リーグ屈指の万能派ビッグマン--。セルビア出身のテクニシャン、ニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)の快進撃が続いている。 NBAで4年目の今季、ヨキッチはここまで平均20.7得点、10.7リバウンド、7.7アシストというオールラウンドな…

 リーグ屈指の万能派ビッグマン--。セルビア出身のテクニシャン、ニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)の快進撃が続いている。

 NBAで4年目の今季、ヨキッチはここまで平均20.7得点、10.7リバウンド、7.7アシストというオールラウンドな好成績をマーク。今季だけで12度のトリプルダブルを達成し、オールスターにも初出場を果たした。「Jokic(ヨキッチ)」というスペルから”ザ・ジョーカー”とも呼ばれる24歳は、すでにNBAのトッププレーヤーに上り詰めたと言っていい。




今季のMVP候補に挙げられているヨキッチ

「ストップがかかるまで前に進み続ける。いいプレーができているし、多くのゲームに勝っている。今のようなプレーが継続できるように願っているよ」

 オールスター中にヨキッチがそう話したとおり、前半戦のナゲッツは39勝18敗(勝率.684)と好調だった。昨季まで2連覇を達成し、今季もウェスタン・カンファレンス首位を走るゴールデンステート・ウォリアーズまで、現時点(2月27日時点)でわずか1ゲーム差。戦前の前評判が飛び抜けて高いとは言えなかったナゲッツが、今の時期にこの位置にいられるのはやはりヨキッチの働きによるところが大きい。

 昨夏、ナゲッツはヨキッチと5年1億4800万ドル(約161億3200万円)の大型契約を結んだ。チーム側の信頼を意気に感じてか、ヨキッチは課題とされてきたディフェンスも今季に大きく向上させている。ここまでの活躍を見る限り、この選手に未来を託したナゲッツの選択は正しかったのだろう。

「ウィルト・チェンバレン以来、もっともパスの上手なセンター」

 そんな形容もされるとおり、ヨキッチの数ある長所のなかでも目を引くのがパサーとしての能力だ。今季オールスターまでの時点で、10アシスト以上を記録したゲームがキャリア通算で39もあり、これはセンターとして歴史的な英雄であるチェンバレンの79試合に次ぐNBA史上2位の数字。ずんぐりとした体型からキラーパスをさばき、多くのイージーバスケット(オフェンス側が簡単にシュートを決めること)を生み出してきた。

「パスは2人を幸せにする。得点を挙げてもひとりだけしか幸せにならない」

 入団2年目のヨキッチが残したコメントに象徴されるように、本人も自ら得点を挙げるよりアシストに喜びを感じているようだ。

「いわば”ポイントセンター(ポイントガードとセンターの長所を兼備した選手)”として、唯一無二のことができるプレーヤーだ。あれだけサイズに恵まれていながら優れたパスを出し、シュートを打ち、ボールを運ぶ。シュートを外したらリバウンドを自らつかみ、ディフェンスまでこなしてしまうんだからね」
 
 元『ESPN.com』のベテランライター、クリス・シェリダン記者の言葉どおり、ヨキッチは公称208cm、113kgという大きな体を持つファンタジスタだ。スピード、パワーは最高級ではなくても、その柔軟なプレーはオリジナリティに溢れている。「ナゲッツではカーメロ・アンソニー以来のスーパースター」と称されるセルビア人は、紛れもなく”カネが取れる選手”に違いない。

 今季はシーズンMVP候補にもなっているヨキッチだが、全米的な知名度はまだ高いとは言えない。その理由は、まずデンバーという小規模都市でプレーしていること。そして、本人が自身を売り込むことには興味がないことだ。

「彼は依然として屈託がなく、楽しむのが大好き。クリス・ポール(ヒューストン・ロケッツ)、ステフィン・カリー(ゴールデンステート・ウォリアーズ)といった気取りのないスター選手を見てきたけど、ニコラは年俸を2500万ドルも受け取っていながら、これまで私が出会ったなかでもっともエゴがなく、ふざけるのが大好きな少年なんだ」

 ナゲッツのマイク・マローンHC(ヘッドコーチ)はそう形容していたが、実際にロッカールームで同僚たちと楽しんでいるときのヨキッチにスーパースターの風格はない。むしろ、少し幼い印象を受けるほどだ。純粋にバスケットボールを楽しんでいる少年のようで、華やかなスターダムにもそれほど興味はないのだろう。

 だが、そんなヨキッチが本格的に”全国区”になる日は近いかもしれない。今季のナゲッツは、群雄割拠のウェスタン・カンファレンスをトップ3位以内で終えることが有力。来たるべきプレーオフでは、オクラホマシティ・サンダー、ロケッツなどと共に「打倒・ウォリアーズ」を目指すことになる。

「私たちはニューヨーク、マイアミ、ロサンゼルス、シカゴといった大都市に本拠を置いているわけではない。ただ、デンバーからでもファンを魅了できる。いいオーナーに支えられ、このチームは正しい方向に進んでるよ」

 今季の最優秀コーチの有力候補に挙げられているマローンHCはそう語り、上位進出に自信をのぞかせている。確かに、いわゆる”ビッグマーケット・チーム”ではなくても、プレーオフで勝ち進めば話題が沸騰することは確実だ。

 大舞台での経験が豊富ではないナゲッツが勝ち進むためには、ヨキッチの大爆発が必須になる。これまでどおりに優れたパスを連発し、時には自ら得点を量産し、今季最大のサプライズチームをさらなる高みに導けるのか。そのオールラウンドプレーで、3連覇に邁進するウォリアーズを脅かすことができるのか。

 たとえプレーオフで活躍しても、ヨキッチの控えめな姿勢に変化はないだろう。それでも彼が、今春の大ブレイク候補であることに変わりはない。本人が望もうと、そうではなかろうと、ヨキッチが2019年のプレーオフで極めて重要なカギを握る選手であることは、誰も否定できない事実なのだ。