2016年夏のリオ五輪や、2017年12月のE-1選手権でミスを引きずったナイーブな姿は、そこにはなかった。 そこにあ…

 2016年夏のリオ五輪や、2017年12月のE-1選手権でミスを引きずったナイーブな姿は、そこにはなかった。

 そこにあったのは、攻守において自信をみなぎらせ、相手とわたり合う力強い姿だった。



室屋成は昨季、第7節・鹿島戦でのスーパーゴールで自信を深めた

 準優勝に終わった今年1月のアジアカップで、FC東京の室屋成は2試合に出場した。

 初先発となったウズベキスタンとの第3戦では、相手の左サイドバックに向かってドリブル突破を何度も仕掛け、ピンポイントのクロスで武藤嘉紀(ニューカッスル・ユナイテッド)のゴールをアシスト。酒井宏樹(マルセイユ)の負傷によって急遽途中出場したイランとの準決勝でも、相手の左ウイングと丁々発止のバトルを繰り広げ、簡単に突破を許さなかった。

 以前はナイーブな面をのぞかせることもあったのに、A代表として初めて出場した国際大会ではなぜ、堂々とプレーできたのか--。

 UAEの強い日差しを浴びながら、室屋はきっぱりと言った。

「この1年で、サッカーに対する考え方やモチベーションの作り方を変えたんです」

 そのきっかけは、約1年前、2018年シーズンの序盤にあった。

 昨シーズン、FC東京で長らく右サイドバックを務めた徳永悠平がV・ファーレン長崎に移籍したため、前年末に代表デビューを果たした室屋が不動のレギュラーになると思われた。実際、室屋自身も「悠平さんがいなくなったことで、現実的に自分が試合に出ることになる。悠平さんが出ていた場所で、自分がしっかりやらないといけないって思っていました」と、シーズン前には強く決意していたという。

 ところが、「バランスを意識しすぎてしまって」、長谷川健太新監督を満足させられないでいると、第4節の湘南ベルマーレ戦、第5節のガンバ大阪戦では、プロ2年目でセンターバックが本職の岡崎慎にスタメンの座を奪われてしまう。

 この扱いが、室屋のハートに火をつけた。

「実は、この頃だけでなくプロに入ってから、『自分のよさが出せてないな』と感じていたんです。それで『バランスを考えすぎた結果、ベンチになるんだったら、自分らしいプレーをしよう』って。『仕掛けまくって、それでもダメで、このチームを出て行くことになるなら仕方がない。考えすぎず、もう無心でプレーしよう』と」

 そう心に決めた室屋は、出番のなかったG大阪戦のあとの練習試合で攻め続け、4アシストをマークする。ところが、それでも第6節の長崎戦に向けたトレーニングでは、前日練習までずっとサブ組だった。

「これでも、ないのか……」

 そう落ち込む室屋のもとに、長谷川監督から電話があったのは、試合当日の朝だった。

「健太さんから『やっぱりスタメンで使うことにした』と言われて、急に出ることになって。うれしかったですけど、絶対に結果を残さなあかんなって。そうしたら、長崎戦で自分のやりたいプレーを出せて、アシストまでできた。自分のなかでは「よっしゃー、見たか!」という感じでしたね」

 自信を掴んだ室屋は、第7節の鹿島アントラーズ戦でもスタメンで起用された。そして、55分にあのスーパーゴールが生まれるのだ。自陣深くから走り出し、ハーフウェーラインを越したあたりでボールを受けると一直線にゴールに向かい、ニアサイドの天井を射抜いた、あのダイナミックなゴールが--。

「この試合でも『無心で攻めまくったろう』と思っていて、(永井)謙佑くんが右サイドに流れた瞬間にスペースが空いた。僕はインナーラップが得意なので、そのスペース目掛けて走ったら、謙佑くんがヒールで出してくれて、ワンタッチ目がうまくいったから、そのまま行ったれって。GKに向かって打ち込みました」

 それ以降、負傷や出場停止をのぞいて室屋がスタメンから外れることはなかった。室屋が手にした自信と、無心で臨むスタイルがブレることもなかった。そんな室屋に8月末、吉報が届く。森保ジャパンの初陣のメンバーに選出されたのである。

 新シーズンの沖縄キャンプ。アジアカップで室屋が不在の間、本来は左サイドバックの小川諒也、東福岡高から加入したルーキーの中村拓海、ブラジルからやってきたアルトゥール・シルバらが右サイドバックとして試された。

 右サイドバックの選手層に関して、長谷川監督は「キャンプで小川がいいパフォーマンスをしてくれましたし、新加入の中村、アルトゥールも試せたので、だいぶ目処が立ってきたと思っています」と手応えをのぞかせた。

 だが、「もちろん、室屋の域に達するのは難しいですけど」と付け加えることを指揮官は忘れなかった。その言葉には、室屋に対する全幅の信頼が込められていた。

 昨年の8月のことである。FC東京の強化部担当から代表選出を知らされた時、室屋は最初、なんの話かわからなかったという。「あまりに無心すぎて、代表戦があることを知らなかった(笑)」からである。

 しかし、アジアカップが終わった今は、代表への想いが強まっている。沖縄の青空の下、清々しい表情で室屋はきっぱりと言った。

「たしかに想いは強くなったし、試合に出たいと単純に思うようになりました。ベンチにいても仕方がない。やっぱり(代表に)行くからには、ピッチに立ちたい。ピッチに立たなければ、何の意味もないと思うようになりました」

 だが、それもすべてはFC東京でのパフォーマンスと成長次第だということを、室屋は理解している。

「決勝を外から見ていて、(ピッチの)中でやりたいと感じましたけど、やっぱりそこに立てていないという現実がある。だから今は、このチーム(FC東京)で何ができるか、どうやったら成長できるかを考えながら、日々過ごしていかなければならないと思います」

 さらなる成長と、FC東京でのタイトル獲得を目指し、新シーズンも右サイドを無心で駆け抜けるつもりだ。それを実現した時、日本代表での出場機会は自ずと巡ってくるはずだ。