東海大・駅伝戦記 第46回 東海大の新キャプテンに、館澤亨次(たてざわ・りょうじ/3年)が就任した。 東海大の場合、キャプテン候補の選手には、覚悟と自覚を2、3年時から持たせるようになっている。現キャプテンの湊谷春紀も3年生時に内定し、…

東海大・駅伝戦記 第46回

 東海大の新キャプテンに、館澤亨次(たてざわ・りょうじ/3年)が就任した。

 東海大の場合、キャプテン候補の選手には、覚悟と自覚を2、3年時から持たせるようになっている。現キャプテンの湊谷春紀も3年生時に内定し、前キャプテンの春日千速(ちはや/現ヤクルト)のやり方を見て学んできた。

 だが、館澤らの代は、最初、キャプテン候補がなかなか見えなかった。なんとなく候補者が見えてきたのは、昨年の秋だった。もともと館澤は学年リーダーだったが、同学年の關颯人(せき・はやと)が「うちのボス」と館澤を呼んでいたこともあり、「館澤かなぁ」という空気は感じていた。



東海大の新キャプテンに就任した館澤亨次

 しかし館澤に「来年はキャプテンだね」と話を振ると、「いやー、3年生にはいい人材がたくさんいるので、自分なんかは……」とニコニコしながらも、当時はやんわり否定していた。

 今年1月、初優勝を飾った箱根駅伝直後、3年生が集まりキャプテンと新体制について話し合った。

 その際、館澤と西川雄一朗がキャプテン候補として上がった。最終的に館澤が選ばれ、同学年の仲間から承認された。両角速(もろずみ・はやし)監督は以前から「館澤キャプテン」を想定しており、その決定にとくに驚きはなかったという。

「館澤は、春日や湊谷とは違うタイプ。自分らしく引っ張っていってほしい」

 両角監督は、館澤への期待を隠さない。

 キャプテンだった春日、湊谷は性格的におとなしく、自らグイグイ引っ張っていくタイプではなかった。それでも湊谷はチームをまとめ、箱根駅伝初優勝のキャプテンとして部の歴史に名前を刻んだ。だが、言葉よりも背中で引っ張る姿に、両角監督も「チームを引っ張っていくことの物足りなさはある」とこぼしていた時期があった。

 館澤は、前任者たちとちょっとタイプが違う。明るく、熱く、真っ正直な男で、昨年、出雲駅伝で敗れた時は人目をはばからず悔し涙を流した。また、合宿では全体練習のあとにホテルまでジョグで帰り、夜は低酸素テントに入って睡眠を取るなど、競技者としての意識も高い。ウエイトトレーニングも率先して取り入れており、その肉体は短距離選手のように磨かれ、まるでギリシャ彫刻のようだ。

 そんな館澤だが、キャプテン就任については、非常に謙虚だった。

「僕は歴代のキャプテンに比べると、力が劣っている部分があるんです。だから、自分が引っ張っていくというよりも、みんなに協力してやってもらいたい。頼りないキャプテンだけど、みんなの力を借りながら全員で動かしていけるチームづくりをしていきたいですね。そういうチームが本当に強いチームになると思うんで……」

 館澤たちの代は”黄金世代”と呼ばわれている。野球に例えると、甲子園に出場した全国各地のエースが東海大に集結したという奇跡的な代である。選手たちは高い競技力を持ち、個性も非常に強い。これまでのキャプテンも、彼らのハンドリングについて苦労することもあった。

 だが、今度は最上級生として、黄金世代の彼らがチームの舵取りを任されることになる。館澤は、強烈な個性を持つ同期の仲間たちをどうまとめていくのか。

「個性が強いからといって、僕は心配していません。みんな最上級生になるという自覚が出てきています。ひとりひとりがチームを動かしているんだという自覚を持っていけば、いい方向に個性が発揮されると思います」

