先ごろ行なわれた、アジアカップでのことだ。UAEのアブダビで知り合ったオーストラリア人記者は、不満げだった。「パス…
先ごろ行なわれた、アジアカップでのことだ。UAEのアブダビで知り合ったオーストラリア人記者は、不満げだった。
「パス、パス、パス。みんなパスをつなぐことばかりを考えて、サッカーは点を取り合う競技だということを忘れている」
かつてはスピードやパワーといった、フィジカル能力の高さが武器だったオーストラリアのサッカーも、今ではすっかり様変わりした。クラブチームを見ても、世代別も含めた代表チームを見ても、その多くがショートパスを主体としたポゼッションサッカーを志向。国全体として、目指すサッカーが明らかに変わってきている。
しかし、そのアジアカップでは、オーストラリアは準々決勝敗退。スタイルの変化が結果に対しての即効性をともなうわけではない現状を、誰もが好意的に受け止めてくれるとは限らない。
前述の記者も否定派のひとりだった。
現在、横浜F・マリノスを率いるオーストラリア人監督、アンジェ・ポステコグルーも、そんなサッカーを好むひとりですね――。そう水を向けると、彼は顔をしかめて、「まったくそのとおりだ」と、大きくうなずいていたのを思い出す。
ポステコグルー監督が就任した昨季、横浜FMは、徹底したポゼッションサッカーに挑み始めた。
ピッチ上の選手たちが前後左右に目まぐるしくポジションを入れ替えながら、ショートパス主体でボールを動かし、相手ゴールへと迫る。極端なまでにポゼッションに偏ったサッカーは、好奇の視線を集めはしたが、結果にはつながらず、残留争いを強いられることになった。好奇の視線とはすなわち、無謀な挑戦に対する冷ややかな目と言い換えてもいいだろう。
結局、横浜FMは12位でJ2降格は免れたとはいえ、暗中模索の感が否めなかった。昨季の戦いぶりを振り返れば、今季も苦しい戦いが続くのではないか。そんな見立てが、開幕前には一般的だったに違いない。
ところが、そんな否定的な見方を覆(くつがえ)すように、横浜FMが今季、高い攻撃力を武器に好スタートを切っている。
J1開幕戦でガンバ大阪を3-2で下したのに続き、第2節でもベガルタ仙台に2-1と勝利。合計5ゴールを叩き出しての開幕2連勝である。

ベガルタ仙台を翻弄した横浜F・マリノス
とくに仙台戦の前半は、パーフェクトな試合内容だった。
圧倒的にボールを保持し続けたうえで、次々に相手の守備ブロックの隙間へ縦パスを打ち込み、DFを食いつかせてはその背後を狙う。横浜FMは面白いようにペナルティエリア内に進入し、チャンスを作り出した。
しかも、相手の”表”でパスを回すだけでなく、”裏”を取ることができていたため、常に後ろ向きの守備を強いられる相手選手は、ボールを奪ったとしても前につなぐことができない。その結果、横浜FMは敵陣ですぐさまボールを奪い返すことができ、カウンターを許すどころか、完全にゲームを支配し続けた。
ポゼッションサッカーを極めるうえでは、失ったボールをいかに素早く、高い位置で奪い返せるかは、重要なカギとなるが、その点において、この試合の横浜FMは秀逸だった。仙台は「横浜FMは攻撃から守備の切り替えが速いので、それをいかに外すかをトレーニングでやってきた」(仙台・渡邉晋監督)と言うが、「なかなか攻撃に出ていく時間を作れなかった」(渡邉監督)。
横浜FMが、後半にいくつかあったチャンスを追加点につなげることができなかったため、スコアのうえで最少得点差ではあったが、内容的には横浜FMの完勝と言っていい試合だろう。
昨季から取り組み続けてきたことが、ようやく実を結び始めている。そんな内容の試合を振り返り、ポステコグルー監督も満足そうに語る。
「いいパフォーマンスが見せられ、いいゲームができた」
とはいえ、今季の横浜FMは、昨季から大きくメンバーが入れ替わった。仙台戦の先発メンバー11人のうち、今季新加入の選手は5人を数える。
それにもかかわらず、彼らは横浜FMのサッカーにうまく適応しているどころか、早くも中心的存在になりつつある。
今季新加入のひとりながら、効果的な攻撃参加から何度も決定機を作り出した右サイドバック、DF広瀬陸斗(徳島ヴォルティス→)が語る。
「意識しているのは、(他の選手と動きが)かぶらないことと、距離感。ポジションがどんどん入れ替わるので、周りの選手のポジションを見ながら、空いているところに入っていく。練習からずっとやっているので、阿吽(あうん)の呼吸でできている」
ポステコグルー監督は、「望んだ選手が(移籍で)入ってくれて、自分たちがやりたいサッカーを理解し、やってくれている」と、選手たちを称えつつ、「若い選手が多いチーム(先発11人の平均年齢25.09歳)なので、もっともっとよくなる」と、今後にさらなる自信を見せる。
もちろん、新加入のMF三好康児(コンサドーレ札幌→)が言うように、「まだ2試合(が終わっただけ)なので。どこのチームも修正してくるし、自分たちのことを研究してくる」だろう。わずか2試合の結果で、残る32試合すべてを見通すのは難しい。
だとしても、昨季からやり続けてきたこだわりのスタイルが、新たに適材を加え、さらに質を高めていることは間違いない。今季の横浜FMは、昨季のような好奇の視線を集めるだけではなく、上位を争うチームのひとつとして注目されることになるのかもしれない。
かのオーストラリア人記者も、こんな試合を見れば、きっと考えが変わるはずである。