ワールドカップイヤー初の国際大会となるシービリーブスカップ(SheBelieves Cup/アメリカ開催)の初戦で…
ワールドカップイヤー初の国際大会となるシービリーブスカップ(SheBelieves Cup/アメリカ開催)の初戦で、なでしこジャパンは世界ランク1位のアメリカに2度のリードを許すも、ロスタイムに追いついて粘り強くドローに持ち込んだ。

初招集ながらも攻めのプレーをした松原有沙
アメリカは試合開始とともにトップギアで襲いかかってきた。いかに、これをいなしながら無失点で猛攻を耐えるか――日本が最初に越えなければならないのは、この立ち上がりから浴び続ける「圧」だ。
これを真正面から受け止めたのが、なでしこジャパンでは途中出場経験が一度という杉田妃和(ひな/INAC神戸レオネッサ)と初キャップの松原有沙(ノジマステラ神奈川相模原)の若きボランチコンビだった。2人は、2012年のFIFA U-17女子ワールドカップアゼルバイジャン大会ではチームメイトとして戦っていた。当時は最終ラインを担う松原と中盤で流れを作る杉田が横並びになることはなかった。
杉田は2014年のU-17女子ワールドカップコスタリカ大会では、高倉麻子監督のもと、長谷川唯(日テレ・ベレーザ)、市瀬菜々(ベガルタ仙台L)らとともに世界一になった。
あれから5年、ボランチにコンバートされた松原は、なでしこチャレンジプロジェクトからアピールを続け、ついになでしこ初招集にこぎつけた。最初はなでしこジャパンのプレーの質と、パスや判断の早さに違いを見せつけられた。アジリティを武器とする選手が多いなか、168cmの松原の魅力はロングキックからの大きな展開力や破壊力のあるシュートというダイナミックさにある。この特長を生かしながら、まずは判断力のスピードを上げていく事で対応しようと奮闘中である。
バランス感覚のよさから、ボールタッチが柔らかいのが杉田。だが、中盤を制するにはコンタクトプレーからは逃げられない。パワーのある相手にパワーで対抗するのではなく、コンタクトプレーになる前の段階で次の展開へつなぐ。もちろん、裏へ抜けるラストパスも出せば、自ら持ち込むこともできる。
まったくタイプの異なる2人が初めてボランチとしてコンビを組み、立ったピッチがアメリカ戦。前日からわかりやすく緊張感をまとっていた松原と、珍しく「少し緊張しました……」という杉田。しかし、緊張などアメリカの猛攻を前に吹き飛んだ。最初の25分。ここで連続失点を食らえば、大敗する可能性も十分にあった。
守備を得意分野としているのは松原だ。身体が大きい分、国内リーグで思い切り当たれば相手が吹っ飛んでしまう。「アメリカ相手であれば思いっきり行けますよね」とむしろフィジカル対決を楽しみにしていた。 “緊張”は「最初に一発強く行けば勢いに乗れるかな」と強気なスライディングで自ら振り切った。アメリカ選手との対峙のコツを掴み始めると、エースであるアレックス・モーガンの突破に体を入れ込んで止める場面も。「初めて(の出場)で世界1位の相手に対して、こう言ったら変ですけど、ビビることなく意外とできたっていうのが今の感覚です」と松原も充実の表情だった。
「(松原は)パワーがあって、アグレッシブさがすごくあるので、自分もガツンと行こう!って背中を押されました」
松原のプレーをこう振り返ったのは杉田。守備に切り替わる展開が多いなか、常に松原の位置を気にしながら、スライドすることで徐々に感覚を掴んだ。後半になると前線の横山久美(AC長野パルセイロ・L)にワンタッチプレーから縦パスを入れるなど、得意のプレーも発揮。「パスの出しどころがわかりやすかった」とハイプレスの中でも局面を打開する道筋は見えていたようだ。
彼女たちが自分のカラーを少しずつ出せるようになったのは、どんなに中盤でミスをしても、最終ラインで有吉佐織(日テレ・ベレーザ)、鮫島彩(INAC神戸レオネッサ)、熊谷紗希(オリンピック・リヨン)、清水梨紗(日テレ・ベレーザ)が、頭をフル回転させながら1プレーごとに修正して守備を整えていたからだ。松原は前線まで上がって攻撃参加をするという野望もしっかりと果たしていた。
その結果、アメリカの猛攻を受けた時間帯での失点を「1」にとどめ、その後の追加点を含めてこの試合2失点。その2失点にも改善の余地がある。この事実も若い2人のボランチにとっては得難い経験になった。待ちながら受けてしまうことでインターセプトにあったり、ボールを持ちすぎて囲まれたり、パスミスでボールを失い一気にゴール前に運ばれたりと、世界女王からの洗礼をしっかり浴びたが、それぞれのポテンシャルが世界トップ相手にも通用するということも証明してみせた。
高倉監督も「杉田はほとんど初めてに近かったですし、松原も試合前は(緊張で)大丈夫かなと思って送り出しましたが、意外と落ち着いてやっていた」と及第点を出した。それでも、ボランチとしてのビルドアップの部分では「まだまだ」とボールを確実に奪う、散らして攻撃につなげるという点でさらに高い精度を要求した。
デビュー戦としては上々ではあるが、ボランチはチームの心臓部。他にもケガ明けとはいえ阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)、宇津木瑠美(シアトル・レインFC)らベテランを筆頭に三浦成美(日テレ・ベレーザ)、長野風花(ASエルフェン)といった同世代のライバルたちもひしめく。ここへきて新たに加わった2人の新星により、W杯まで残り3カ月、ボランチのポジション争いはますます熾烈になりそうだ。