「行こう! 行こう!」 J2アビスパ福岡のスペイン人GKジョン・アンデル・セランテス(29歳)は、後方から味方を叱咤…
「行こう! 行こう!」
J2アビスパ福岡のスペイン人GKジョン・アンデル・セランテス(29歳)は、後方から味方を叱咤し続けていた。入団合流から1カ月程度だが、すでにいくつかの日本語は覚えている。
スペイン語なら、「Dale、Dale」に近いだろうか。相手ボールに対して間合いを詰め、体を寄せる、あるいは前に向かって、積極的に仕掛け続ける。守備でも、攻撃でも、ひとつの言葉に多くの意味が含まれる。
セランテスは相応の日本語を求め、そこに行き着いた。
「『行こう』は好きな言葉だね。チームを元気にするのにいい。モチベーションを上げるというか。今日はとくに後半、選手がバテてしまっていたからね。そういう声を出すことはGKとして意識しているよ」

アビスパ福岡に入団したリーガ・エスパニョーラ出身GK、ジョン・アンデル・セランテス
2月16日、プレシーズンマッチのサガン鳥栖戦後、セランテスは穏やかな笑みを浮かべて言っている。試合は彼が交代した後、同胞のフェルナンド・トーレスに失点を浴び、敵地で2-1と敗れた。しかし、手応えはつかんだようだった。
「前半の出来はよかった。(1点を取った他にも)たくさんチャンスを作れたしね。でも、そこでリードを奪えず、後半は疲れが出てしまった。まあ、これはキャンプから続いているハードな練習の影響だから。(開幕まで)残りの1週間、しっかり調整していきたい」
肯定的な言葉は、少しも強がりには聞こえなかった。
世界最高峰のリーガ・エスパニョーラ、レガネスから福岡にやってきたスペイン人GKは、はたして昇格請負人となれるだろうか?
セランテスは、スペインの名門アスレティック・ビルバオの下部組織であるレサマで育っている。
アスレティックのチーム哲学は純血主義。地元バスク人選手だけで戦い、100年以上、1部を死守してきた。その健闘を支えてきたのが、レサマが輩出した偉大なるGKたちだった。ホセ・アンヘル・イリバル、アンドニ・スビサレータ、ダニ・アランスビア、そして現在のスペイン代表のケパ・アリサバラガ(チェルシー)などのGKを生み出してきたのだ。
「バスク人GKには真面目さ、規律正しさ、そして集中力が求められる。何より味方に落ち着きを与えられるか」
セランテスは言うが、その硬骨さこそ、彼らのアイデンティティだろう。スペイン人というよりも、バスク人GKなのだ。
その特長は、適応力にあるかもしれない。ハードな練習で、メンタル的にタフで鍛えられている。それゆえ、どのクラブでも成功を収められる。ケパだけでなく、バスクを出て活躍するGKは多い。
その点、セランテスもバスク人GKとして面目躍如だった。移籍するたび、スタートは第3GKにもかかわらず、最後にはいつも第1GKとして君臨。自らを信じ、練習に打ち込み、機会を待てる才能を持っているのだ。
そして2015‐16シーズンには、2部レガネスの正GKとして高いゴールキーピング技術を見せつけている。リーグで2番目に少ない失点数。その堅牢な守備力によって、1928年クラブ創立のレガネスを、90年近い歴史の中で初めて1部昇格へ導いた。
2016‐17シーズンも、セランテスは1部リーグで目覚ましいセービングを繰り広げていている。序盤戦のチームMVPに等しい活躍だった。実際、リーグの月間賞も受けた。しかし、シーズン途中で右膝前十字靭帯を断裂。1年近く治療に専念することになった。その後、チームが次々にGKを獲得したことで、海を渡った。
「今は、自分がGKであるという自信を取り戻したい、と思っているよ」
セランテスは落ち着いた声音で言った。
「もともと海外でのプレーを考えていた。そのなかで日本の評判はよかった。人も国も、文化も。それで代理人が来て、日本でのプレーを誘ってくれた。自分は2年前にケガでしばらくプレーできなかった。ケガはもう何も問題ないんだけど、(2018‐19シーズンは)あまり出場機会に恵まれそうになかったから、(2019年1月に)決断をする必要があった」
彼がその自信を取り戻したら、J1にもその力を凌ぐGKはいないだろう。それだけ、リーガで定位置を掴むのは難しい。世界最高のGKが集っているのだ。
「J2のGKは全員チェックしたよ」
セランテスは言った。実力者だが、準備に余念がない。
「J1のGKの試合もね。正直、名前はあまり出てこないけど、レベルは高いよ。スペインでもプレーできるレベルか? うーん、GKはチームのプレースタイルにも左右される部分もあるけど。ポルティモネンセに移籍することが決まったGK(権田修一)はディシプリンもあるGKだね」
バスク人選手には、ひとつのアドバンテージがある。バスク人は、日本人と性格、道徳が似ているところがある。
「Serenidad」(平静さ)という言葉に象徴されるように、スペイン人より、むしろ日本人に近い。
事実、多くのバスク人選手(チキ・べギリスタイン、フリオ・サリナス)、監督(ハビエル・アスカルゴルタ、ミゲル・アンヘル・ロティーナ、フアン・マヌエル・リージョ)がJリーグで成功を収めてきた。
「日本人とバスク人は確かに似ているかもしれない。真面目な働き者。そういう国だからこそ、自分も簡単に適応できている」
セランテスは笑顔を浮かべて言った。
最後に訊ねた。
――日本にやって来て、何を勝ち取りたい? やはり、昇格なのか?
「福岡がずっと昇格に挑んでいるのは心得ている。今は、試合を重ねて自信を身につけつつある。戦いのなかで、チームはあるべき姿を見せられるようになるはずだ」
2月24日、福岡はJ3から昇格したFC琉球との開幕戦を迎える。