北海道銀行フォルティウス吉村紗也香インタビュー(前編) 2018年平昌五輪で日本女子カーリング代表がついに銅メダルを獲得した。その代表チームであり、日本のカーリング界を大いに盛り上げたのは、ロコ・ソラーレだ。その活躍がさらに期待される一…

北海道銀行フォルティウス
吉村紗也香インタビュー(前編)

 2018年平昌五輪で日本女子カーリング代表がついに銅メダルを獲得した。その代表チームであり、日本のカーリング界を大いに盛り上げたのは、ロコ・ソラーレだ。その活躍がさらに期待される一方で、国内には”打倒・ロコ・ソラーレ”を虎視眈々と狙うチームも多い。

 その筆頭が、北海道銀行フォルティウスだ。技術、経験ともにそろった選手が並び、開催中の第36回 全農 日本選手権(2月11日~17日/北海道札幌市)でも、優勝候補のひとつだ。

 今回、そんな北海道銀行フォルティスの新たな”エース”として期待される吉村紗也香(スキップ)に話を聞いた――。



北海道銀行フォルティウスのスキップ吉村紗也香

――少し過去の話から振り返っていただきたいのですが、ご自身が本格的にカーリングの道で生きていこうと思ったのは、いつ頃ですか。

「常呂高校時代ですね。高校2年生のときの日本選手権(2009年大会)で2位になって、2010年バンクーバー五輪の(出場権をかけた)トライアルに出場したシーズンです。格上の相手にも互角のゲームができた記憶があって、オリンピックを意識し始めたのもその頃です」

――その後、札幌国際大学に進学。そこで、五輪出場も視野に入れたチームを結成するわけですね。

「ちょうど大学受験のタイミングで、大学でもカーリングを続けたいなと思っていたんです。そうしたら常呂高校時代のメンバーの何人かが興味のある学科があるということで、すでに札幌国際大学への進学を決めていて、同時に大学からも『カーリング部を創設します』というお話をいただいて、私も札幌行きを決めました」

――札幌国際大時代には、日本ジュニア3連覇を果たして、2013年世界ジュニア選手権では銅メダルを獲得しました。ただ一方で、最大目標としていた2014年ソチ五輪出場は叶いませんでした。当時の心境はいかがでしたか。

「大学時代の4年間は、そこを目指してトレーニングを積んでいたので、ショックは大きかったかもしれません。もちろん、(ソチ五輪の出場権をかけた)トライアルを勝った北海道銀行フォルティウスには、がんばってほしいという気持ちはあったんですけど、トライアル直後はニュースなどで映像を見るのはつらかったですね」

――その北海道銀行フォルティウスに加入することになりました。

「大学卒業のタイミングで、ちょうど自分でどこかの企業にお願いして、新しいチームを作ろうか考えている時期に、フォルティウスから『次のオリンピックを目指そう』と声をかけていただいて。単純に日本のトップチームから、そういう話をいただけたことがうれしかったですね」

――そこから、2018年平昌五輪を目指すことになったのですが、五輪出場は叶いませんでした。それでも昨年は、現地に行って会場で観戦してきたそうですね。

「女子の準決勝と、男子の決勝を見ることができました。試合自体は世界選手権と共通の部分もあって、氷上の選手の声が意外にも聞こえるんだという印象を持ちました。

 あとは何よりも、試合を見ているなかで、悔しい気持ちと4年後は自分がっていう気持ちがジワジワと湧いてきました。そういう意味でも、現地に行ってみてよかったなと感じました」

――そして迎えた今季、日本カーリング界の看板選手であり、チームの精神的な支柱でもあった小笠原歩さんがチームを離れました。まずは、彼女のすごさ、彼女から学んだことなどを教えてください。

「経験がとても豊富で、アイスの対応がとても早く、作戦面でもいろんなバリエーションを持っている選手です。技術的な部分、たとえば投げ方に関しても的確なアドバイスをもらいましたし、私の調子が上がらないとき、歩さんが助けてくれたりと、メンタル面でも支えてくれました。本当にたくさん勉強させてもらいました」

――小笠原さんと一緒にプレーしていた際は、吉村選手はカーリング人生で初めてスキップ以外のポジションをこなしていました。

「主にセカンド、サードでプレーしていましたが、ポジションごとに仕事があって、その積み重ねでショットがつながっていく――そのことを体験できたのはよかったですし、いい経験でした。一投ごとの重みは、スキップ以外のポジションをやってみて、あらためて学んだ気がします。

 そして、ハウスに立たない4年間はハック(※ストーンを投げるときに使用する足場)側からの景色を見ることができました。その経験から、相手にさせたいこと、させたくないことが、自然にクリアになっていった気がします。

(スキップだった)ジュニア時代は自分の作戦を実践する、自分が投げたいショットを決める、そのことだけに集中していましたが、今は相手のチームと選手の特徴、どこが強くて、どっちのターンが得意で、どのショットは決めてくる、といった相手についての観察や分析も意識するようになったかもしれません」

――新生チームは今季、これまで参加したすべての大会でクオリファイ(決勝トーナメント進出)を決め、ワールドツアーのグランドスラムにも2大会出場しました。好調の要因はどこにあるのでしょうか。

