Jリーグ1年目の昨シーズン、フェルナンド・トーレス(サガン鳥栖)は、成功を収めたと言えるのだろうか? 17試合出場…

 Jリーグ1年目の昨シーズン、フェルナンド・トーレス(サガン鳥栖)は、成功を収めたと言えるのだろうか?

 17試合出場3得点。数字だけで言えば、物足りない。天皇杯を含めてもわずか4得点。チームの低迷や初めての極東でのプレーといった点を差し引き、ゴール以外の貢献があったとしても、欧州王者、世界王者になったスペイン代表ストライカーとしては、満足な出来ではなかった。

 トーレス本人が、一番忸怩たる思いだったはずだ。2年目のトーレスは成功を収められるのだろうか?



サガン鳥栖で2シーズン目を迎えるフェルナンド・トーレス

「笑顔が増えた」

 それが2019年のキャンプを通じた、2年目のトーレスに対するチームメイトたちの印象だという。去年はどこかでストレスを抱えていたのだろう。冷静沈着な人物だが、ピッチで苛つきを見せることもあった。

「自分は降格回避を争うチームでプレーした経験はない。どこかで(無意識に)プレッシャーになっていたのだろう」

 昨シーズン終盤、トーレス自身が正直な気持ちを吐露していた。

「フェルナンドとしては、スペイン人監督(ルイス・カレーラス)になって、言葉が通じるだけでも、ストレスがなくなったんでしょうね。余裕が出て、メンタルが安定しているというか」

 同じストライカーである元日本代表FW豊田陽平は、その変化をこう説明している。

「ボール回しとかでも、ヒールでポンっと何気なくつなげるプレーが出たり。そういうのが去年はあまり見られなかった。FWはとくにちょっとした安心感の部分が、プレーに大きく出る。だから、いい状態なのは間違いないと思いますよ。今年の監督の戦術は、フェルナンドが点を取れるか、にかかってくるはずです」

 プレシーズン、新たに就任したカレーラス監督は4-3-3のシステムを採用している。数字上は3トップだが、サイドは大きく開くため、1トップと言うべきだろう。インサイドハーフも前へ走るので、4-1-4-1に近いか。

「まずはトップを見て、トーレスに通せ!」

 カレーラス監督はその一点張りで、とにかくその得点力に賭けている。そのため、1トップは相手ボールに対してはコースを切るだけで、守備の負担を求めていない。体力を温存し、ゴールを仕留めるのが使命となる。

 トーレスが決定機を外した場合、戦局は不利に傾く可能性が高いだろう。ノープレスでは相手にボールを持ち運ばれる。必然的に守勢に回ることになる。

 しかし、トーレスの得点は増えるかもしれない。事実、プレシーズンに香港で行なわれたルナー・ニュー・イヤー・カップでも2試合連続得点。香港選抜戦、フアン・イサック・クエンカ・ロペスの右足クロスをディフェンスの間で呼び込み、胸で受けると、バウンドしたボールを冷静にネットに沈めた。ゴールゲッターとしての質の高さが出たシーンだった。

「あの集中力は、さすが世界で戦ってきたゴールゲッターだな、と思いましたね」

 香港選抜戦に右サイドバックとして先発出場した小林祐三は、そう振り返っている。

「イサックのボールって、抜けてくるか、こないか、微妙な感じで。『来た、やばい』ってなるFWは多いと思います。こういうゴールを決めると、周りもフェル(ナンド)を信じられるし、フェルも周りを信じられて、ポジティブに好転する可能性はあるんじゃないかな、と思います。

 今シーズン、フェルはフィジカル的にもフレッシュで入ってきたな、というのはあります。去年は来たときが一番フィットしていたというか。そのあとは(欧州シーズンから)ぶっ続けでプレーして、疲れも出たと思います。3点は少ないと思いますけど、もっと取れてもおかしくはなかったはずです」

 トーレスが不発に終わった理由は、いくつかあるのだろう。コンディション的にも100%には程遠かった。精神的にもストレスを抱えていた。それらが解消された2年目、トーレスの視界は開けた、とも言える。

 もっとも、不安はある。チームとして現実的な機能性に乏しく、ラストパスまでたどり着かない。クエンカの個人プレーに頼っているのが現状だ。

 そのせいか、トーレスはルナー・ニュー・イヤー・カップ決勝(山東魯能戦)では、ゴールを決めながらも、相手のチャージに苛立って、荒っぽいプレーで火種になっている。英雄的選手らしくない振る舞いだった。率直に言って、2年目のJリーグでも同じような光景が広がる可能性があることは否めない。

「でも、フェルナンドは練習ではどんなときも真面目。淡々と、誰よりも一生懸命に取り組める。プロフェッショナルで、向上心が強く、尊敬できる。その証拠に、すごい体をしていますしね」

 チームメイトたちはそう口をそろえる。

 プレーヤーとしての姿勢。それはトーレスが、”2年目の失敗を回避する担保”と言えるかもしれない。