わずか1試合――。極めて異例のことだろう。オズワルド・オリヴェイラ監督率いる浦和レッズが、このプレシーズンに行なっ…

 わずか1試合――。極めて異例のことだろう。オズワルド・オリヴェイラ監督率いる浦和レッズが、このプレシーズンに行なった練習試合の回数である。

 それも相手は、J1でも、J2でも、J3でもなく、九州リーグに所属する沖縄SV。しかも、レギュラー組が出場した1本目は50分、サブ組が出場した2本目もメンバーを入れ替えながら60分しか行なっていない。つまり、90分の対外試合を1度もこなすことなく、2月16日に最初の公式戦となるフジゼロックス・スーパーカップを迎えるのである。



昨年の4月下旬から浦和レッズを率いているオリヴェイラ監督

「前半(1本目)あまりよくなかったので、後半にどう立て直すか、そこをやりたかったんですけど、それがなく、練習試合自体ももうないので、練習でしっかり準備しないといけないですね」

 そう語ったのは、セレッソ大阪から加入したFW杉本健勇である。とくに杉本の場合は加入したばかりだから、前線でコンビを組む興梠慎三やインサイドハーフに入る柏木陽介、長澤和輝らとの連係を、実戦のなかでもっと磨きたいと願うのも当然だろう。

 だが、百戦錬磨の指揮官は「練習試合に勝っても、勝ち点3を取れるわけではありませんから」と、達観した様子で語り、ニヤッと笑った。

「今シーズン、我々は70試合プレーします。だから今は、せっかくある時間を練習に使いたいと思っています。去年は私が(4月末に)来る前に、ジュビロ磐田と清水エスパルスとの練習試合が(6月と7月に)すでにアレンジされていましたから、行ないました。しかし、そのうちの1試合で、我々にとって最も大事な選手である(興梠)慎三が厳しいファウルを受けて、もう少しでひざが壊れるところでした。

 勝ち点3がかかっていない試合で選手がケガをする――。こんなバカバカしいことはありません。我々はこの1年で70試合もするんです。だから今は、90分の試合はしなくていいと思っています」

 1年で70試合――。それは言うまでもなく、リーグ戦に加え、ルヴァンカップ、天皇杯、そしてアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)でも決勝まで戦うことを想定している。シーズンが始まれば過密日程となり、戦術トレーニングに十分な時間を避けない。だから今、実戦よりもトレーニングを重視するというわけだ。

 しかし、ここには、もうひとつの狙いがあった。

「飢えですよ、試合への飢え。早く試合がしたい――。選手たちにそうした気持ちが芽生えれば、それがモチベーションにつながりますから」

 実際、「試合をしたくてウズウズしている」という選手がいるから、すでに魔法にかけられているのだろう。

 それだけではない。

 ミーティングでは演説のように言葉に強弱をつけて語りかけ、昨年の天皇杯決勝の前日には大勢のサポーターを招き入れ、すばらしい雰囲気を作り上げた。あの手、この手で選手のマインドを巧みにコントロールする――。それが、「オズの魔法使い」と言われるゆえんだ。

 一方、ピッチ内では極めて論理的だ。

 昨シーズン終盤に最適解として見出した3ボランチの3-5-2を継続しながら、リハビリ中の武藤雄樹、青木拓矢(現在は全体練習に復帰)に代わって杉本やエヴェルトンといった新加入選手を試している。練習試合では敵陣でボールを失うと、ベンチから「プレス! プレス! プレス!」という激しい声が飛び、ハイプレスが敢行された。左ウイングバックに入る宇賀神友弥が語る。

「ハメに行った時のパワーだったり、それで(ボールを)取り切るところは昨シーズンもやっていましたけど、今年はそこによりフォーカスしてやっています。その強度を高めることがテーマなのは確かです」

 それをやり切る体力をつけるためにも、2次キャンプに入ってもなお、ホテル近くの砂浜でフィジカルトレーニングを行なっている。こうした計算づくの身体作りは、フィジカルコーチ出身のオリヴェイラ監督ならではだろう。

 練習試合では、右ストッパーの森脇良太の大きなサイドチェンジを、横浜F・マリノスから加入した左ウイングバックの山中亮輔がダイレクトで折り返し、インサイドハーフの山田直輝が飛び込んでゴールネットを揺らすスーパーゴールが見られた。

 この時のピッチには、オーストラリア代表のFWアンドリュー・ナバウト、キュラソー代表のMFマルティノス、元日本代表のMF阿部勇樹、柏レイソルから加入したDF鈴木大輔の姿もあったが、実はこれは2本目。つまり、サブ組なのだ。

 さらに、この日は前述したように、武藤と青木、さらにファブリシオが別メニューでもあった。この選手層の厚さは、今シーズン70試合を目指すうえで大きな強みだろう。

「(レギュラー組の左ウイングバックの)宇賀神は右利きですから、山中を左、宇賀神を右で起用するオプションもあります」と指揮官が明かせば、柏木や長澤とポジションを争う山田は、胸の内をこう明かした。

「強いチームはサブ組が強い。サブ組がアピールすれば、レギュラー組の選手たちに危機感が芽生え、それがチーム力アップにつながる。

 そもそも、70試合を11人で戦えるわけがない。最低でも20人くらいが必要で、20人の誰が出ても戦力が変わらないチームになっていかないといけない。もちろん、レギュラーを目指してやりますけど、全員が日々努力することが大事だと思います」

 2月16日にはJ1王者の川崎フロンターレとのフジゼロックス・スーパーカップが控えている。ACLとリーグ戦の開幕に向けて試したいことは何か――。そう訊ねると、指揮官は鋭い眼光でこう語った。

「これはスーパーカップです。J1の王者と天皇杯の王者がプライドをかけてタイトルを争う本番です。テストではありません」

 戦力アップを図った浦和と同様、川崎も前線に元ブラジル代表ストライカーのレアンドロ・ダミアンを補強するなど、着実に上積みがなされている。果たして浦和のハイプレスは、ボール保持に関して右に出るものがいない川崎からボールを奪えるか。2強によるゼロックス・スーパーカップが今シーズンを占う一戦になるのは、間違いない。