「ポジションが変わり、あらためて基礎から見直して練習してきました。その結果、選手個々のショットの安定性が出てきたのだと思います。

 あとは、選手間のコミュニケーションが細かくなりました。スイープひとつにしても、どっちからどの角度で(氷を)履くかなど、1回のスイープ間の短い10数秒間でも『もっとこうしてほしい』と、みんながアイス内外に関らず、意見を出し合っています。

 カナダの大会など、男子選手が隣のシートで試合をしていると、自分たちの声をかき消されてしまうケースもあるし、世界選手権やオリンピックではスタンドからの歓声で、指示が聞こえないことがあるかもしれない。ジェスチャーなども含めて、いろいろ考えながらやっています」

――昨年11月には、ワールドツアーのOakville Fall Classic(カナダ)で優勝。カテゴリーは劣るものの、グランドスラムのTour Challenge Tier2にも出場しました。

「隣り合わせの会場なのに、派手なスポットライトが当たるTier1の大会に比べると、Tier2の大会はちょっと薄暗いシートで行なわれたりして、Tier1の環境とはけっこう格差があるんだな……と(笑)。でも、それを知ることができたのもいい経験でした。いずれにしても(世界の強豪が集う)この場に立ち続けたい、そう強く思いました」

――そうしたワールドツアーの結果について、どんな手応えを感じていますか。

「良い内容のゲームもたくさんありましたが、満足はしていません。どの大会でもやっぱりクオリファイしてから、もうひとつ、もうふたつ、勝っていきたいです。

 良くも悪くも、上に行けば1本のショットで勝敗が決まってしまうゲームが増えてくる。そこを、どうクリアするか。チームとしてもっとよくなるだろうという実感もあるし、自分もどんな場面でも(狙ったショットを)決められるようにならないといけない」

――今季から5ロックルール(※)が本格導入されました。これまでと、作戦面での変化はあったのでしょうか。
※=フリーガードゾーンにおけるルール改正。これまでは、両軍が投じたリードの4投がハウスにかからないガードストーンとなった場合、セカンドの1投目からテイクが可能だったが、そのセカンドの先攻の1投目、つまりエンドごと5つ目の石まで、テイクが不可になった。

「求められる作戦も変わってくるので、イチから作戦を練り直す必要がありました。作戦によっては複数点を取りやすくなりましたし、スティール(※不利な先行時に得点すること)の可能性が高くなりました」

――これまで、序盤で3点差がついたら大勢が決まっていた試合でも、最後までどうなるかわからなくなった、と。

「(3点差あっても)ぜんぜん逆転されちゃうし、反対にリードされていても最後まで逆転が狙える。そういう意味では、面白いし、怖いですね。アイスによっても攻め方を変えないといけないので、ショット選択のバリエーションは増えたと思います。たとえば、ウィック(※フリーガードゾーンにあるストーンに当てて位置をずらす、難易度の高いショット)も、序盤、中盤で必要になってくるケースがあります」

――そうなると、リードの船山弓枝選手のウィックが楽しみですね。

「はい、すごく上手なんです。ぜひ、全日本(日本選手権)では弓枝さんのウィックに注目してください」

――その日本選手権でも、ライバルとなるロコ・ソラーレとは12月にワールドツアーのBoost Nationalで対戦しました。日本勢同士がグランドスラムで対戦するのは、史上初の快挙でした。

「相手がどこだからと、とくに構えていたわけではないのですが、グランドスラムという舞台で、ロコと試合ができたのはうれしかったですね。『日本にもたくさんいいチームがあるんだ』ということを知ってもらえるように、これからもがんばりたいです」

――その試合では、惜しくも敗れてしまいました。

「昨季、ロコとは対戦する機会がなくて、軽井沢で行なわれた全日本(2017年2月)以来の対戦で、とてもワクワクしました。ラストロックでゴミが噛んだりして、不運もあったんですけど、(日本選手権でライバルとなる)ロコと、あのタイミングで、それもグランドスラムの舞台でゲームができたのはよかったです」

――日本選手権へ向けての抱負を聞かせてください。

「リードの弓枝さんがしっかりセットアップしてくれて、パワーのあるセカンド、サードで形を変えることができる。それが、今のチームの大きな武器になっています。(日本選手権でも)いいゲームができると思います。

 私個人としては、粘り強さ、最後の1投まであきらめずに勝機を探る姿を見せたいです。これまでは淡々とプレーしていた部分もありますが、多少、泥臭くてもいいので、最後まで目が離せないような試合をみなさんに見てもらえたらうれしいです。

 チームは試行錯誤を繰り返しながらも、いい状態で全日本を迎えることができました。地元開催の今年は優勝して、お世話になったみなさんに、成長した姿を見てほしいと思っています」

(つづく)


吉村紗也香(よしむら・さやか)
1992年1月30日、北海道北見市常呂町出身。小学4年生からカーリングをはじめ、常呂高校時代から日本選手権の表彰台に立つなど、若くから頭角を現す。札幌国際大学時代には日本ジュニア選手権で3連覇を達成し、2013年の世界ジュニア選手権では銅メダルに輝く。2014年から北海道銀行フォルティウスに加入し、今季からスキップを担う。