お目当ての選手は、鹿児島にはいなかった――。それも当然である。UAEの地で奮闘し、ウズベキスタン戦の勝利に貢献しな…

 お目当ての選手は、鹿児島にはいなかった――。それも当然である。UAEの地で奮闘し、ウズベキスタン戦の勝利に貢献しながら翌日に右ひざの違和感を訴えて、日本代表からの離脱のリリースが流れたのだ。



満を持して広島に帰ってきたアカデミー出身の野津田岳人

 UAEを離れ、タイでキャンプを張るクラブで検査を受けるという報道はあったが、その後の進捗は明らかになっていない。鹿児島キャンプが始まっても、クラブからの正式アナウンスは流れていない。

 サンフレッチェ広島は大黒柱のMF青山敏弘を欠いたまま、シーズンの開幕を迎えることになりそうだ。チームの練習に合流していないのだから、状態は芳(かんば)しくないのだろう。

 昨季、城福浩監督のもとで2位と躍進を遂げた広島だったが、無敗街道を走り続けた開幕当初の勢いを、シーズンを通して保つことができなかった。一時は独走態勢を築きながらも、シーズン終盤によもやの失速。川崎フロンターレにかわされて、2015年以来のタイトルを逃している。

 4-4-2の布陣をベースに、強度の高い守備とFWパトリックの決定力を生かして結果を残していったが、そのストロングポイントが機能しなくなると勢いを失った。前年の15位から大きく順位を上げながらも、失速のインパクトは大きく、昨季の広島はネガティブなイメージを抱えてシーズンを終えることになった。

 その反省を踏まえ、今季の広島は新機軸を打ち出した。4-4-2の布陣から3-4-2-1へとシステムを変更。3度の優勝を成し遂げた黄金期に採用されていた形であり、むしろ原点回帰と言ったほうがいいのかもしれない。

 変更の理由について城福監督は、「ポゼッション率」をキーワードに挙げた。

「昨季は守備のところが強調された一方で、ポゼッション率は高くなかった。今季はボールをコントロールしながら、ゲームをコントロールする。チームとして前進していきたい」

 ポゼッション率の低さは、まさに昨季の広島の課題だった。最優先事項は守備であり、攻撃はシンプルなロングボールが多かった。パトリックの決定力の高さによって得点は獲れていたものの、支配率の低さによって守勢に回る時間が長く、試合運びを難しくしていたのは事実だった。

 ボールを支配するためには、何をすればいいのか――。その最適解が、かつての広島を支えた3-4-2-1への回帰だ。「その経験もあるが、メンバーが変わればやり方も変わってくる」と城福監督が言うように、優勝メンバーが少なくなっているため、当時と同じサッカーとはならないだろう。

 しかし、現在の広島にも感覚的に3-4-2-1に慣れた選手が多くいる。実際に、鹿児島で行なわれていたジュビロ磐田との練習試合でも、最終ラインからボールをつなぎ、ポゼッションを大事にするかつての広島の姿が垣間見えた。

 それゆえに惜しまれるのは、やはり青山の不在だ。的確なパスワークでポゼッションを高められる、このシステムのカギを握る存在であるからだ。

 とはいえ、青山の不在が新たな風を吹かせているのも確かだ。これまで出番の少なかった若手が自らの存在をアピールしようと、積極的な姿勢を見せている。

 その筆頭が、野津田岳人と川辺駿のふたりである。いずれも広島のアカデミー出身の逸材ながら、これまでその能力を発揮できず、広島の中心とは成り得ていない。

 今季、ベガルタ仙台からレンタルバックした野津田は、ユース時代からトップの試合に出場するなど将来を嘱望されていたが、2013年のトップ昇格後は力を発揮できずサブに甘んじていた。2016年にアルビレックス新潟に期限付き移籍すると、翌年には清水エスパルス、その年の途中には仙台へ。昨季もレンタルのまま、仙台でプレーを続けた。

 しかし、昨季の仙台では主軸としてシーズンを戦い抜き、天皇杯の準優勝にも貢献。約3年にわたる武者修行を経て、満を持して広島に復帰した。

「広島でもう一度、輝くために帰ってきました。育ててくれたクラブに恩返ししたい気持ちだけです」

 復帰の理由をそう語った野津田は、「チームとしてのやり方もメンバーも変わりましたが、広島らしさはまだありますし、あらためてこのエンブレムのユニフォームに袖を通してみて、帰ってきたなという実感があります」と、感慨深げに心境を吐露した。

 一方の川辺も、ユース時代にトップデビューを果たしたが、トップ昇格後に出番は少なく、2015年に磐田に期限付き移籍。3年間主力として活躍したのち、昨季復帰したものの、得意とするボランチやトップ下ではなくサイドでの起用が多く、持ち味を発揮するには至らなかった。

 しかし、今季はシステム変更により、ボランチでの起用が濃厚だ。磐田時代に躍動したポジションで、再び輝きを取り戻そうとしている。

 青山の離脱だけでなく、クラブのレジェンドである森﨑和幸が現役を退き、3度の優勝の立役者となった千葉和彦も名古屋グランパスに新天地を求めた。過渡期を迎えるなか、世代交代の象徴ともいえる24歳の野津田と23歳の川辺には、大きな期待が寄せられている。それは練習後の取材エリアで、このふたりの周りに多くの報道陣が集まっていたことからもうかがえた。

 両者に共通するのは、「俺らの世代がチームを引っ張っていく」という想いである。

「チームとして平均年齢が上がっているので、自分たちの世代が中心となってプレーしないといけない」と川辺が言えば、「メンバーも変わって、今年は大事な年。チームを変えていきたいですし、引っ張っていけるような存在にならないといけない」と、野津田も強い決意を示した。

 磐田との練習試合では、ボランチの川辺とシャドーの位置に入った野津田を中心にボールが回っていた。その堂々としたプレーからも、リーダーとしての自覚が見てとれる。

「新しいサンフレッチェを作ってきたい」

 くしくも、ふたりは同じ言葉を口にした。

 3度の優勝は、もはや過去の話。再び強いチームとなれるのか、広島の未来は、この若いふたりにかかっている。