プロ野球のキャンプも終わり、本格的にオープン戦が始まる。今年は宮崎でキャンプをする西武、ソフトバンク、オリックス、…

 プロ野球のキャンプも終わり、本格的にオープン戦が始まる。今年は宮崎でキャンプをする西武、ソフトバンク、オリックス、広島の4球団を回った。新聞などではあまり伝えられない選手でも「おおっ!」と目を奪われるようなプレーを見せる若手が何人かいた。

 まず、ブルペンで心踊ったのがソフトバンクとオリックス。ソフトバンクは”未知の魅力”を秘めた大型投手たちだ。



昨年のドラフトでオリックスから6位指名を受けて入団した左澤優

 室内の一軍ブルペンとちょうど背中合わせの場所に、ファームの若手投手たちが投げる屋外ブルペンがある。室内の一軍ブルペンは、エースの千賀滉大をはじめ、武田翔太、東浜巨、和田毅、田中正義、高橋礼などが、ずらりと並ぶ姿は壮観だが、ファームのブルペンだって負けていない。

 身長190センチ級の大型投手が入れ替わり立ち替わりやって来ては、まだ粗削りながら渾身の力でミット目がけて強いボールを叩きつける。

 なかでも、ひと際雄大な体躯からダイナミックなフォームで投げ下ろしている投手がいた。彼の名は中村晨(しん)。熊本・ルーテル学院から育成で入団して4年目で、身長193センチ、体重85キロの大型右腕だ。ただ背が高いだけじゃない。前から見た時にすごく大きく見えるのは、骨格が大きいからだろう。いわゆる、体が大きくなるタイプだ。

 脚も長いが腕も長い。その長い手脚を使って投げるから、とにかく見栄えする。しかも、全身の使い方がバラバラではなく、フィニッシュの瞬間に体を小さくまとめられるのは、体重移動がしっかりできていて、ボディバランスがいい証拠である。

 左手のグラブを頭の高さに掲げても、上体がうしろに傾かないから、打者からすれば2メートル近い巨体が一気に覆いかぶさってくるようで、思わずひるんでしまうかもしれない。

 豪快に投げ下ろす長身オーバーハンドにありがちなボールのバラつきも、ブルペンで見る限り心配なさそうだ。なにより本人が気分よさそうに全力投球をできているのが好材料だ。全身のタイミングがピシャっと合った時の低めのストレートは、思わず「なんじゃこりゃ!」と驚きが口を突いてしまう。昨年は三軍のエース格として10勝7敗、防御率3.16。二軍でも5イニングを投げて6三振を奪っている。

 こんな大器が”育成”に埋もれているのだから、”支配下”の選手たちはとてもじゃないが、「2~3年はファームで鍛えて……」なんてのんきなことは言っていられないと思っていたら、ブルペンの一番奥で活きのいい投げっぷりをしている右腕がいた。

 一昨年のドラフト1位・吉住晴斗(185センチ、83キロ)だ。その年のドラフトでソフトバンクは、早稲田実業の清宮幸太郎(日本ハム)を外し、履正社の安田尚憲(ロッテ)も外し、さらに仙台大の馬場皐輔(阪神)まで外してしまうという不運に見舞われたが、”最終兵器”として獲得したのが吉住だった。

 ボールを離す瞬間に全身の力がパーンと爆発できるようになってきた。だから、リリースの瞬間に指先を切る時の「パチン」という音が聞こえてくる。ストレートの勢いなら、少し前に室内のブルペンで投げていた東浜と遜色ない。

 無理に体を大きく使おうとしすぎず、身の丈に合った過不足のない”出力”だからこそ、うまく力をボールに伝えることができ、強い回転のまま捕手のミットに突き刺さっていく。ドラフト当時は「誰だ?」と思う人もいただろうが、「ソフトバンクの吉住晴斗」という名前は覚えておいた方がよさそうだ。

 未知の魅力がソフトバンクなら、オリックスのブルペンでは社会人出身の2人の”実力派ルーキー”に心を揺さぶられた。

 構えたミットがピクリとも動かない”ピンポイント”のコントロールが武器のサイドハンド、ホンダ熊本からドラフト3位で入団した荒西祐大(178センチ、83キロ)だ。社会人3年目のシーズンから6年間、エース格でマウンドを守り、満を持してプロ入りした姿は、昨年限りで現役を引退したソフトバンクの攝津正と重なる。

 高山郁夫一軍投手コーチが打席に入ってバットを構える。26歳のルーキーにとって、ブルペンの緊張感は格別だろう。ピンと張り詰めた空気のなかでも、荒西のコントロールの精度は変わらない。社会人で8年磨き上げた技術を、臆することなく披露する。

 高山コーチが左打席に立ち、インコースの球をリクエストした。

「ボールでいいよ。インコースはボールでいいんだから」

 見せ場と思ったのだろう。荒西が「よしっ」という顔になって、高山コーチの懐に投げ込もうとする。社会人時代はそこが”必殺ポイント”だったはずだ。だが腕を振った瞬間、若干ヘッドアップしたように見えた。リリースに力が入ったのだろう、珍しくシュート回転したボールが真ん中に入った。

「カーン! 柳田(悠岐)だったら180メートルぐらい飛ばされとるわ」

 高山コーチの口から”快音”が発せられると、荒西は思わず頭を抱えた。それでも即一軍で使えるだけのキレ、制球力は確信できた。

 その荒西が投げる3人向こうで、小柄な左腕が叫んだ。

「ああっ!」

 糸を引くような快速球だったのに、納得できないといった表情を見せていたのが、JX-ENEOSからドラフト6位で入団した左澤優(172センチ、75キロ)だ。

 横浜商大時代は1年から先発、リリーフで登板するなど、監督から高い信頼を得てマウンドに上がっていた。左澤のいいところは、ブルペンだからといって妥協しないところ。常に高い目標を設定して、自分を磨いていく姿は学生時代と変わっていない。

 スライダー、チェンジアップ、スプリット……持ち球すべてをミットにぶつけて、プロ19年目のベテラン捕手・山崎勝己が「ナイスボール!」と褒めてくれているのに、左澤は「ああっー!」と無念そうに天を仰ぐ。

「左澤はENEOSに行ったのがよかったんだなぁ。ウチにいた頃は体も細かったし、いいかげんな筋肉しかついてなかったのが、ENEOSで心も体も大きく、図太くしてもらったんだろう」

 横浜商大の佐々木正雄監督も教え子の成長に目を細める。

 私は「プロでやれるのか、それとも厳しいのか。その境目はなんですか?」とたまに聞かれることがある。「いい選手だな」と感心させられるぐらいじゃ、まだ足りない。「なんだ、コイツ!」とビックリさせてくれること。その才能溢れるプレーで、我々を驚かせてくれるかどうか……境目とは、そこなのではないだろうか。

 今回紹介した選手たちは、間違いなく「驚かされた」選手たちだ。