3月2日、ノエビアスタジアム神戸。ヴィッセル神戸はサガン鳥栖を迎えた本拠地開幕戦、元スペイン代表FWダビド・ビジャのゴ…

 3月2日、ノエビアスタジアム神戸。ヴィッセル神戸はサガン鳥栖を迎えた本拠地開幕戦、元スペイン代表FWダビド・ビジャのゴールで1-0と勝利を飾っている。

 後半9分だった。鳥栖のCBは波状攻撃を受け、混乱していたのだろうか。クリアボールがもうひとりのCBに当たって、ボールがこぼれる。その隙を見逃さなかったビジャが、GKの位置を見極めて右足で蹴り込んだ。

 


サガン鳥栖戦でJリーグ初ゴールを決めたダビド・ビジャ(ヴィッセル神戸)

今季、鳴り物入りで入団したビジャは、才能の片鱗を見せたと言えるだろう。2008年欧州選手権、2010年ワールドカップで得点王に輝き、スペイン代表に栄光をもたらした実績は伊達ではない。37歳になるが、昨季まで所属した北米MLS(メジャーリーグサッカー)のニューヨーク・シティでも破格の得点力を見せつけていた。

 鳥栖戦のビジャは、前半だけで3本の決定的なシュートを放っている。どれも完璧なマークの外し方だった。出し手と呼吸を合わせ、マーカーの逆を取って、シュートの形まで持ち込んでいる。なかでも、ブラジル人CBダンクレーからの1本の縦パスを足もとに呼び込み、右足を一閃したシーンは白眉だった。鳥栖のCBのマーキングが緩慢だったのもあるが、別次元の間合いを見せた。

 もっとも、決定力に関しては不完全燃焼で、1ゴールに終わっている。

「いまは順応しているところだが、それをエクスキューズにはしたくない。たくさんのチャンスを得ているので、今日はそのひとつが決勝点になってよかった。でも、次はもっと確率を上げたい」

 ビジャは試合後にそう言って口元を引き締めた。彼の真価が見られる条件とは--。

 Jリーグ開幕戦のセレッソ大阪戦で不発に終わったことで、ビジャの起用法で早くも議論が巻き起こっている。

「どうしてビジャを左サイドで起用するのか。点取り屋ではないのか?」
 
 期待度が高い選手だけに、デビュー戦で不発なだけで、批判的になる風潮がある。

 しかしそもそも、ビジャはバルセロナ時代、左サイドを主戦場にしてきた。さらに言えば、サイドはあくまでスタートポジションに過ぎない。サイドで崩し、中央でも連係し、決定的な仕事ができる。そこに世界的ストライカーの奥深さはあるのだ。

「Caer bien」(サイドに流れるのがうまい)

 神戸の指揮官であるフアン・マヌエル(ファンマ)・リージョは、ビジャの最大の魅力をゴールとしながらも、流動性を重視している。どのポジションにも適応し、リズムをとって、コンビネーションを作ることができる。それ故に相手はプレーが読めず、後手に回るわけだが、トップレベルのFWでも適性のある選手は少ない。たとえば、この日、対戦した鳥栖のフェルナンド・トーレスは偉大なゴールゲッターだが、ビジャのような仕事はできない。

 ビジャの真骨頂と言える流動的プレーが、この日はセレッソ戦よりも出ていた。

「ダビド(ビジャ)の1トップ? いや、彼は(古橋)亨梧と積極的に前線でポジション交換していたよ」

 リージョ監督は記者たちの質問に、そう説明している。

「サイドで幅を取ったり、後半はルーカス(ポドルスキ)と代わって右サイドが多かった。左に流れたとき、彼のプレーヤーとしてのキャラクターは強く出るね。そこから切り込んで右足で巻くシュートは強烈だ。

 今日は高い位置でボールを動かせるようになったら、相手センターバックの近いところに人を集め、連係で崩し、得点を狙う戦い方だった。得点以外にも、チャンスを多く作れたと思う」

 事実、ビジャはゴールを狙うだけにとどまらなかった。同胞アンドレス・イニエスタとだけでなく、ポドルスキ、古橋、山口蛍、ダンクレーなどとほぼ全方位で連係し、鳥栖の守備陣を籠絡した。フリックパスで右サイドバック、西大伍の攻め上がりを促し、左へ流れてから左サイドバックの初瀬亮を中に入れ、シュートをアシストするなど、まさに神出鬼没だった。

 大事なのは、ビジャがすでに攻撃の渦の中心にいることだろう。

「練習ではすごいシュートを決めていますよ。そこから決めちゃうんだ、みたいな。公式戦で(点を)取ったんで、乗ってくるはずです」

 神戸の選手は、試合後にはそう洩らしている。

 ビジャは去年の11月が最後の実戦で、これからさらにチームにフィットしてくるだろう。コンディションが戻るには時間が必要だ。異国での生活で、ストレスもたまる。優秀な通訳がいても、何気ない言葉の問題は抱えている。そしてチームメイトの特徴をつかみ、プレーリズムの違いをアジャストさせる作業は、一筋縄ではいかない。

「神戸がタイトルを取るために必要なのが、ビジャだった」

 リージョはそう熱く語っていたが、チームが栄冠に近づくとき、ビジャもゴールを量産しているだろう。その逆も然りだ。

 ビジャはチームと自分のプレーを調整するなかで、これまでも多くの栄光を勝ち取ってきた。いわば最高のチームプレーヤーと言えるだろう。彼ほどエゴがなく、ゴールに貪欲なFWは珍しい。

「(鳥栖戦の)ゴールで自分のメンタルがいい方向に? いや、重要なのはチームだね。私のやるべきことは変わらない。勝利がチームの自信になればいいね」

 ビジャは強い眼差しで言った。これが彼ならではの”ストライカーの流儀”だ。