防御率27.00。それが、有望な若手右腕が2018年に残した一軍成績だった。 今季高卒3年目を迎える高田萌生(ほう…
防御率27.00。それが、有望な若手右腕が2018年に残した一軍成績だった。
今季高卒3年目を迎える高田萌生(ほうせい/巨人)は、原辰徳監督も資質を絶賛するほどのホープである。昨季はイースタン・リーグで11勝2敗、防御率2.69。最多勝利、最優秀防御率、最高勝率(.846)とタイトル三冠を獲得した。

今シーズン、プロ初勝利を目指す3年目の巨人・高田萌生
150キロを超える快速球に、松坂大輔(中日)を参考にした流れるようなフォーム。変化球の扱いもうまく、投球センス抜群。そんな若武者が「試練」を味わったのは、2018年7月29日、中日戦でのことだった。
プロ初登板、初先発。東京ドームに集まった4万4千人の大観衆の前で、高田はマウンドに上がった。しかし、先頭の京田陽太にセンター前ヒットを許すと、続く亀澤恭平、大島洋平にも連打を許して早くも失点。さらにビシエドの四球を挟んで、平田良介にはライトへタイムリー。その後も流れを止めることはできず、2回を投げて6失点でマウンドを降りた。まさに「めった打ち」だった。
「あの試合は自分の悪いところしか出なかったので、正直言って手応えとか、いい部分を見つけることすらできなかったですね……」
高田が肌で感じた「一軍の壁」は何だったのか。それは目に見えないものだった。
「もちろん僕のレベルが足りなかったことはあります。でも、僕が感じた一軍と二軍の一番の違いは雰囲気なんです。といっても、お客さんの数ではありません。ファームのジャイアンツ球場だって二軍としては集まるほうだし、高校時代に甲子園でお客さんがたくさんいる前で投げたこともあります。でも一軍にはスタンドの人数だけじゃない、独特の雰囲気がありました。あの雰囲気のなかで一軍のバッターに対して力を出し切れていれば、もっとやれたと思います」
高田は2016年ドラフト5位で巨人に入団した。当時、一部では高田の指名順位の低さに驚きの声をあげる者もいた。3年時には甲子園に春夏連続出場し、最速154キロを計測。ドラフト前には「2位までに消える」と語るスカウトもいた。
当の高田も「正直言ってもう少し高い順位かなと思っていました」と漏らす。それと同時に、自分の評価を知って納得できる部分もあった。
「順位が低いということは、自分の課題が多いということ。それは自分でもわかっていましたし、プロでレベルを上げて見返せばいいと思っていました」
課題は数多く自覚していたが、とくに高田が感じていたのはストレートの球質だった。スピードガンの数字こそ出ていたものの、強いシュート回転がかかり、抜け球も多かった。3年夏の甲子園初戦では、盛岡大付(岩手)の強打線につかまり、5回2/3を投げて11安打10失点でノックアウトされている。
勇んでプロ入りした高田が1年目に過ごした場所は、ほとんど三軍だった。自分より高い指名順位の選手が続々と一軍チャンスをつかむだけならまだしも、自分より下の6位指名で入団した同期生の大江竜聖は二軍で好投を重ねていた。だが、高田に焦りはなかったという。
「客観的に見ても大江は二軍で投げられるピッチャーでしたし、僕はまだそこまでじゃないなと感じていました。まずはしっかり三軍でやることを考えていました」
三軍で取り組んだのは体づくりだった。高校時代はトレーニングといえば走り込みが中心。プロに入ってウエイトトレーニングの方法から学んだ。とはいえ、プロ1年目ははっきり言ってトレーニングの効果を感じることは少なかった。明確に効果を感じるようになったのは2年目に入ってからだ。
「2年目は1年間を通じて体が強くなっていく実感がありました。体を強くしていきながら技術を高めていったことがよかったのかなと。ただウエイトトレーニングをやるだけでなく、自分の体と連動させることが大事なんだと思いました」
技術面も大きな変化があった。それまでの高田の投球フォームは、尊敬する松坂大輔をコピーしたものだった。本人は「なりきるくらいのイメージ」と言う。自分自身が松坂になったつもりで、同じようなフォームで投げていると、「松坂大輔」が憑依(ひょうい)してくる瞬間があるという。
「高校時代は松坂さんが乗り移るくらいのイメージでやっていて、それが自分に合っていると思っていました。でもプロに入って、左足を上げるときに段をつくる投げ方に変えたんです。感覚的に『一本で立つ』という軸ができて、フォームのリズムやバランスがよくなりました。指のかかりも強くなってしっくりくるボールも増えてきたし、今の自分に合うのはこの形なのかなと思います」
いわば、「松坂二世からの卒業」。高田は「自分に合ったオリジナルをつくらないといけませんから」とも語った。
しかし、高田にとって松坂が憧れの存在であることには変わらない。おそらく高田ほど2018年の松坂の復活を喜んだ人間もいないだろう。高田に松坂の話を振ると、言葉が淀みなく流れ始めた。
「本当にうれしかったですよ。僕が憧れていた頃とはピッチングスタイルは違いますけど、ランナーが得点圏に進んでからの強さとか、勝負強いところは若いときのままでした。マウンドでの雰囲気に惹きつけられるものがありますし、仕草ひとつとってもかっこいい。あらためてすごい存在だなと思いました」
松坂を敬愛するあまり、高田は大胆な行動にも出ていた。チームの大先輩である上原浩治を通じて松坂に連絡を取り、自主トレに参加したいと申し出たのだ。残念ながら多忙な松坂との都合が合わず、今オフの自主トレ参加は叶わなかったが、高田は「聞きたいことを聞かなきゃ損だと思うので」と来年以降の参加を熱望している。
今季、チームは原辰徳監督が就任して1年目になる。原監督にとっては3期目とはいえ、新監督は自分の色を出すために起爆剤となる人材を起用したくなるもの。就任直後の2018年11月8日には、東京ドームで行なわれたMLB選抜とのエキシビジョンゲームで高田を先発投手に抜擢した。
結果は3イニングを投げて7安打7失点。数字だけを見れば、2回6失点に終わった7月の中日戦と大差がないように見える。だが、高田は「内容は全然違う」と語る。
「三振を5つも取れましたし、自分の力は出せました。ただ相手がすごかっただけで」
並みいる大投手を前にしても、高田が萎縮することはない。キャンプイン前には、こんな決意を語っていた。
「不安はありません。力を出し切れたらいいなと思いますし、ダメならまた課題を潰していくだけですから。思い切ってやります」
数字の目標はとくにない。1日でも長く一軍にいたい。起用されれば先発だろうが中継ぎだろうが、何でもこなす覚悟はある。
でも……といって、高田は最後にこんな自己主張をした。
「先発にはこだわりがあるんです」
その理由は、実にシンプルなものだった。
「松坂さんみたいな先発完投できるピッチャーになりたいんです。その試合に責任を持てるピッチャーが理想ですから。自分が向いているかはまだわからないですけど、最終的にローテーションに入れるピッチャーになりたいですね」
もう松坂の力を借りずとも、自分自身の力で未来を切り拓く覚悟はできている。高田萌生という新芽が萌え出す時期は、間もなくやってくる。