2019年、中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)は二輪ロードレースの最高峰MotoGPで2年目のシーズンを迎える。今年は2年契約の節目になるため、いいパフォーマンスで好成績を収めれば自力で来季以降のシートを獲得できる反面、不甲斐ない成績なら契約を失ってしまう可能性もある。



セパンテストでは9番手の総合順位をマークした中上貴晶

 つまり、今後の道を切り開くことができるかどうかは、自分の走りひとつにかかっている。それだけに、中上は2019年シーズンを「自分のライダー人生にとって勝負の年」と位置づけ、シーズンオフから精力的なトレーニングに取り組んできた。

 2月6日から8日までマレーシアのセパン・サーキットで行なわれたプレシーズンテストでは、3日間を通じてトップテン圏内を維持し、総合順位を9番手で締めくくった。ライダー人生を左右する重要なシーズンを直前に控えた心境を、中上に尋ねた。

―― 「2019年は勝負の年」と常々言っていますが、冬のトレーニングでは今までよりも濃密なメニューに取り組んだのですか?

「去年はテスト等も含めてシーズン19戦を戦って、かなりの距離を走りましたが、フィジカル面でまだ足りていない、と感じることもありました。どれほどトレーニングを積んでも、実際にレースをしてみなければわからない部分はどうしてもあるし、疲労感が溜まるコースもあれば、予想ほど疲れないコースもあったので、1年間戦ってフィジカルが追いついていない部分に重点を絞り、冬の間にトレーニングを続けてきました」

―― 今回のセパンテストでは、去年のセパンテストと比べて体力がアップしていると感じましたか?

「それは実感できていますね。去年はMoto2から昇格して来たばかりで、身体がまだ追いついていないことを痛感しました。1年間戦ってMotoGPの身体になってきたと思うので、今年は肉体的なベースも高いところからテストを開始できたと思います」

―― 去年1年間、最高峰クラスを経験したことで、もっとも学んだことは何ですか?

「いちばんは、MotoGPに特化したライディングですね。Moto2の6年間の経験では補いきれない部分がすごくありました。

 Moto2には電子制御がなかったので、マシンセッティングと自分の乗り方に合わせ込んで走っていました。MotoGPでは、それにプラスアルファして電子制御を使えるので、それを使いこなしながら高いパフォーマンスで45分間ずっと、紙一重の操作を常に続けなければならない。それが二輪最高峰の醍醐味であり、難しさでもあると思います。

 サーキットによって選択するタイヤも違うし、制御のセッティングも違います。だから、あるコースでうまく走れたからといっても、次のコースでも同じようにうまく走れるわけではない。タイヤの消耗具合によって、スイッチを切り替えるタイミングも違います。

 トルク、エンジンブレーキ、トラクションコントロール……電子制御は人によって違うし、正解というものがないので、組み合わせは今でも難しいところがあります。今も悩みのタネですね。わかればわかるほど、さらに奥深さも見えてくる。どこまで突き詰めればいいのか、チーフメカニックやテレメトリー担当者とミーティングをしながら、日々すごく勉強になっています」

―― 今の自分に足りないものは、何だと思いますか?

「かなりレベルの高いマシン操作をしていくなかで、競り合いは常についてまわります。メンタルでもフィジカルでも、もう少しマージン、考えられる余裕がほしいなと感じました。

 去年はスタート直後からチェッカーまで、いつもいっぱいいっぱいの状態だったので、レース戦略やバトルの組み立てを考える余裕もあまりありませんでした。タイム差で見ればすぐに抜けるはずのライダーでも、抜くのに時間がかかったりして、もったいないレースをしていたなと思います。

 簡単に言えば、抜こうという相手に対して距離がありすぎたんですね。オーバーテイクするときに、たとえばチャンピオンのマルク(・マルケス)やバレンティーノ(・ロッシ)たちは、オンボードカメラで見える以上に近い距離で、相手のリアタイヤと自分のフロントタイヤの距離がほとんどないようなところで接戦をしているんです。

 自分の場合は、タイヤ1本分だったり、ひどいときは2本か3本の距離を置いて、相手のペースに合わせてしまっていました。自分の走りに自信がなかったのかな、と思います」

―― それを乗り越えるためには、何が必要ですか?

