくなったと思います。キャッチボールはシンプルですけど、大事にやっています」
丁寧な練習は、アップでもブルペンでも変わることがない。
「ただガムシャラに練習したり、ピッチングしたりするだけでは結果が出ないことに気づきました。自分のピッチングの仕組みを理解して、いい時のフォームをどうすれば継続できるのか。そこを意識しながらひとつひとつやっています。そのためには技術を高めることが大事だと思っています」
キャンプ中のある日、原はフォークボールの握りを見せて「今年はちょっとやってくれそう」と、ブルペンキャッチャーに話しかけていた。
「去年までは落ち幅が少なかったので、それを大きくしたいというイメージでやっています。うまくいけば、打者に『2ストライクからフォークがあるな』と思わせることができる。こういうことは、あまりしゃべらないほうがいいんでしょうけど(笑)」
今は「新しいことを取り入れたりする考えはないです」と言った。
「求めているのは、今あるボールの進化ですね。これを極めたら、もっといいピッチングができるんじゃないかなと……。それは去年、感じたことです。今は”打高投低”と言われているように、バッターの人たちの技術がすごいので、こっちも進化して、できるだけ抗(あらが)ってやろうと」
田畑一也投手コーチは、今シーズンの原の役割について、こう話してくれた。
「去年のシーズン中、そして秋季キャンプから浦添のキャンプまで、丁寧に練習を継続してくれています。去年の後半の経験を生かし、チーム内の競争に勝ち、先発ローテーションの中心として回ってほしいですよね」
原に「投手陣のなかでどんな存在になりたいか」と質問すると、こんな答えが返ってきた。
「『僕が投手陣を引っ張るぞ』という気持ちは大事なんでしょうけど、まずは自分のことができてからだと思います。小川(泰弘)さんとか上の方もいるので、そういう気負いは全然ないです。とにかく謙虚にやっていきたいです」
―― ところで、中継ぎに配置転換されるきっかけとなった6月9日のオリックス戦(神宮球場/先発して2回を4安打、3失点)ですが、あの試合も結果的にプラスに働いたという考えはありますか。
「ないです(笑)。あれは最悪の記憶なので……。あの試合は悲しかったです」
―― 今年こそ、勝ち負けが逆転することを期待しています。
「ふふふふ(笑)。そこは絶対にみなさんに言われますからね。そういう意味で”運”なんて関係なかったことを証明したいですね。実力不足で勝てなかっただけなんですから。それを証明するためにもしっかりと実力をつけて、勝ちを積み重ねられるように頑張っていきたいと思います」
原にとって”躍進”となるシーズンとなるのか。そのピッチングから目が離せない。