福田正博 フットボール原論 新しいシーズンの開幕を迎えるJリーグ。今季注目度ナンバーワンクラブは間違いなくヴィッセル…

福田正博 フットボール原論

 新しいシーズンの開幕を迎えるJリーグ。今季注目度ナンバーワンクラブは間違いなくヴィッセル神戸だ。イニエスタ、ビジャ、ポドルスキという世界クラスの選手をそろえる戦力で頂点を目指すクラブを、福田正博氏が分析した。

 一昨年はルーカス・ポドルスキ、昨年はアンドレス・イニエスタという、ふたりのW杯優勝経験者を獲得した神戸だが、今季は新たにダビド・ビジャ(前ニューヨーク・シティ)を戦力に加えた。ビジャは、スペイン代表として歴代最多の59ゴールを記録し、EURO2008と2010年W杯南アフリカ大会で得点王に輝いてスペイン優勝の立役者となった世界的ストライカーだ。



昨シーズン途中から神戸に加入したイニエスタ

 イニエスタとポドルスキ、そしてビジャという世界に名だたる選手を擁するチームへの興味や関心が集まるのは当然のこと。キャンプでもそれは如実に表れていた。

 神戸は1月24日から2月5日までロサンゼルスで1次キャンプを張った後に、2月10日からの3日間は沖縄県国頭郡の金武町フットボールセンターで2次キャンプを行なったが、その初日に詰めかけた観客数は約4,000人いたそうだ。

 これほどの観客がシーズン前のキャンプに押し寄せるのは、Jリーグでは滅多にない。それだけ今の神戸には、多くのファンが興味や関心を持っているということだ。

 プロリーグである以上、ひとりでも多くの人がスタジアムへ足を運びたくなる話題を提供することは重要なこと。華やかな補強の神戸に興味を持つ人が増えるのは、Jリーグ全体にとってもプラス効果しかない。また、彼らの加入によって日本人選手への注目度が増すメリットもある。

 たとえば、イニエスタの加入前に背番号6をつけていた三田啓貴は、昨季途中からイニエスタに6番を譲り、背番号7を背負った。それが今季は7番に愛着を持つビジャの加入で再び背番号が変わり、今季は14番。このことで、巷では神戸が次に獲得する選手がバルサ時代に14番をつけていたハビエル・マスチェラーノ(河北華夏)になるのではという噂が立つほどだ。

 本当に実現するかどうかは別にして、一連の背番号変更によって三田の名前は神戸サポーター以外にも広く知られるところとなった。こうした波及効果が生まれるのも、ワールドクラスの選手を補強したからこそ。

 神戸が開幕後も多くのファンの興味を維持し続けていくためには、シーズンを通じた戦いが最重要になる。肝心の成績がさっぱりでは、人々の興味は他へ移ってしまうが、その点で今季からJリーグが決定したルール変更が神戸にとって追い風になる可能性は高い。

 今季から、Jリーグは外国籍選手の起用に関する規約を変更。昨年は外国籍選手3人+アジア枠1人だったが、今季J1では外国籍選手は1試合5人までベンチ入りでき、同時に5人起用できるようになった。さらに外国籍選手の選手登録数の制限がなくなり、国籍に関係なくスタメンの5/11で外国籍選手が出場できる。外国籍選手が機能するかどうかが、リーグ戦の順位に大きく影響すると言っても過言ではないだろう。

 神戸の場合、昨季途中から就任したファン・マヌエル・リージョ監督が、日本人選手のメンタリティを完全に把握するのに苦労する部分もあると思う。しかし、クラブのバックアップ体制はしっかりしているので、この点はさほど心配はない。

 それよりも、攻撃に偏重した戦力バランスに一抹の不安を覚えている。今季の神戸にはイニエスタ、ポドルスキ、ビジャのほかに、FWにウェリントン(ブラジル)、GKにキム・スンギュ(韓国)が在籍している。

 長いシーズンで安定した成績を残すのに必要なものは守備力で、守備がしっかりしたチームというのは、攻撃陣が抑えられたとしても、高い確率で勝ち点を積み上げられる。しかし、神戸の場合、攻撃のタレントに比べて守備陣の土台に脆弱性を感じる。

 今季は守備的MFにセレッソ大阪から元日本代表の山口蛍を獲得し、サイドバックには鹿島アントラーズでACL優勝に貢献した西大伍、ハリルホジッチ体制下で代表経験もある東京五輪世代の初瀬亮をガンバ大阪から獲った。

 蛍を獲得できたことは守備面で大きい補強になったとはいえ、蛍ひとりで広大なスペースを守り切れるものではない。蛍がCB2枚と連携を蜜にしながら守ることに加え、攻撃時からボールロストに対するリスク管理を高めなければ、守備が破綻する危険性を孕んでいる。

 守備というものは、能力の高い選手を揃えることがすぐにディフェンス力向上につながるわけではない。圧倒的な個の能力を持つ選手がいなくても、コンビネーションを高めながら連動して数的優位をつくって守る方法もある。ただ、現在の神戸の場合、攻撃的な選手を数多く配置しているため、連動した守備を望むにも限界がある。

 神戸が目指しているバルサの場合、守備には強烈なディフェンス能力を持つ選手がいる。CBのジェラール・ピケ、サミュエル・ウムティティ、GKのテア・シュテーゲン、セントラルMFのセルヒオ・ブスケツらの際立った個の力と組織力によって、チームの土台が形成されている。

 もちろん、神戸も強力なCBの獲得に動いており、オフシーズンにはいろいろな選手の名前がメディアを賑わした。このうち、名前が出ていたラツィオのCBマルティン・カセレス(ユベントスへ移籍)が獲れていたら最高の補強になったはずだ。しかし、移籍はさまざまな条件が整わないと実現しないもので、結果的にDFラインに外国籍選手の補強は実現していない。

 ただ、こうしたチームの補強ポイントは、チーム編成の責任者であるアツ(三浦淳寛)も十分に理解していること。それだけにヨーロッパのシーズンが終わる5月以降に、チーム状況を見ながら、世界トップクラスのCBを獲得してくる可能性は高い。

 それまでに、ファン・マヌエル・リージョ監督がどういうバランスをチームにもたらし、持ち味の攻撃的なサッカーを見せてくれるのかが見どころだ。ビジャ、イニエスタ、ポドルスキが、高い技術力と判断力で相手守備陣を手玉に取る攻撃を目にすることができるだろう。

 今季はリーグ3連覇を狙う川崎フロンターレとともに、神戸がJリーグの軸になることは間違いない。彼らと対戦するチームがどう戦うのかという視点が生まれることで、これまでJリーグ観戦に不足していたピースのひとつが埋まった。サッカーはあまり観たことがないという人たちが、今シーズンはJリーグの面白さを体感してくれると信じている。