 黄金世代の選手は、駅伝だけではなく個々の種目でもトップレベルの力がある。館澤もそのひとりで、1500mは関東インカレと全日本選手権で2連覇中だ。

 昨年は日本代表としてアジア大会にも出場し、1500mでは日本の第一人者になりつつある。そのために駅伝はもう走らず、「1500mに集中か?」という話が流れたが、「それはないですよ」と館澤は一蹴した。

「なんか自分は駅伝をやらないみたいになっていますが、まったくそんなことはないです。自分は駅伝と1500mを両立して、秋の駅伝シーズンまでは1500mを頑張ります。来年は東京五輪がありますし、そのステップとしてドーハでの世界陸上に出場したい。今年はキャプテンなので、チームに勢いをつけられるような成績をトラックで残して、駅伝シーズンに臨みたいと思っています」

 両角監督も「彼のなかでうまく両立することを昨年ぐらいから掴んできている」とまったく心配していない。

 館澤自身、1500mをしっかりこなすことが駅伝にもつながるという手応えがある。実際、今年の箱根では4区を走り、東洋大の相澤晃(3年)に次ぐ区間2位という結果を出し、チームの初優勝に貢献している。

「1500mをはじめ中距離と、20キロを走る駅伝ではまったく距離が違うけど、両立はマイナスにならないですね。箱根駅伝は、今は高速レースになり、中距離で培ったスピードや筋力、走力が生きてくる。今年も1500mをしっかりやって力をつけて、箱根駅伝に生かしていきたいと思いますし、次こそは箱根で区間賞を獲りたいですね」

 館澤は、その1500mの力をつけるために、1月30日からアメリカでの合宿に入った。昨年も同時期に關、鬼塚翔太、阪口竜平らとともに2カ月間トレーニングをしていたが、今年は海外トップクラスの選手が出場するレースに挑戦するなど、昨年以上に意欲的に合宿をこなす予定だ。

「昨年アジア大会に出場して、まったく通用しなかった。このままじゃ世界に通用しないので、日本記録を塗り替え、さらに世界と戦うために必要なヒントをこの合宿で得たいなと思っています」

 そして館澤のキャプテン就任とともに、2019年度の東海大のチーム目標が決まった。

「今年は”学生駅伝3冠”です。昨年は出雲3位、全日本2位、箱根駅伝1位と徐々に上がっていったんですが、今年はすべて1位を獲りたいと思っています。それができるだけの選手がいるし、今後を考えるとそれくらいの結果を残していかないといけない」

 この目標は、館澤が考えている今年のテーマにもつながっている。

 例年、東海大は目標とともにテーマを掲げている。昨年でいえば、目標が「学生長距離5冠」であり、テーマは「速さを強さに」だった。今年の目標は「学生駅伝3冠」だが、じつはテーマはまだ公表されていない。館澤が説明する。

「テーマは、もう話し合って方向性はほぼ決まっています。今までは駒澤大学が”平成の常勝軍団”と言われていたんですが、次の新元号で自分たちが常勝軍団になりたい。まだ1回勝っただけですけど、今年は常勝軍団になるための1年であり、3つ勝って、勢いをつけられるシーズンに……。後輩たちがそれを引き継いでくれるよう、そして東海大が常勝軍団として言われ続けるように願いを込めて、新元号が発表されたら”その元号の常勝軍団へ”をテーマに頑張っていきたいですね。それまでは”新時代の常勝軍団へ”というテーマでやっていこうと思っています」

 それを聞いた両角監督は、「もう少しモチベーションになるようなテーマがいいかな」と苦笑したが、4月にはテーマが決まることになる。

 館澤は新キャプテンとして、4月からまずトラックでの結果が求められる。結果とタイムが絶対的な陸上界において、それが一番の説得力になるからだ。そうして黄金世代の先頭に立ち、チームをひとつの方向にまとめることができれば、”学生駅伝3冠”は決して困難なミッションではない。

 はたして、今年は館澤のくしゃくしゃの笑顔が何回見られるだろうか。