写真:早田ひな(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部
弱冠18歳にしてTリーグ初の女子MVPに輝いた早田ひな(日本生命レッドエルフ)。同い年の平野美宇、伊藤美誠らとともに「黄金世代」と称される早田だが、この世界では珍しく、卓球とは無縁な両親のもとで育ち、自らの意思で卓球の「楽しさ」を糧に快進撃を続けてきた。

そんな早田を突然襲った試練、それは、知らず知らず体に蓄積していた負担が引き起こした「怪我」だった。

2016年の世界ジュニア卓球選手権大会中に右膝蓋靭帯炎を発症。続く2017年の全日本卓球選手権大会も腕の怪我に悩まされた。大きなストロークやしなやかに体を使うドライブが強みの早田にとって、自らの強みが身体に負担をかけてしまい、思うようなプレーが出来なくなるという事態は、耐え難いものだった。

しかし、そんな不調をも乗り越え、2017年世界選手権でダブルス銅メダル、2018年ジャパントップ12卓球大会でシングルス優勝など、見事復活を遂げ帰ってきた。

「楽しさ」だけではない卓球の過酷な側面と向き合っていたあの頃、早田は何を想い、何を糧に前進を続けていたのだろうか。早田ひなの、計り知れない底力と人間力に迫った。

怪我から学んだことが沢山ある だからまた卓球が楽しい




写真:早田ひな(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部
「やめたいと思ったことは一度もない」。怪我や挫折について聞くと、真っ先にこう答えた早田ひな。当時の心境をこう語る。

「怪我したときは辛かったです。うまく練習できなかったり、練習内容が限られて自分の思うように動けなかったり、歯がゆい思いを沢山経験しました。でも、その時の経験が今、体のケアや食事を大切にすることにつながっていると思うので、怪我から学んだことは沢山あります」。

また「毎日、トレーナーさんや卓球コーチからその日の調子を聞いてもらって、『今日は痛いです』とか『今日はちょっとできそうです』とかほんの少しの会話をすることで『これだったらできるかも』というのが見えてきて、取り組めました。みんなに支えてもらって、怪我を乗り越えられたと感じています。周りの方々の支えがなかったら、今ごろ復帰して楽しく卓球できていないかもしれません」と周囲への感謝も忘れない。

怪我を乗り越えるなかで早田に芽生えた「卓球が出来ることは当たり前ではない」という意識が早田をより一層強くし、サポートを惜しまない周囲の存在もまた、早田を強く奮い立たせた。

こうして怪我を乗り越えることで身に付けた新たな強さは、日々の卓球との向き合い方にも変化をもたらした。

「以前までは、苦手な練習や難しい練習は続けることが大変で、どう精神状態を保てばいいのか分からず、うまくいかないと落ち込むこともありました。でも今は逆に楽しみに変えることができます。例えば、いつも届かないボールがとれたときに自分で声に出し、楽しみに変えて練習できるようになりました」。

卓球の楽しさを原動力にして強くなるだけでなく、つらい時や苦しい時こそ、自ら「楽しさ」を作り出し、自分で自分を強くしていく。この数年で、早田は大きく自らの可能性を引き出す術を身に付けて帰ってきた。一流と呼ばれる多くのトップアスリート達の例に漏れず、この早田ひなという選手もまた、並々ならぬセルフコントロール力、そして人間力の持ち主なのだ。

落ち込まない 「負けるが勝ち」の練習スタンス

見事復活を遂げた早田は、2017年世界選手権ダブルス銅メダル、2018年ジャパントップ12卓球大会優勝、そしてTリーグ初代女子MVP、先日のポルトガルOP優勝と、その強さを不動のものにしている。

文字通り心身共に一段強くなってケガから復帰した早田だからこそ、試合前後の自分との向き合い方は、非常におだやかで落ち着いている。

「たくさん練習して技術面で自信をつけることも大事だと思いますが、自分的には身体と気持ちのメンテナンスが大事かなと思っています。試合前は食事管理に気を付けて、油の多いものを控えて次の日の体に影響がでないよう気を配っています。気持ち的にも、どうしたら自分らしいプレーが出せるのか、一人で集中して考えていることもあります」。

さらに、セルフコントロールのプロである早田は、負けや挫折についても前向きな持論を持っている。「負けて落ち込むということが無い」そう切り出す早田の達観した考え方、挫折の乗り越え方からは、学ぶところが多い。

「勝って得るものより負けて得るものの方が多いと思っているんです。実際、負けて見つかった課題で取り組むべきことは、勝ったときの倍以上ある気がします。そして、『これができたら次はこの選手には勝てる』と思いながら練習することで、次の試合にうまく入っていけると思います」。

プロフェッショナルの流儀を持つ女王・早田ひなだが、セルフメンテナンスについて語る中で、ふと18歳らしい顔が覗いた。




写真:早田ひな(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部

「好きな食べ物はお母さんが作ったハヤシライスで、勝負飯はうどんです。石田卓球クラブにいたときから試合前に消化が良いうどんを食べるようにと言われていたので、日本に居るときはうどんを食べるようにしています。お母さんのハヤシライスは今でもよく食べますね。福岡に帰るのは3ヵ月に一回程度ですが、必ず食べますね。滞在している期間は1週間くらいなんですけど、絶対に作ってもらっています」。

3ヵ月に一度、しかも1週間。実家に居られる時間の短さにまず驚くが、そんな短い時間を惜しんで母親の手料理に舌鼓を打つ、18歳の普通の娘らしい姿が目に浮かぶ。日本女子卓球界を背負って戦い続ける早田ひなにどうか安らぎの時間あれと願いつつ、たくさん試合を見たい、勝ってほしいとも願う。なんとも欲張りなファン心理である。

かつて「天才少女」と呼ばれた福原愛(現Tリーグ理事)を日本中の大人達が見守り応援したものだが、そんな福原がTリーグや卓球界を見守る側になり、「黄金世代」と呼ばれる早田らが中国に迫る強さを見せている。かつてとは異なり、Tリーグを通じて海外の主力選手が日本に来てくれる時代。ひとりではなく、同世代に3人も強い選手がいるという奇跡。早田の目に、自身を取り巻く環境はどのように映っているのだろうか。

「同世代の3人は、チームジャパンであり、ライバルでもあり、友達でもある」。18歳女王の貴重な本音トークは続く。(第三回に続く)

文:大塚沙央里(ラリーズ編集部)