2019年シーズン、サガン鳥栖を率いることになったスペイン人指揮官、ルイス・カレーラス(46歳)。だが、その実像は…
2019年シーズン、サガン鳥栖を率いることになったスペイン人指揮官、ルイス・カレーラス(46歳)。だが、その実像はあまり語られていない。
「カレーライス」と響きが近いだけに、ダジャレばかりに引っ張られている印象だろう。carreraはスペイン語で「競争」という意味だ。そこから派生し、「キャリア」「列」という意味も含まれる。カレーラスはその複数形である。
もっとも、名前の意味を知っても彼を語ることにはならないだろう。カレーラスとは、どのような経歴の持ち主なのか?

今季からサガン鳥栖の指揮を執るルイス・カレーラス
カレーラスは現役時代、バルセロナ、オビエド、ラシン・サンタンデール、マジョルカ、アトレティコ・マドリード、アラベスなどでプレーしている。
バルセロナでは、あのヨハン・クライフの指導を受け、左サイドバックとしてプロデビューを果たした。その後、トップに定着することはできなかったものの、オビエド、ラシンという1部のクラブで試合出場を積み重ねている。そして、マジョルカ、アトレティコ、アラベスで、3度にわたって1部昇格を経験した。
2007年に現役引退後、指導者に転身している。
まずは4部のアラベスBをシーズン途中(前半戦はアシスタントコーチだった)から率いたが、地域リーグまで降格させてしまった。出足で躓くことになったが、2010‐11シーズンには、3部のサバデルを率いて、2部に昇格させている。当時、チーム得点王だったのが、指宿洋史(湘南ベルマーレ)だ。鳥栖に入団が決まったイサーク・クエンカのウィングプレーも引き出している。
「勤勉でエネルギッシュな監督」(マルカ紙)と評判は高まった。そして2011-12シーズンから2シーズン連続、しぶとく勝ち点を稼いでチームを残留させた。
ところが、そこからは苦難は続くことになった。
2013-14シーズン途中から率いた2部のマジョルカでは連戦連敗。選手の信望を失って、わずか3カ月で解任の憂き目に。チームはそのままなら降格だったが、後任監督のおかげで盛り返している。
2014-15シーズンも、途中から2部サラゴサと契約した。だが、プレーオフ圏内が目標だったにもかかわらず、圏外になってしまい、契約更新はされていない。最後の試合では選手の士気が上がらず、敵地で昇格したばかりのチームに6-2で大敗し、「恥ずべき大惨事」と地元紙に報じられる結末だった。
そして2017-18シーズンは、当時、鈴木大輔(浦和レッズ)も在籍していたヒムナスティック・タラゴナを率いたが、プレシーズンから補強を巡ってクラブと衝突。選手の求心力も欠いた。開幕から勝ち星に見放され、わずか5試合(スペイン国王杯も含む)で解任されている。
「3回続けて契約を打ちきられた監督は、国内で(同じカテゴリーで)再起するのは難しい」
それがスペインの監督のマーケットにおける、ひとつの定石になっている。中国のクラブを率いるファン・ラモン・ロペス・カロ監督なども同様だろう。2006年にレアル・マドリードの監督を解任されたあと、レバンテでは半年足らずで解任され、セルタでも成績不振でクビを切られ、さらにスペインU-21代表でも不甲斐ない結果に終わった。それ以来、国外で監督活動を続けている。
そういう意味で、2部で監督を続ける道が険しくなっていたカレーラスにも、期するものはあるはずだ。
しかし、現時点では、「未知数の監督」と言わざるを得ない。
カレーラスは、他のJ1スペイン人指導者とは違う。ミゲル・アンヘル・ロティーナ(セレッソ大阪)のように、1部での監督経験が豊富で、スペイン国王杯優勝、チャンピオンズリーグ出場などの場数を踏んでいるわけではない。また、フアン・マヌエル(ファンマ)・リージョ(ヴィッセル神戸)のように、指導論でジョゼップ・グアルディオラなど世界中の識者を魅了するような人物でもない。2人のような海外での監督経験もない。
では、なぜ鳥栖はカレーラスを招聘したのか?
「アトレティコで選手だった時代、カレーラスはFWフェルナンド・トーレスとチームメイトだった」
今のところは、そう括られても仕方ないだろう。
率直に言って、残留争いに巻き込まれていた昨シーズン終盤に鳥栖を率いた金明輝監督は、すばらしい采配を見せていた。5試合で3勝2分け、という成績だけでない。プレーも明らかに改善していた。なにより、現場の評判がすこぶるよかった。本来なら、監督として続投すべきだっただろう。
はたして、この監督登用は吉と出るのか――。サバデル時代の教え子、クエンカも引き入れた。スペイン人指揮官、カレーラスのお手並み拝見である。