史上30人目となるメジャー通算3000安打達成が目前に迫るマーリンズのイチロー外野手だが、日本ではもちろんアメリカでも、改めてその偉大なキャリアにスポットライトが当てられている。■「禅と迷信とこだわりの交差点に生きる」男の知られざる交流 史…

史上30人目となるメジャー通算3000安打達成が目前に迫るマーリンズのイチロー外野手だが、日本ではもちろんアメリカでも、改めてその偉大なキャリアにスポットライトが当てられている。

■「禅と迷信とこだわりの交差点に生きる」男の知られざる交流

 史上30人目となるメジャー通算3000安打達成が目前に迫るマーリンズのイチロー外野手だが、日本ではもちろんアメリカでも、改めてその偉大なキャリアにスポットライトが当てられている。

 27歳で海をわたり、メジャー16年のキャリアを通じて1本ずつ積み重ねた安打が、3000本という大台に達しようとしているわけだが、米スポーツ専門局ESPNの公式サイトでは「イチロー・スズキ、今なお打ち続け、つながり続ける」と題した大々的な特集を組み、背番号51の知られざる素顔と今なお活躍し続ける舞台裏を紹介している。

 6月15日、イチローが日米通算4257安打を放ち、ピート・ローズのメジャー最多安打記録を抜いた。遠征地サンディエゴを発つチームチャーター便の中では、イチローの功績を称えるささやかな祝賀会が行われたという。

 チームリーダーでもある三塁手プラドが「俺たちは全員、君のことを誇りに思う。そして、君が成し遂げることを見るだけでも胸が高まる思いだ」と伝えると、42歳ベテランはチームメイトたちの計らいにこみ上げるものがあったのか、ただニコリと微笑むと、手を振って、グラスを高く掲げたそうだ。

■二グロリーグ博物館館長が明かすイチローの知られざる逸話

 母国語の他にも英語、スペイン語を操るイチローだが、メジャー16年目の今でも通訳を使う。その目的は「言葉の意味を誤解されないように、そして言葉が意味するところが聞き手に正確に伝わるようにする」ため。そういった意味でも、イチローが「一番よく知る言語=野球」を通じて、周りに語りかけることに耳を傾け、目をこらすことは重要だろう。記事では、プラドが「自分の子供たちに、毎日変わらぬルーティンを続けた選手と一緒にプレーしたんだって話せる。彼のように、同じリズムで自分を維持し続けることが、どれだけ大変なことか」と感嘆する様子を伝えている。

 いつ何時もルーティンを崩さず、同じ準備を繰り返す。その一方で、元チームメイトのグリフィーJr.が試合前にイチローをくすぐるのをやめた途端に打てなくなり、またくすぐるように頼む意外な一面も。一つの物差しでは測りきれない背番号51について、記事では「イチローは、禅と迷信とこだわりの交差点に生きている」と表現した。

 数多く紹介されるエピソードの中でも、ひときわ心に残るのは元二グロリーグの選手で、メジャーで初の黒人コーチとなったバック・オニール氏とのエピソードだろう。

 カンザスシティに遠征するたびに、オニール氏の経験談を聞き、交流を深めたイチローは、同地にある二グロリーグ博物館に何度となく足を運び、野球界における有色人種のパイオニアたちの足跡をたどったそうだ。博物館の館長を務めるボブ・ケンドリックス氏は、イチローがそれまでで最も高額の寄付を贈ったことを明かしながら、二グロリーグに関心を向けた理由を推察している。

■懐疑の目を払いのけ、道を切り拓いた二グロリーグ選手に共感

 メジャーへやってきた当初は、日本で見せた技術がどれだけ通用するのか、疑う人も多かった。そんな懐疑的な目に囲まれながら、自分の実力を証明し続ける姿は、黒人選手がメジャーへの道を切り拓いた姿に似ている。ケンドリック氏は「二グロリーグからメジャーに移籍した選手たちと、イチローが通ってきた道は並行していると感じていました。周囲からの疑念を振り払い続けなければならなかったのです」と話したという。

「打席に立ったとき、誰も助けてはくれませんから。自分の力でやり抜くしかないんですよ」

 打席での心得を問われたイチローは、通訳を介して、こう答えたそうだ。

 初の日本人野手として前人未踏の地を切り拓いてきたパイオニア(先駆者)は、数え切れないほどの打席で孤独な戦いを重ねてきた。自らの経験を基に二グロリーグの偉人たちの苦労に思いを馳せ、変わらず野球をプレーし続ける姿で自らの思いや経験を後進に伝える。プロ野球生活25年を迎えるベテランは、今日も同じルーティンを繰り返しながら、3000本安打という金字塔に歩を進めていく。