2月23日、スーパーラグビー参入4年目の「サンウルブズ」が国内開幕戦を迎えた。先週シンガポールで行なわれた第1節では、南アフリカのシャークスにスクラムやモールで先手を取られ、10-45で大敗。昨シーズン出場時間の多かった日本代表選手に…

 2月23日、スーパーラグビー参入4年目の「サンウルブズ」が国内開幕戦を迎えた。先週シンガポールで行なわれた第1節では、南アフリカのシャークスにスクラムやモールで先手を取られ、10-45で大敗。昨シーズン出場時間の多かった日本代表選手に休養を与えた影響もあり、サンウルブズの今シーズンは黒星スタートとなった。



ワラターズ戦で3トライに絡む活躍を見せた中村亮土

 だが、彼らに下を向いている暇はない。第2節の相手は、昨年のオーストラリア・カンファレンスで首位に輝き、プレーオフでベスト4まで勝ち上がった強豪ワラターズだ。

 今回のワラターズのメンバーは、先発15人中11人が「ワラビーズ」ことオーストラリア代表経験者。FW(フォワード)のマイケル・フーパーは代表でもキャプテンを務める世界的なFL(フランカー)で、BK(バックス)にもSO(スタンドオフ)バーナード・フォーリー、CTB(センター)カートリー・ビール、FB(フルバック)イズラエル・フォラウと、まさにワラビーズの中核が揃っている。

 サンウルブズはワラビーズに過去3戦全敗。昨年7月の試合では25-77の大敗を喫している。そんな強豪相手にディフェンスでどこまで粘れるか、そしてスクラムやラインアウトといったセットプレーでどこまで踏ん張れるか、そこがこの試合の焦点となった。

 第1節を終えて帰国し、第2節までの準備期間はわずか4日。それでも、サンウルブズの選手たちはディフェンスやスクラムで相手にプレッシャーをかけて、終盤まで30-31の1点差という予想以上の接戦に持ち込んだ。

 そして迎えた残り1分。緊迫した状況のなか、サンウルブズの名手SOヘイデン・パーカーがドロップゴールを試みた。しかし残念ながら、ボールは左にそれてしまい、試合はそのままノーサイド。1万5000人近いファンの前で今年初勝利はならなかったが、大きな手応えを掴んだ内容を示した。

 大健闘を見せたサンウルブズのなかで、とくに目を引いたのは12番のインサイドCTB中村亮土だ。強豪ワラターズ相手に、アタックで3トライに絡む活躍を見せた。

 昨年12月の練習中に右太ももを傷めたため、第1節は出場することができず、このワラターズ戦が中村にとって今年初のスーパーラグビーとなった。しかも、昨年のスーパーラグビー「ベスト15」に輝いたマイケル・リトルを控えに追いやって先発に抜擢された。

 その期待に応え、中村は前半7分、ビッグプレーで流れを引き寄せる。サンウルブズが自陣深くまで攻め込まれた時、中村は前に出て相手のパスをインターセプト。そのまま一気に60メートル走り、最期は右サイドのWTB(ウイング)ゲラード・ファンデンヒーファーにパスを通してトライにつなげた。

 ワラターズのアタックラインは深く、FWとBKのダブルラインを使って仕掛けてくる戦略は分析済みだったという。前に出るディフェンスのスタイルは日本代表もサンウルブズも同じなので、中村はしっかり前に出ることを心がけ、ワラターズの選手たちがアイコンタクトしてパスを出す瞬間を見逃さなかった。

「狙っていました。最後は個人の判断で、(相手の動きを)見切って出ました」

 そして前半38分にも、中村は判断の光ったプレーでトライをアシストする。パーカーからパスをもらった中村は、タックルを受けながらもLO(ロック)トム・ロウにオフロードパスを通す。「相手のディフェンスを見ながら、引きつけてからのパスはイメージどおりだった」。ロウはそのまま中央に飛び込み、20-17のリードで前半を折り返すことに成功した。

 さらに後半30分にも、中村は再びトライに貢献する。サンウルブズはシンビン(10分間の途中退室)でひとり少ない状況だったが、スクラムを7人で組んでボールを出すと、この時はSOに入っていた中村が仕掛けてパーカーにパスを通す。それがきっかけとなり、最後はファンデンヒーファーのトライに結びついた。

 3トライに絡んだ中村は、この活躍を「経験が大きかった」と語る。昨年度、サントリーでのプレーが評価されてサンウルブズに加わり、初めてスーパーラグビーを経験した。その時は「怖いもの知らずで、ガムシャラにプレーしていた」という。

 また、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)から「SOもCTBもプレーできる」と注目され、日本代表でも経験を積んだ。昨年11月のニュージーランド代表戦に出場し、さらにイングランド代表戦では先発に抜擢。ラグビーの聖地「トゥイッケナム・スタジアム」ではトライも挙げた。

「高い強度でやってきたので、フィジカルの部分にも慣れて余裕が出てきた。全体を見てプレーできているかな」。中村も自身の成長を実感している。

 中学時代まではサッカー選手だったが、ラグビー好きの父親の影響もあり、鹿児島実業高から競技を始めた。キャプテンを務めた帝京大4年時、エディー・ジョーンズHCに日本代表として呼ばれ、積み上げた代表キャップは現在16を誇る。少しずつ日本代表、サンウルブズでの存在感が増してきた。

 ワラターズ戦が行なわれた東京・秩父宮のスタンドには、日本代表を率いるジョセフHCの姿もあった。サンウルブズの試合、そのひとつひとつがワールドカップに向けた大事なセレクションである。

「ディフェンスをもっとできたかなと思いますし、自分自身満足できるパフォーマンスではないですが、今の自分のベストを出せました。間違いなく(ジョセフHCに)チェックされていると思うので、自分のベストを出し続けることが大事になってくる」

 9月に開幕するラグビーワールドカップまで、あと7カ月。中村は世界の舞台でも戦えることを十分に示すことができた。「競争が激しくなるなかで、一段階さらにレベルアップして、次の相手にも勝ち切れるよう準備していきたい」。中村はサンウルブズの勝利を追いかけつつ、自らの牙を磨いていく。