「去年の自分の問題を洗い出してみると、接戦のバトルに弱いということがわかりました。メンタルでも、あと技術面でもそうですね。去年はレースでしかバトルを勉強できなかったので、余計に時間もかかってしまいました。

 去年のライバルは、同じようにMoto2から昇格して同じホンダ陣営だったフランコ(・モルビデッリ/今季はヤマハのサテライトチームに移籍)で、彼のトレーニングを見ていると、VR46アカデミー(→バレンティーノ・ロッシが若手ライダー育成を目的として立ち上げたプロジェクト)の若手たちといつもバトルをしてトレーニングしているので、『これが自分に足りないものだ』と思いました。トレーニングでも毎日バトルをしている彼と自分の差は、そこにあるのか、と。

 スピードではフランコに劣っていない自信があるのに、レースになると彼が前でゴールするほうが多かった。つまり、レースでは自分の弱みが顕著に出ていたんですね。だから、冬の期間中はできるだけ人を呼んで接戦を取り入れるようにし、一緒にトレーニングをしてきました」

―― その経験を重ねることが、バトルの精神的な余裕につながる、と。

「去年はなぜ接戦をできなかったのかというと、相手との距離感を掴みきれずに『ぶつかってしまうんじゃないか』と考えてしまったり、相手の動きに対しても瞬時に対応できなかったりした自分がいたので、そこは認めなければいけないですね。一番の弱みだったと思います」

―― Moto2時代の中上選手は、決勝レースのグリッドにつくと、いつも優勝するつもりで臨んでいたと思います。最高峰初年度の去年は、おそらくそうではなかったようにも見えました。

「そうですね。まったく違いました。レースに出る以上は優勝が一番の目標ですが、経験や条件も含めて、常にそこを目指せる環境ではありませんでした。では、自分たちに実現できるのはどこだ、と考えたときに、『トップテンは行けるよね』ということは見えたので、シングルフィニッシュを目標にしていました」

―― ロッシ選手やマルケス選手をライバルだとは思えていなかった?

「思えていなかったですね。彼らより前にいたいけれども、経験を含めて自分は彼らに負けているという気持ちもあったし、彼らの前に出たときはサプライズでもあったので、そんな気持ちからしてすでに、彼らをライバルとしては見られていなかったですよね」

―― 1年間を戦って、今はどうですか? 今は誰をライバルとして見ていますか。

「昨年はたったひとり、『打倒モルビデッリ』だったので、かなり特化したメンタルでしたが、今年は去年よりも視野が広くなり、他のライダーにも負けたくない気持ちが強くなっています。

 たとえば、同じホンダでチームメイトでもある、一番近い存在のカル(・クラッチロー)を負かしてみたいという気持ちはすごくあります。去年はカルが僕のライディングの先生で、それは今でもそうなんですが、本当にいろんなことを教えてもらいました。彼に勝つのはもちろんすごく難しいと思いますが、だからこそ『打倒カル』の強いメンタルで臨みたいですね」

―― 今シーズンのホンダは4台体制です。ワークスチームのレプソル・ホンダ・チーム(マルク・マルケス、ホルヘ・ロレンソ)2台と、中上選手のチームメイトのカル・クラッチロー(LCR Honda CASTROL)選手が、2019年仕様のファクトリースペック。中上選手のみが2018年仕様で戦うことになります。彼らの環境と比べて、不利を感じますか?

「去年も似たような状況でしたが、たしかに不利だとは思います。でも、ホンダのバイクは17年型から18年型でかなりよくなっていて、実際に乗ってみてもそれを確認できました。

 それに、18年型はマルクのチャンピオンマシンなので、チャンスはあると思います。もちろん、全戦がチャンスというわけではありませんが、チャンスのあるコースはあると思うし、上位でフィニッシュできそうなところはしっかり結果を出したいですね」

―― HRCジェネラルマネージャーの桒田(くわた)哲宏さんに以前話をうかがったとき、今シーズンの中上選手に目指してほしいターゲットは、「予選では毎戦Q2に進出し、決勝レースはトップテン」と言っていました。自分自身では今シーズンに向けて、どんな目標を立てていますか?

「2年目なので、そこはマスト、絶対条件ですね。去年は厳しい条件でも何回か(Q1で勝ち残って)Q2へ進出できて、大きな自信になりました。バイクの性能も、ポテンシャルは高いと思います。

 今年は土曜午前のFP3までの総合順位でトップテンに入り、Q1を経なくてもダイレクトにQ2へ進出する、という去年できなかった目標をクリアしたいし、予選グリッドがよくなれば、決勝レースの組み立てや自信にもつながります。やはり、トップテンフィニッシュはマストですね」

―― 何戦目までにどんな結果、という具体的なターゲットはありますか?

「得意なヘレス(第4戦・スペインGP)はトップテンよりも上、自分の気持ち的にはトップファイブ、トップシックスを狙っています。19戦は長いけど、あっという間に過ぎてしまうので、このレースは行ける、ここのサーキットでは狙いたい、とピックアップする目標を立てて戦っていきます。

 桒田さんの話のように、トップテン圏内でフィニッシュを重ねていけばチャンスは巡ってくるだろうし、そのときにさらに光った走りで結果を残すことができれば、来季にもつながると思います。そうやって戦いながら、自分の手で来季のシートを掴み取りたいですね」