昨年の秋、ドラフト前の亜細亜大・頓宮裕真(とんぐう・ゆうま)の評価は12球団で大きく割れていた。「大学でいくら打っ…
昨年の秋、ドラフト前の亜細亜大・頓宮裕真(とんぐう・ゆうま)の評価は12球団で大きく割れていた。
「大学でいくら打ったからといって、プロに行ったら真っすぐも変化球もベースの上の動き、勢いが全然違う。プロは馬力より反射神経と柔軟性。大学であれだけ打った岩見雅紀(慶応大→楽天)だって、あれだけ苦労しているじゃないですか」
そう語ったスカウトがいたように、まったく評価していない球団もあった。

ドラフト2位でプロ入り後、捕手から内野手にコンバートされたオリックスのルーキー・頓宮裕真
そんな話はよくあることで、アマチュアの”長距離砲”はよく誤解される。なぜなら、プロで活躍する長距離砲は、そのほとんどが”ミートの達人”であるからだ。逆に言えば、いくらパワーがあっても、バットの芯でボールをタイミングよくとらえる技術を兼ね備えていなければ、プロの長距離砲として活躍するのは難しいということだ。
山川穂高、中村剛也(ともに西武)、柳田悠岐(ソフトバンク)、筒香嘉智(DeNA)……そのバッティングスタイルを思い浮かべていただければ、決して力任せにスイングしているわけではないということがわかるはずだ。
頓宮のバッティングに技術を感じ始めたのは、昨年のことだ。大学のリーグ戦ではストレートを待っているのにチェンジアップをあっさり神宮球場の左中間に運んでみたり、追い込まれてから相手の勝負球をカットするように逆方向にライナーで打ち返してみたり……強引に引っ張らず、相手のボールにタイミングを合わせて、一番ヒットになりそうなところに弾き返す。
2月のキャンプで見た頓宮のバッティングが、そのとおりの打ち方だった。フリーバッティングでは、昨年25本塁打のステフェン・ロメロと並んで打っても、まったく遜色ない打球がセンター中心に飛んでいく。
紅白戦では、追い込まれてから落ちる系のボールに対して、踏み込んでから一瞬間(ま)を置き、左中間スタンドに持っていった。
「そのスイングでどうしてあんな打球を……」と思わせるほどの軽いスイング。持っているパワーをすべて使い切ることなく、ちょうどホームランになるぐらいの出力でスイングする。それでもしっかりバットを振り抜いているから、打った瞬間、スタンドインとわかる堂々のホームラン。ルーキーの技ありの一発に、スタンドから拍手が沸き起こる。
そして頓宮のもうひとつの見せ場は、プロに入ってからコンバートされたサードの守備だ。深いポジショニングは、肩に自信があるというなによりの証拠。それに三遊間への打球のスタートもなかなか反応が鋭い。
181センチ98キロの巨体でありながら、動きが軽やかで、柔軟な身のこなしがさまになっている。学生の時も、本職の捕手だけでなく、一塁をこなし、何試合か三塁も守ったことがあったと記憶している。どのポジションでもやってのける運動神経のよさが、長距離砲・頓宮の大きな”付加価値”と見ていた。
三遊間の打球を捕ってから投げるまでの一連の動きにぎこちなさがなく、下半身リードで上半身を動かせるメカニズムを身につけているようだ。
ある日の午前中の内野守備練習。ファーム組と一緒にノックを受けた頓宮は、練習のあと、捕球、送球時のフットワークを同じルーキーの太田椋から教わっていた。太田はドラフト1位とはいえ、高卒の年下だ。そんなことはお構いなく、「いいものはいい」と教えを乞い、自分の技術を高めようとする姿勢に感服した。
紅白戦では3割以上をマークしていた頓宮だったが、対外試合では結果を残せずに苦しんでいる。正念場はこれからのオープン戦だろう。試され、探りを入れられ、プロの洗礼を浴びることもあるだろう。それに疲れの影響もジワジワと忍び寄ってくる頃でもある。
ここで踏みとどまれるのか、それとも……いずれにしても頓宮は、山川穂高級の”和製大砲”になる器だと見ている。パンチパーマの風貌もいいが、その高い技術力にも注目してほしい。