サンフレッチェ広島は今季、2シーズンぶりにAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージを戦う。サポーターはき…
サンフレッチェ広島は今季、2シーズンぶりにAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージを戦う。サポーターはきっと高揚しているはずだが、クラブはこの大会をどのように捉えているのだろうか。
3月5日に行なわれたグループF初戦の相手は広州恒大だった。2010年に地元の大手ディベロッパーが買収し、2014年からはジャック・マー率いるアリババグループも大株主となったクラブだ。巨額投資で一躍中国サッカー界を牽引する存在となり、一昨季まで中国スーパーリーグを7連覇し、ACLも2度制している。
しかし現在チームを束ねる元イタリア代表DFのファビオ・カンナバーロは、2度目の指揮を執り始めた昨季に8年ぶりにリーグ優勝を逃し、ACLでは前のシーズンまで自身が指導していた天津天海にラウンド16で敗退。また、2014年11月に初めて広州恒大に着任したときには、同シーズンの途中で職場を離れている。つまり充実の戦力が整うチームで、彼はまだ一度もメジャータイトルを獲得していないのだ。
広州恒大の指揮を執るカンナバーロ
現役時代に2006年のドイツW杯を制し、バロンドールにも輝いたカンナバーロは、監督として”勝負のシーズン”に臨んでいる。この試合にベストメンバーを並べたところからも、意気込みの高さが伺えた。
一方の広島は、そんな強豪とのアウェー戦に先週末のジュビロ磐田戦から先発をすべて変更し、若手主体のチームで臨んだ。城福浩監督は「コンディションを優先させて、心身ともに準備ができている選手たちを連れてきた」と戦前に語っているが、真意はどこにあったのか。過密日程や、負傷者の多いチーム状況を考慮して、ACLへのプライオリティを下げた。そう捉えられたとしても仕方ないだろう。
湿気と粉塵で煙る夜空に高いビルの電飾が怪しく光るなか、広州天河体育中心体育場にキックオフの笛が鳴る。予想どおり、序盤からボールを支配したのは赤いシャツを着たホームの選手たちだ。バルセロナから帰還したブラジル代表MFパウリーニョを中心にパスを回し、もうひとりのブラジル人MFタリスカがアクセントを加える。
ブラジル1部リーグに属するバイーア出身の25歳のレフティーは、かつて”リバウド2世”とも評された逸材で、目の覚めるようなスーパーゴールを何度も決めてきた。そこからポルトガルのベンフィカやトルコのベシクタシュでも活躍し、さらなるビッグクラブへの移籍も噂されていたが、昨夏に広州を新天地に選択。これから全盛期を迎える年齢にもかかわらず、上海上港のオスカルらと同様に中国でのプレーを選んだわけだ。
これほどの選手の”プライムタイム”を、アジアで観られるとは思いもよらなかった。そしてACLに初出場したタリスカは、映像で確認していたとおり、遊び心のある楽しい選手であり、その左足は極めて危険だった。
スタートポジションは右のセカンドストライカーながら、感性豊かに動き回り、「シャペウ(ポルトガル語で帽子の意。転じて相手の頭上にボールをとおすプレー)」で会場を沸かせたかと思えば、右の低い位置から逆サイドに長いフィードを送る。そして前半19分には、左サイドからのクロスを頭で仕留め、ホームチームに先制点をもたらした。
対する広島はここまで、ほとんど防戦一方だった。客席に重厚な赤い壁を作った敵地のサポーターから受ける重圧は、多くの若い選手にとって初めてのものだったはず。ピッチ上では広州恒大のパワーとパス回しに翻弄され、プレッシャーに苛まれているように見えた選手たちは、短いパスさえうまく通せない。そして再び左サイドを攻略された後のCKから、今度はパウリーニョに押し込まれて追加点を許した。
その後は相手がペースを落としたこともあり、広島の今季の狙いであるポゼッションこそできていたが、”赤い要塞”の外堀を埋めるばかり。無理に縦パスを入れても引っかかり、チームの課題である中央の崩しはこの試合でも改善されなかった。
ハーフタイムには渡大生に代えて野津田岳人を投入し、巻き返しを図ったものの、状況はさほど好転しない。終盤にはCKやミドルからゴールを狙ったが、最後までゴールは遠く、0-2のまま終了のホイッスルを聞いた。
広島にとって、この試合はどんな意味を持っていたか。18歳の松本大弥や東俊希ら、将来を期待される若者たちが、貴重な経験を積めたことは間違いない。
日本ではなかなか集客数が伸びないACLだが、この日のスタジアムには4万8216人の観衆が詰めかけ、言うまでもなく、そのほとんどがホームサポーターだった。そんな会場で、欧州で鳴らしたブラジルやイングランド(CBのタイアス・ブラウニング)の選手、中国の代表クラスの選手たちと対峙したのだから、彼らが一人前になるための試練の場だったと言える。長期的な視野に立てば。
しかし、今シーズンのアジアでの戦いを少しでも長く続けるには、初戦の黒星は避けたかったはずだ。来週の次節に予定されているのは、本田圭佑の所属するメルボルン・ビクトリーとの一戦。このオーストラリア勢も初戦を1-3で落としており、どちらも絶対に落とせない試合となる。
本田の効果もあり、前売り券の売れ行きが好調だという。広島のホームスタジアムも、広州の本拠地のようにアジアのライバルにプレッシャーをかけ、発展中のチームの背中を押してくれることを願う。